アニメ三銃士

Column38 語ろう!『アニメ三銃士』(スタッフルーム通信編5 -脚本 田波靖男-)

『別冊アニメディア アニメ三銃士 PART1』からの証言特集。今回はメインスタッフ陣のインタビュー記事「スタッフルーム通信」の第5弾です。

今回紹介するのは全52話の脚本を手掛けた田波靖男さん。それまでは『若大将』シリーズやクレイジーキャッツの『日本一』シリーズなど実写作品を主に手掛けていた田波さんが、『アニメ三銃士』を手掛けるに至った経緯。ひいては『アニメ三銃士』の立ち上げについても語られる、大変興味深いインタビューになっています。

●脚本 田波靖男


僕は前から、NHKのラジオドラマの『草吹童子』や人形劇の『三国志』『紅孔雀』などの脚本を書いていまして、担当のプロデューサーの久保田さんと、何か世界名作みたいなものを作りたいね、と話したのが、この『三銃士』の始まりというか、きっかけになったのだと思っています。
書いていて、最初の方の話数は、やはり苦労しますよね、初めに決めたことが後にずっと尾を引くから。でも、最後の方の話を書く時は、一週間に一本の割合でした。全体的に、書いていて宮廷の裏話や陰謀話は抜かせないんですよ。でも、そればかりに終始しちゃうとおもしろくない。やっぱり街の人々がからむシーンは人物に躍動感があってイキイキするので、ジャンやボナシューたちが自由にからんでいるシーンがおもしろかったような気がします。
個人的に好きなキャラは、やっぱりダルタニャンですね。無邪気で無鉄砲な青年が好きです。あと、ちょっぴり好きなのがミレディー。こういうお話は、敵役に魅力がないとおもしろくならないので、ミレディーをどう魅力的に書くかに力を入れたところはあります。
まあ、アニメ化にあたって、原作の『三銃士』を大胆に脚色している部分もあるので、これを足掛かりにして、ぜひデュマの原作をお勧めします。その頃の生活がわかって非常におもしろいですよ。


PROFILE
昭和8年12月12日東京都生まれ。若大将シリーズ等多数の映画を手掛け、『大爆発』でプロデュースも。各ジャンルで作品を発表。著書に、『ぼくたちの戦争』等。

アニメ三銃士』の立ち上げは、NHKのラジオドラマや人形劇を共に手掛けた久保田Pとの会話が切っ掛けとのこと。アニメの仕事は前年(1986年)放送の『剛Q超児イッキマン』にて「たなみやすお」名義で原作を手掛けているので、ちょうどアニメにも仕事の手を広げようとしていたのでしょう。
脚本を書く上での苦労は「初めに決めたことが後にずっと尾を引く」ということ。特に『アニメ三銃士』は全52話という長丁場なので色々と大変だったと思われます。それでも慣れてきたら「一週間に一本」という順調な(と思われる)ペースになったのはさすが。また「最後の方」という言葉から察するに、このインタビュー時点(1988年夏頃)では最終回までの脚本は書きあがっていたようです。


好きなキャラとして「無邪気で無鉄砲な青年」であるダルタニャンを挙げたのも興味深い。田波さんの代表作である『若大将』シリーズや『日本一』シリーズで描き続けた、加山雄三クレイジーキャッツ植木等さんが演じる元気でエネルギッシュな主人公像を踏襲させたのかもしれません。
また、「敵役に魅力がないと〜」と語っているので、シリーズ後半登場した鉄仮面やマンソンを描く時にも、さぞ力が入ったことでしょう。


このインタビューが収録されている『別冊アニメディア』には、田波さんが書き下ろしたショートストーリー『愛・アラミスの旅立ち』が収録されています。そのタイトルが示すようにアラミスが「ルネ」だった頃の、フランソワとの愛と別れが描かれています。実はこちらも「初めに決めたことが〜」の言葉が示すように、テレビシリーズで描かれた内容と微妙な齟齬が散見するのですが、まぁご愛嬌ということで。
『愛・アラミスの旅立ち』についてはいずれ、当Blogで紹介する予定です。


田波さんは『アニメ三銃士』終了後も『ふしぎの海のナディア』『ヤダモン』『忍たま乱太郎』などNHKアニメの他、『美味しんぼ』や『笑ゥせぇるすまん』など人気アニメの脚本を手掛け、2000年3月21日に惜しまれつつ享年66歳で他界されました。
今では「若大将やクレージーキャッツ映画の脚本家」として語られる事が多い田波靖男さん。活躍の場をアニメにも広げる切っ掛けとなった『アニメ三銃士』はキャリアの転換期に手掛けた、記念碑的な作品とも言えます。
その『アニメ三銃士』が放送30周年を経た今でも多くのファンに愛されている。その様子を田波さんは、天国から喜びながら見ていることでしょう。