アニメ三銃士

Column52 愛・アラミスの旅立ち(後編)

アニメ三銃士』に関するコラム。今回は前回に続き、『別冊アニメディア アニメ三銃士』掲載のオリジナルストーリー『愛・アラミスの旅立ち』を紹介します。



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前回はアラミスがまだ「ルネ」という名前だった頃。フランソワと運命的な出会いをして、逢瀬を重ねて将来を約束するまで。その一方で二人の未来を遮るように、フランソワが仕える謎の主人の存在も描かれていました。
今回はその謎が二人を悲劇に導き、そして「銃士アラミス」の誕生へと至る様子が描かれます。


■Data■
アニメ三銃士 マル秘オリジナルストーリー 愛・アラミスの旅立ち』
掲載:「別冊アニメディア アニメ三銃士 PART1」
発行:1988年8月6日
作:田波靖男
絵:辻初樹


■Introduction■

"何故アラミスが男に変装してまでも銃士隊にいるのか!?"
誰もが知りたかった神秘のベールを、本誌独占ノベルが克明に明かす!!
テレビシリーズ後半の核心にもつながる、衝撃の事実だ……。



■Story■
ルネとフランソワの逢瀬を察した男爵はルネを書斎へ呼び出し、フランソワの身元や仕える主人について詰問する。返答に窮するルネだったが、男爵の机の上に置かれていた金貨を見て驚く。そして金貨に肖像として浮き彫りされていた人物こそ、館で見かけたフランソワの主人だと答える。その人物とはフランス国王・ルイ十三世だった。
それを聞いた男爵は事の重大さに驚き、自ら館を訪れて話し合うので、フランソワに当分合わないようルネに命じる。


ルネはこれらの事を手紙でフランソワに伝えた。後日、ルネの前にフランソワが現れて、今まで隠していた事情を打ち明けた。
自分が仕える主人は国王ルイ十三世ではなく、その双子の兄弟・フィリップであること。フィリップは王位継承の問題を防ぐため、存在を隠して生きることを強いられていること。
また男爵が館を訪れてアンドレ卿と会ったが、男爵は主人が国王だと信じ込んでいること。そしてフィリップの噂が流れることを防ぐため、自分もフィリップと共に別の場所へ移らざるを得ないと告げる。
しかし、フランソワはフィリップを安心して暮らせる場所へ移したら暇を貰い、ルネを迎えに来ると約束する。


その数日後、フィリップの館が賊の一団に襲われた。ルネは急ぎ館へ駆け付けるが、フランソワは深手を負い瀕死になっていた。フランソワは最期の力を振り絞り、フィリップが賊にさらわれたこと、ルネから贈られたペンダントを犯人に奪われたこと、そしてルネへの愛を伝えて息絶える。
ルネはフランソワの亡骸を前に、仇を討つことを決意する。


やがて。ルネは男爵の元から姿を消し、パリに出ると男装してアラミスと名を変えた。そして亡き父の親友だった銃士隊長トレビルを訪ね、事情を話して銃士隊員になりたいと願い出る。トレビルもフランスの重大事として了承する。
こうしてルネは銃士隊員アラミスとして、新たな人生を踏み出した。


(終わり)


■Dialogue/Monologue■

ルネ「フランソワがお仕えしているのは、ルイ十三世陛下なのよ。あのお館は国王陛下がおしのびでみえる場所なのだわ。国王陛下にお仕えするフランソワが、身分の低い人であるはずがないでしょう」
男爵「ま、まさか」
ルネ「うそではないわ。わたしは、この目で見たのですもの」

ルネは「フランソワの主人」の肖像が彫られた金貨を男爵に差し出して熱弁する。その口調は男爵が発したような国王が身近にいる驚きではなく、想い人が国王に仕える立派な人物だと必死に訴えるかのようだった。

男爵「とにかく折を見て、わたしが館を訪ね、その若者のことについて、話をつけてこよう」
ルネ「それじゃ、わたしたちの結婚を許して下さるのね」
男爵「すべて、わたしが館に行って話し合ってからだ。それまでは、その若者と逢ってはならぬ」

男爵は事の重大さを察して、ルネにフランソワと逢うのを控えるよう告げる。
しかしルネは男爵の胸中を察するどころか、フランソワとの結婚を許してもらえると舞い上がっているようだった。

フランソワ「ご主人が国王陛下だって、どうしてそう思う」
ルネ「だって金貨の肖像とそっくりですもの」
フランソワ「あのお方はルイ十三世陛下ではない。陛下と双生児のフィリップ殿下なのだ」
ルネ「なんですって。陛下には双生児の兄弟がおありなの」
フランソワ「シッ。そのことはフランス国家の重大な機密なのだ」

事ここに至っては隠し通すのも限界だと観念したかのように、フランソワは主人の正体をルネに明かす。
「国家の重大な機密」を自認しておきながらルネに話したのも、フランソワがルネを信頼していた証なのかもしれない。

フランソワ「双生児の場合、どちらを兄とし、どちらを弟とするか、難しい問題なのだ。その上、一つの国に二人の王が君臨するわけにはいかない。今の陛下に謀反を企てる者が、フィリップ殿下をかついで国王にしようとするかもしれない。そうなったら、国が乱れるもとになる」

フランソワが危惧する「国王の双子」が存在するが故の問題。それを未然に防ぐべく、フィリップの存在を隠して仕えてきた。ルネ(ひいては読者)への説明的なセリフながら、その務めを果たし続けるフランソワの使命感も現れている。

