アニメ三銃士

Column50 独自考察・はだしのジャンの物語

アニメ三銃士』に関する独自考察のコラム第2回目。
前回の鉄仮面に続いて、今回は「はだしのジャン」についてです。

はだしのジャンは原作小説にはモチーフとなるキャラも存在しない『アニメ三銃士』の完全オリジナルキャラです。パリに上京したばかりのダルタニャンと出会い、友として相棒として全編に渡って活躍します。
視聴者の子供たちにとってダルタニャンが憧れのヒーローだとしたら、ジャンは分身。ジャンの姿に自身を投影して、その活躍に胸躍らせていたことでしょう。その意味でも『アニメ三銃士』におけるオリジナリティの象徴であり、作品人気に大きく貢献したキャラクターです。
そして、そんなジャンにモチーフになった歴史上の人物がいたことを、どれだけの人が知っているのでしょうか。それは一体どんな人物だったのでしょうか。今回は「はだしのジャンの物語」を紐解いてゆきましょう。


■「はだしのジャン」のお父さん
はだしのジャンの存在は、作品の「翻案」を務めたモンキーパンチ先生のインタビューでも強く語られています。以下は放送当時に刊行された『別冊アニメディア アニメ三銃士 PART1』(学習研究社:1988年8月発行)からの引用です。

オリジナルキャラクターのジャンも、本当は実際の歴史上の人物なんだよね。はだしのジャンというあだ名しかわからないんだけど、農民側の出で、いつも農民を背中にしょって地主と対抗したという。で、その人の幼年時代を入れてみようかってね。まあ、歴史を知っている人が見れば、「あーあ、あの人物か」って分かるから、一つの隠し味みたいなものだね。

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パンチ先生が「隠し味」と語るようにルイ13世やアンヌ王妃やリシュリューに比べたら、知名度は圧倒的に劣ります。それでも「反乱の指導者」として歴史上にある程度は名前が残っているようです。かく言う僕も放送当時、学校の図書室にあった世界史の本(対象年齢は小学校高学年向け)を調べたところ、ルイ14世時代の最初期に「はだしのジャンと呼ばれる謎の人物が反乱を起こした」と記されており、当時の不安定な政情を象徴する存在だったようです。
しかし、名も無き人物故の悲しさか、古今東西のあらゆる知識が集まる某フリー百科辞典には"歴史上の"はだしのジャンに関するページは、残念ながら存在していません(※本記事公開時点)。


■歴史上の「はだしのジャン」
それでは歴史上の「はだしのジャン」とはどのような人物で、彼が起こしたとされる反乱とは、一体どの様なものだったのか。概要をまとめて整理すると、以下のようです。
1639年(『アニメ三銃士』の時代=1625年から14年後)の7月にノルマンディー地方のアブランシュ市で、重税に反対する一揆が発生。その反乱は「裸足(ニュ=ピエ)の乱」と呼ばれ、同年8月には暴動が周辺の都市と農村に波及し。やがてノルマンディー全域からパリ地方へ及びました。
一揆勢の多くは農民など庶民だったが、中には没落貴族や下級司祭もいたという混成ぶり。その頭目こそが「裸足のジャン(Jean Va-Nu-Pieds)」と呼ばれる謎の人物だった。実際は特定の個人ではなく、リーダー的な役割を担う複数の人物が名乗っていたと推測されます。
しかし同年11月になって軍勢が派遣されると反乱も鎮圧。一揆勢の首謀者も尽く処刑されたというので、「裸足のジャン」を名乗っていた人物"たち"も残らず処刑されたと推測されます。その結果、素性も分からず名前も分からない「謎の人物」として語り継がれることになったようです。


■生まれ変わった「はだしのジャン」
そんな「裸足の乱」から400年近く経った今、人々は「はだしのジャン」と聴けば何を思い浮かべるでしょうか。
今ではネットで「はだしのジャン」を検索すると、「裸足の乱」の指導者よりも『アニメ三銃士』のキャラクターの方が遥かに多く出てきます。これは「裸足の乱」やその指導者の存在が埋もれてしまったことを意味するのでしょうか。否、新たに生まれ変わったと言うべきでしょう。
民衆の不平不満という負の感情を背負い、反乱の首謀者として名前も残せず人生も語られることも無く処刑された人物が、遥かな時を経て『アニメ三銃士』という作品の中で新たな命を与えられた。それも今度は作品を愛する人々の想いを託され、主人公のダルタニャンと共に活躍する。そして作品が完結して30年以上経った今でも、ファンの心の中で生き続けている。
そんな今にこそ「はだしのジャン」は新たな名前と人格を得て、彼自身の人生を歩み続けていると言えるでしょう。


■大人になった「はだしのジャン」
さて『アニメ三銃士』のはだしのジャンは、物語の完結後にどんな成長を遂げて、どんな大人になって、どんな人生を歩んだのでしょうか。
劇中でも度々描かれていた貴族たちへの反発心が肥大化して、史実のように反乱を起こしてしまうのでしょうか。そしてダルタニャンや三銃士と袂を分かち敵対して、史実のように反乱の首謀者として非業の最期を遂げてしまうのでしょうか。
否、断言しましょう。そんなことは起こり得ないと。
ジャンは完結編の『アラミスの冒険』で長年探し求めていた生き別れの母・カトリーヌとも再会を果たしました。エンディングでは母と共にパリで暮らす姿も描かれました。もちろん、その傍らにはダルタニャンと三銃士の姿がありました。
恐らく、いやきっと、ジャンは彼らと共にパリで幸せな人生を送ったはずです。テレビシリーズ最終回で与えられた「仕立て屋ボナシューの一番弟子」の通り名を実現すべく仕立ての腕を磨いたことでしょう。やがて一人前の仕立て屋となり「はだしのジャン」ならぬ「仕立て屋ジャン」となり、反乱などとは無縁の日々を送ったはずです。そして傍らには、少年時代に出会ったコレットが寄り添っていた。…と、一介のファンである僕は想いを巡らせています。
もちろん、人生が万事順調にゆくとは限りません。辛いことや苦しいこともあるはずです。でも、ジャンは決して挫けることは無かったはずです。なぜならダルタニャンと交わした約束があるからです。

ダルタニャン「ジャーン!どんなことがあっても挫けるんじゃないぞーっ!」
ジャン「分かってるさーっ!」

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