アニメ三銃士

Column51 愛・アラミスの旅立ち(前編)

アニメ三銃士』に関するコラム。直近2回は独自考察として鉄仮面にはだしのジャンと、作品のオリジナリティを象徴するキャラクターを紹介しました。
そして今回は満を持して、『アニメ三銃士』を『アニメ三銃士』たらしめている最大のオリジナリティである「三銃士のアラミスが実は女性」という設定にスポットを当てます。



今回紹介するのはテレビシリーズ放送中に刊行された『別冊アニメディア アニメ三銃士』に掲載されたオリジナルストーリー『愛・アラミスの旅立ち』です。シリーズ全作で脚本を手掛けた田波靖男さんの筆と、主要エピソードで作画監督を務めた辻初樹さんによる挿絵で、全8ページながらもアラミスの過去を濃密に描き出しています。
執筆時期の関係か、内容にはテレビシリーズとの矛盾があったり、その一方で後に公開された劇場版にも通じるシーンがあったり、こちらも『アニメ三銃士』という作品を語る上で欠かせないピースとなっています。


そんな『愛・アラミスの旅立ち』を2回に分けて紹介します。


■Data■
アニメ三銃士 マル秘オリジナルストーリー 愛・アラミスの旅立ち』
掲載:「別冊アニメディア アニメ三銃士 PART1」
発行:1988年8月6日
作:田波靖男
絵:辻初樹


■Introduction■

"何故アラミスが男に変装してまでも銃士隊にいるのか!?"
誰もが知りたかった神秘のベールを、本誌独占ノベルが克明に明かす!!
テレビシリーズ後半の核心にもつながる、衝撃の事実だ……。



■Story■
それはアラミスが、まだ「ルネ」という名前で後見人である伯父の元で暮らしていた頃…。


ある日、ルネは駿馬を駆り遠乗りへ出かけた。そして以前より気にかけていた森外れの廃修道院へ向かうが、そこはいつの間にか高い塀に囲まれた館になっていた。
ルネは引き返して再び森の中を駆け出すが、突然銃声が響く。そして乗っていた馬が驚いた拍子に、ルネは落馬し気絶してしまう。


ルネが目を覚ますと、件の館の一室で青年に介抱されていた。その青年・フランソワは銃を撃ったのは自分だとルネに詫びる。しかしルネが館やその主人について問いかけても、さる高貴な方としか答えなかった。


ルネはフランソワに送られて館に戻った。それ以来、ルネはフランソワのことを想い続けるようになる。そして意を決して、再びフランソワに会うべく館へ向かった。
ルネが門の鉄柵越しに館の庭を覗くと、フランソワの主人らしき人物を見かける。ルネはその人物に何故か見覚えを感じるが、直後に別の男に呼び止められる。ルネがフランソワを訪ねに来たことを伝えると、その男・アンドレ卿はフランソワを呼び出し、外の者であるルネを入れていたことを咎める。


フランソワはルネに、主人のことは決して口外しないよう、そしてもう館へ来ないよう告げる。それでも会いたいというルネに応え、フランソワの方から会いに行くことになった。


それからルネとフランソワは森の中で逢瀬を重ね、会えない時は木の洞に手紙を入れて交換し、愛を深めていった。やがて結婚を誓うようになり、証としてフランソワは母の形見の指輪を、ルネはペンダントを、互いに贈りあった。


(続く)


■Dialogue/Monologue■

男爵「あの子が女に生まれついたなんて、神もときには、まちがいをなさるとみえる」

物語の冒頭。ルネは買ってもらったばかりの駿馬に跨り、馬丁の制止を振り切って駆けだす。それを見た男爵は驚きもせず、いつもの事と言わんばかりにこうつぶやく。
伯父として幼い頃から見守っているであろう人物の言葉が、ルネが生来男勝りのお転婆であることを物語っている。

男爵「お前のような若い娘が、一人であんなところに行って、なにかあったらどうする。わたしは後見人として、亡くなったお前の両親に、なんと詫びてよいか…」
ルネ「なにもあるはずないわ。伯父さまは狩りでのわたくしの銃の腕前をよくご存じでしょう。馬だってわたしに追いつける者は、このあたりに一人もいないわ」

物語開始時点から半年前の、男爵とルネの会話。「あんなところ」とは森の外れにある廃修道院のこと。一度通りかかった時に心魅かれて何度か足を運ぶようになったという。
銃や乗馬の腕前を自負するだけでなく、男ですら尻込みするであろう場所に心魅かれたことも、ルネの女性離れした胆力や好奇心を感じさせる。
また男爵のセリフから、ルネの両親は共に他界していることが分かる。両親がどのような人物かは全く語られないのは、ページの都合とはいえ残念。

ルネ「ここはあなたのお邸ですか」
フランソワ「いいえ。わたしの主人のです」
ルネ「ご主人のお名前は」
フランソワ「申しわけございませんが、事情があって明かすことはできません。さる高貴なお方だとだけ、申し上げておきましょう」