フランソワ「陛下と瓜二つなので、生まれたときから日陰の身としての生活を送らされている、気の毒な身の上なのだ」

フィリップの不遇ぶりをルネに語るフランソワ。彼自身もフィリップに仕える身ゆえに、想い人と逢うこともままならない不遇の身なのだが。それを恨み嘆く雰囲気は微塵も感じさせない。

フランソワ「心配はいらない。フィリップ殿下を安心して暮らせるところにお移ししたら、お暇をいただいて、きっときみを迎えにくる。それまでの辛抱だ。きみもそれまで、今打ち明けた秘密は絶対に守ってほしい」

衝撃的な事実に驚くルネを落ち着かせるように、フランソワは新たに約束をする。
長らく隠していたフィリップの存在を明かし、同じ秘密をルネと共有することになった。この時こそ、ルネとフランソワが本当に心を通わせた瞬間だったのかもしれない。
だが、その直後に…。

フランソワ「フィリップ殿下が、殿下がさらわれた。助けを呼んでくれ」
ルネ「どうして、だれが、こんなことをしたの」
フランソワ「わからない。何者かの陰謀だ。フィリップ殿下を利用しようとする悪企みがあるにちがいない」

何者かの襲撃を受け瀕死のフランソワ。駆けつけたルネに彼が真っ先に告げたのはフィリップが連れ去られたこと。そしてフィリップを利用した悪事への予感だった。
自分が守り切れなかったフィリップを託せる人物。それは同じ秘密を共有して、心を通わせた相手であるルネだけたったのかもしれない。

ルネ「わたしのペンダントがないわ」
フランソワ「奪われたのだ。賊に……」
ルネ「それが犯人なのね」
フランソワ「そうだ……」

ルネがフランソワへ愛の証として贈ったペンダントも、フランソワの胸から奪われていた。このペンダントを持つ者がフランソワを連れ去った犯人。ルネはそう信じて、か細い糸を手繰るように仇を探すようになる。

フランソワ「きみと結婚できなくなってしまった。でも、いつまでもきみを愛しているよ。それだけは信じてほしい」

フランソワがルネに伝えた最期の言葉。それは「自分の仇を討ってほしい」ではなく、ルネへの永遠の愛を伝える言葉だった。

ルネ「この仇は、必ず討つわ。それまでわたしは、女を捨てます」

事切れたフランソワの亡骸を前に、ルネは仇討ちを決意する。それはフランソワが望んでいた事かは、もはや知る術は無い。
しかし、想い人を突然失ったルネには、何より生きる目的が必要だったのかもしれない。たとえそれが今までの人生を全て捨てて歩む修羅の道であっても…。

ルネ「フィリップ殿下をさらった賊の正体をつきとめるため、そしてフランソワの仇を討つため、王宮に出入りできる銃士隊員になり、情報を集めたいのです」
トレビル「わかった。この事件はわがフランスにとっても見過ごしにはできぬ。銃士として採用しよう。ただし、このことも、きみが女だということも、われわれ二人だけの秘密だぞ」

エピローグにて。ルネの「亡き父の親友」として登場するトレビル隊長との会話。
国を揺るがすような重大な秘密を聞かされながらも臆せず、更にはルネの無謀とも思える願いを受け入れ銃士として採用するなど、銃士隊長に相応しい度量の大きいところを見せる。
ただ、これを読むとトレビルもフィリップの存在(と、それを利用した悪事の可能性)を知っているので、鉄仮面編での国王すり替えに全く気付かなかったのは不自然な気もする。


■Explanation■
前回紹介分ではルネとフランソワの出会いと、その背後に見え隠れするフランソワの「ご主人」について描かれました。そして今回紹介分では「ご主人」の正体が明かされたことから怒涛の展開へ。国王の双子の兄弟・フィリップの存在や、フランソワの非業の最期。そしてルネが男装してアラミスとして銃士隊に入隊した理由まで、これから放送される鉄仮面編のネタバレを出し惜しみせずに描かれています。


特にルネとフィリップの永遠の別離はテレビシリーズ(46話)のリメイク、否、パラレルワールドとしてより悲劇的に改編されています。これによって本作でのルネとフィリップの物語は、運命的な出会いに始まり、逢瀬を重ねて愛を深める日々、そして別れの瞬間までが、二人芝居の舞台劇のような濃密さで描かれて幕を下ろします。


その一方で、フィリップをさらった者(鉄仮面一味)については一切語られていません。どうやってフィリップの存在を知ったのか。ひょっとしたらルネやフランソワ、あるいは本作限りのゲストキャラである男爵やアンドレ卿の周囲に内通者がいたのでは。そしてルネとフランソワの出会いの結果として、フィリップがさらわれてテレビシリーズでの国王すり替えの遠因になったのでは…。
ファンとしては何とも気になるところですが、その辺が描かれなかったのも、本作はあくまでも「ルネとフランソワの物語」だからでしょう。


その意味ではテレビシリーズとの致命的な矛盾点である「ルネ(=アラミス)とトレビル隊長がフィリップの存在を知っている」も、アラミスが望外の人気を得たことで後追いで作成された本作ならではと言えます。
そして本作で描かれた「ルネとフランソワの物語」は一部流用される形で、劇場版『アラミスの冒険』でも描かれます。本作を知った上で劇場版を観ると、ルネがフランソワの仇を討ち本懐を遂げてなお「銃士アラミス」として活躍する姿に感慨深くなることでしょう。
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『愛・アラミスの旅立ち』についてはもう一回、補足として登場人物やキーワードを紹介します。今しばらくのお付き合いを…。


(記:2021年10月03日)