アニメ三銃士

Column53 愛・アラミスの旅立ち(解説編)

アニメ三銃士』に関するコラム。直近2回は『別冊アニメディア アニメ三銃士 PART1』掲載のオリジナルストーリー『愛・アラミスの旅立ち』を紹介してきました。今回はその解説編です。



djpost1987.hatenablog.com
djpost1987.hatenablog.com


『愛・アラミスの旅立ち』ではアラミスがまだ「ルネ」だった頃の姿や、フランソワとの運命的な出会い。そして悲劇的な別れを経て「銃士アラミス」の誕生へと至る物語が描かれました。その中でアニメ本編に登場しないキャラクターや、作品世界の雰囲気が感じられるキーワードが登場したので、以下に紹介します。


■Data■
アニメ三銃士 マル秘オリジナルストーリー 愛・アラミスの旅立ち』
掲載:「別冊アニメディア アニメ三銃士 PART1」
発行:1988年8月6日
作:田波靖男
絵:辻初樹


■Introduction■

"何故アラミスが男に変装してまでも銃士隊にいるのか!?"
誰もが知りたかった神秘のベールを、本誌独占ノベルが克明に明かす!!
テレビシリーズ後半の核心にもつながる、衝撃の事実だ……。



■Character■
ルネ
アラミスのかつての姿。本作ではフランソワとの出会いと別れを経て、その仇を討つべく故郷を旅立ち、パリで銃士アラミスとして新たなる人生を歩む。
作中では男爵からは「女に生まれたのは神様の間違い」と評されるほどのお転婆ぶりだが、フランソワと出会ったことで恋する女性へと一変する姿が描かれている。
ちなみにテレビシリーズ51話ではダルタニャンに「フランソワの亡き後、別の貴族と結婚させられそうになったので家出した」と語っていて、フランソワとの婚約も家が決めた事が示唆されているが、本作と劇場版では設定変更されている。
また劇場版によると故郷は「ノワージ・ル・セック村」なので本作の舞台も同地と思われるが、作中では村の名前は出てこない。


フランソワ
ルネの婚約者であり、国王の双子の兄弟・フィリップに使えていた貴族。テレビシリーズではフィリップの家庭教師として剣術・馬術・学問を教え、フィリップからも「私の唯一の、そして最高の友だった」と語られている。
作中では自身の銃声で落馬したルネを介抱したことから、ルネに想いを寄せられるようになる。やがて両想いとなるが、主人であるフィリップの秘密を明かせずに苦悩する。そして秘密を明かして近い将来の結婚を約束するが、その矢先に館を襲った賊に殺されてしまう。
劇場版には父のダニエル卿が登場する。母親は既に亡くなっており、その形見の指輪をルネに贈っている。


男爵
本作のオリジナルキャラクターで、ルネの伯父(=両親の兄)。既に両親を亡くしたルネの後見人でもある。なお「男爵」は持っている爵位と思われるので、彼自身の名前は不明。
ルネのことを何かとに心配しており、そのお転婆ぶりを窘めたり、フランソワとの仲を問い詰めたり、気苦労の多い様子が描かれている。そしてフランソワの主人が国王ルイ十三世だと信じ込み、ルネとの交際について話し合うため館を訪ねる。
館が襲撃された時やアラミスが家出した時の動向は、作中で描かれていないため不明。


アンドレ
本作のオリジナルキャラクターで、フランソワと共に主に仕える男性。地の文では「口ひげを生やした中年の男性」と語られていて、フランソワ曰く「ご主人の小さい時からの後見人で、父親のように慕い信頼している」という。
作中では館を訪ねたルネを怒鳴りつけるなど厳格な人物として描かれている。やがて男爵の訪問を受け、ルネとフランソワの交際について話し合ったらしいが、その内容は不明。
そして館が襲撃された時の安否やその後の消息は、作中では一切描かれていない。そんな状況から彼が賊、つまり鉄仮面一味の仲間で、フィリップの存在を教えて館に手引きしたのでは…と疑いたくなる。


フランソワの主人
フランソワが仕える謎の人物。その正体はフランス国王ルイ十三世の双子の兄弟・フィリップ。
作中ではセリフは一切なく、ルネが扉の鉄柵越しに姿を見るだけ。
地の文では「フランソワより年上の気品のある顔立ち」と語られているが、テレビシリーズ39話での回想シーンではフランソワの方が明らかに年上に描かれている(フィリップがジャンくらいの少年の頃に、フランソワはダルタニャンくらいの青年)。


■Key Word■
森外れの館
元々は廃修道院で、その荒れ果てぶりから村人は「悪魔が出る」と噂して近づく者もいなかった。それを利用したのか、フィリップたちが住む館として改築された。
しかしルネは馬の遠乗りで通りかかったことから、廃修道院に興味を持つことになる。その理由は後述。


マリア像
修道院の礼拝堂に置き捨てられていたマリア像。ルネはこのマリア像に亡き母の面影を見て、それ以来たびたび廃修道院を訪れて祈りを捧げていた。
修道院が館に改築された時も処分はされず、ルネがフランソワと出会ったも部屋に飾られていた。つまりルネがフランソワと出会う切っ掛けであり、二人の出会いの瞬間も見守っていた。


待ち合わせの森
その立場から人目を忍んで逢わざるをえないフランソワがルネの逢瀬に選んだ場所。小さな洞のある樹があり、その洞に互いへの連絡し合う手紙を入れていた。


ペンダント
ルネとフランソワが将来を誓い合う用になった頃、ルネがフランソワに贈ったもの。中にはルネの絵姿が入っている。フランソワが殺された時に賊に奪われたことで、ルネが仇を探すための唯一の手がかりとなった。
テレビシリーズではマンソンがこのペンダントを身につけていたことから、アラミスは一旦マンソン(鉄仮面一味)に協力して真相を探ることになる。


ルイ金貨
その名が示すように、時の国王ルイ十三世の肖像が浮き彫りされている金貨。
ルネがこれを男爵の部屋で目にして、金貨に彫られている肖像が館で見かけた人物だったことから、国王こそフランソワの主人だと思ようになる。
写真すらない時代において「人々がどうやって国王の顔を知るか」という難題を解決するためのアイテム。ちなみにテレビシリーズでは「高名な画家に描かせた国王の肖像画」をフィリップに見せていた。


■Explanation■
『別冊アニメディア アニメ三銃士 PART1』に掲載された『愛・アラミスの旅立ち』は、そのタイトルが示すように「ルネ」という女性が「銃士アラミス」となるまでを描いた物語。いわば『アニメ三銃士 エピソードゼロ』です。そして、その後のアラミスの活躍はテレビシリーズや劇場版で描かれているので、ファンの皆ならばご存じのはずです。
それ故に、テレビシリーズの終了後や劇場版の公開後に『別冊アニメディア アニメ三銃士 PART2』や『劇場版 アラミスの冒険』が刊行されなかったの残念な限りです。もしも刊行されていれば、そこに『愛・アラミスの旅立ち』の続編となるオリジナルストーリーが掲載されていたかもしれません。そこではフランソワの仇を討ったアラミスがひと時だけ「ルネ」に戻り、故郷を訪れていたかも知れません。そして後見人だった男爵と再会したり、待ち合わせの森でフランソワとの逢瀬を想い返していたかもしれません。そして何より、フランソワの仇討のために生きた日々に区切りを付け、新たなる人生を歩む姿が描かれていたかもしれません。


そんなアラミスの「描かれざる秘話」を想像したくなる程に、『愛・アラミスの旅立ち』は魅力的な作品です。


(記:2021年11月20日