ルネとフランソワの出会いのシーンより。しかし初対面からフランソワが語る「事情があって明かせない主人」の存在が、二人の運命を大きく左右することになる。

アンドレ卿「きみは、この人をこの間、邸に入れたそうだが」
フランソワ「は、はい」
アンドレ卿「軽率すぎるぞ。外の者は誰も入れるなと言ってあるだろう」
フランソワ「申しわけございません。でも、このお嬢さんはわたしのせいで落馬したので……手当をしなければと思って」
アンドレ卿「すぐに帰ってもらうのだ。この邸で見たり聞いたりしたことを、決して口外しないようによく注意してな」

本作のオリジナルキャラであるアンドレ卿のセリフ。
実はアンドレ卿が登場するのはこのシーンのみだけど、ルネを怒鳴りつけて呼び止めたり、フランソワの弁明を意に介さないなど、とても厳格な人物であることが窺える。

フランソワ「ご主人の小さいときからの後見人のアンドレ卿だ。ご主人は父親のように慕い信頼なさっている」

フランソワがルネに語った、アンドレ卿の評。ルネやフランソワに対する厳格さも「ご主人」への忠誠心ゆえなのかもしれない。
それだけに(後付け的なオリジナルキャラなので仕方ないけど)本編では「ご主人」から存在すら語られないのは、どうしても違和感を感じてしまう。

フランソワ「見たのかい」
ルネ「ええ。わたし、あのお方のお顔はどこかで、お見かけしたような気がするのだけど」


フランソワ「そのことは誰にも言ってはいけないよ。そして、なるべく早く忘れてしまうのだ」
ルネ「なぜなの」
フランソワ「なぜでもいい。あなた自身のためだ。そして二度とこのあたりに来ないように」
ルネ「もう、わたしのことがきらいになったの」
フランソワ「どうして」
ルネ「さっきは来てくれてうれしかったと言ったくせに」
フランソワ「うれしいさ」
ルネ「だったら……」

ルネが鉄柵越しに遠目で見た「ご主人」について話した途端、フランソワは顔色を変えて強く口止めして、二度と館へ来ないように告げる。
それでも無理やり追い返すどころか、ルネの想いに応えようとして悩むあたり、フランソワもルネに心魅かれていることが現れている。

フランソワ「男爵は許してくれるだろうか」
ルネ「もちろんよ。反対する理由はないわ。あなただって、高貴なお方にお仕えする、立派な身分なのでしょう」
フランソワ「だが今、その方の名前を明かすことはできない」
ルネ「でも、いつまでもというわけではないのでしょう」
フランソワ「それはそうだが……いつになることか」

逢瀬を重ね、心を通わせ、将来を誓い合うようになったルネとフランソワ。それでもなおフランソワは主人の正体をルネに明かそうとしなかった。
自分に心を開いてくれたはずのフランソワが、今なお自分に隠し事をしている。そんなルネのもどかしい気持ちと、隠し事をせざるを得ないフランソワの苦悩が感じられる。

フランソワ「亡くなった母が父から贈られた婚約指輪だ」
ルネ「まあ、そんな大切なものをわたしに」
フランソワ「大切なものだから、一番大切な人にあげるのさ」
ルネ「それでは、わたしもこれを。わたしの絵姿が入っているの」

将来を誓い合ったルネとフランソワは、互いに大切な物を送りあう。フランソワが送ったのは母の形見の指輪。そしてルネが送ったのは、自らの絵姿がペンダント。
このペンダントがルネの、そして"銃士アラミス"の運命を左右するとは、まだ知る由もない。


■Explanation■
本作が発表されたのは「鉄仮面編」が始まったばかりの頃。既にアニメ情報誌で「アラミスの過去に関わる人物」として紹介されていたフランソワや、キーアイテムとなる首飾りが出てきたり、これから放送される「鉄仮面編」の秘密がネタバレ上等とばかりに描かれています。また、劇場版『アラミスの冒険』で描かれたルネとフランソワの出会い(フランソワによる銃声でルネが落馬する)が本作で先んじて描かれているなど、劇場版への橋渡しともなっています。
一方で、アラミスの伯父にして後見人である男爵や、フランソワの上司にして「ご主人」の後見人であるアンドレ卿など、アニメ本編では存在すら語られない人物も登場。彼らがアニメ本編の時期にはどこで何をしていたのか等、想像を掻き立てられます。


そんな本作の読みどころは、何と言ってもアラミス本来の姿である"ルネ"のキャラクター。冒頭から駿馬を駆って、人が寄り付かないような森外れの修道院へ行くお転婆ぶりを披露。まさに「銃士のアラミスの若き日」に相応しい快活さが描かれています。
そんなルネが落馬によるハプニングを経て、フランソワに一目惚れ同然に心魅かれる。アニメ本編では観られない、"ルネ"としての恋する少女らしさが描かれています。


もう一つの読みどころはフランソワの描写。アニメ本編では故人のため、その人となりは過去のシーンや他者のセリフで断片的にしか描かれていません。しかし本作では落馬したルネを館で介抱したり、半ば強引に押し掛けてきたルネの想いに応えたり。一方では仕える「ご主人」のことを明かせずに苦悩したり。ルネとの出会いを通して誠実で実直な人柄が描かれています。


ルネは運命的にフランソワと出会い、将来を誓い合うようになりました。しかし更なる運命の悪戯がルネに訪れますが、それは後編にて…。


(記:2021年09月12日)