アニメ三銃士

アラミスの冒険(前)

(公開日:1989年3月11日 / 監督:湯山邦彦 / 作画監督: 辻初樹 / 脚本:田波靖男

■Story■
ある日、森で乗馬をしていた少女・ルネは、何者かの銃声により落馬して気を失ってしまう。銃を撃った貴族・フランソワはルネをノワージ・ル・セック村の館に連れて行き介抱する。こうして出会ったルネとフランソワは想いを通じ合わせ、逢瀬を重ねる日々が続いた。


しかしある夜、賊の一団が館を襲い、フランソワは殺されてしまう。仇討ちを誓ったルネはパリに出て、名前もアラミスと変えて男を装い銃士隊員になった。やがて銃士仲間のアトス・ポルトス・ダルタニャンと友情を結び、彼らと共にフランソワの敵である鉄仮面一味をベル・イールの要塞で倒した。
仇討ちを果たしたルネは、フランソワの墓前に報告する。そこで同様に墓参に訪れたフランソワの父・ダニエル卿と出会う。


ベル・イール島での戦いから1年半が経ったある夜。ダルタニャンと三銃士が酒場で寛いでいると、ジュサックたち護衛隊士たちが花売りの娘に絡んでいるのを目撃。止めさせようとするが結局は大乱闘となり、護衛隊士を叩きのめす。
ダルタニャンは酒場からの帰り道、件の花売りが橋の上から身を乗り出しているのを目撃。助けようとするが共にセーヌ川に落ちてしまう。ダルタニャンは気絶した花売りを連れて帰宅するが、目を放した隙に花売りは逃げ出してしまう。
花売りは橋に戻り、橋板の下に隠してあった書付を取り出す。しかし、そこを謎の人物に襲われて書付を半分奪われ、花売りも殺されてしまう。


翌日、トレビル隊長の館にロシュフォールと護衛隊が現れた。そして、花売り殺害の容疑者として、ダルタニャンは逮捕されてしまう。ダルタニャンの無実を晴らすため捜査を開始した三銃士は、その花売り・カリーナの遺品から、事件には国王ルイ13世の母であるマリー・ド・メディシス太后妃が関係していると知る。
さらに、カリーナの遺体が握っていた書付に描かれていた館の図面を見たアラミスは、何かを察して単身メディシスに会う決意をする。


パリ郊外リュクサンブール宮殿の東屋にて、アラミスはメディシスに面会する。しかし、何者かに狙撃されたことから宮殿内に場を移し、メディシスは事件の真相について語り出す。
かつてルイがまだ幼かった頃、メディシスは摂政として政治の実権を握っていた。それを不満としたルイはクーデターを起こし、メディシスを追放した。メディシスは対抗のためスペインの協力を得ようとして、その見返りにフランス南部の領地を譲る条約文書に署名。その条約文書を部下のマックス卿に託した。
その後、当時の臣下だったリシュリューに諌められて翻意するも、スペイン側のスパイによってマックス卿は殺されてしまう。そしてマックス卿の世話をしていたカリーナも、文書と共にも行方不明になってしまった。やがてマックス卿の遺した手紙が届くが、その手紙には「アンリ4世に預けた」としか書かれていなかったという。


それを聞いたアラミスは、カリーナが遺した書付と合わせて、文書の隠し場所として示された場所が自分とフランソワの思い出の地であるノワージ・ル・セック村の館であること。そして文書は既にスイスのシャトー・ダ・ジュールに移されたことを伝える。
しかし、この会話はメディシスの侍従・ピサロが盗み聞きしていた。ピサロはスペインのスパイである謎の人物と共に、文書を狙ってスイスに向かう。


メディシスとの面会を終えたアラミスは、アトスやポルトスや止めるのも振り切りスイスに向かう。憤るアトスとアラミスだったが、トレビルからアラミスの真意を聞かされ、さらにメディシスからの要請を受け、アラミスを助けるためスイスに向かう。、
一方、獄中のダルタニャンはアラミスの意を受けたメディシスによって釈放される予定だったが、その前に脱獄する。さらにパリに戻ってきたジャンとも再会を果たし、アラミスを助けるべくコンスタンス・ジャンと共にスイスに向かった。




■Explanation■
本作が公開されたのは、テレビシリーズ終了翌月の1989年3月。安彦良和先生の同名漫画を自身監督でアニメ化した『ヴィナス戦記』の同時上映として制作されました。
内容はテレビシリーズの1年半後を描いた後日談にして、題名が示すように「男装の麗人」としてファンの人気と話題を独占したアラミスをフィーチャーした一作です。
映画化決定が報じられたのは1988年10月。この時点ではテレビシリーズの制作は既に終わっており、放送も「鉄仮面編」が佳境に差し掛かっていた時期。やがてテレビシリーズは幾多の放送延期を経て1989年2月に終了。間隔を開けずに公開された本作はカーテンコール的な作品となりました。
そして何より、『アニメ三銃士』の完結編的な作品となっています。今後、続編が作られない限り。


アバンで描かれるのはノワージ・ル・セック村での、ルネとフランソワの出会いと別れ。そしてルネが「アラミス」と名前を変えて銃士隊に入り、ベル・イール島で仇のマンソンを討つまでがナレーションで簡潔に語られる。欲を言えば銃士隊に入ってからの、アトスやポルトスと三銃士を結成するまでのドラマも描いて欲しかったけど、尺が短いので無理か。


そして仇討ちを終えたアラミスがフランソワの墓前に報告。ダルタニャンが象を手に入れてガスコーニュへ帰郷したように、アラミスも自身の目的を果たして帰郷していた。
墓前ではアラミスはドレス姿。男性としての、銃士としての「アラミス」から、女性としての、何より亡きフランソワの許嫁である「ルネ」に戻っていた。冒頭ではアラミスの、テレビシリーズと全く異なる異なる姿が描かれ、まさに「アラミスの物語」であることを観る者に強く印象付けている。


タイトル後に始まる本編は、ダルタニャンと三銃士が酒場で談笑している賑やかな幕開け。ダルタニャンがコンスタンスの機嫌を損ねるのと恐れて早く帰ろうとするも、三銃士(特にポルトス)がそれを知りながら飲ませ続けるのが笑える。テレビシリーズ最終回では初々しい「お別れのキス」を見せてくれたダルタニャンとコンスタンスだけど、本作では恋人どころか新婚時代も過ぎ去って、すっかりダルタニャンが尻に敷かれている恐妻家になっていることが伺える。
そこからのジュサックたち護衛隊との乱闘というのはテレビシリーズ初期を思わせる展開で、開始早々にアクションシーンが楽しめて嬉しい。
加えて、花売りが身投げしていると早合点したダルタニャンが、彼女を助けようとして一緒に河に落ちたり。彼女を連れて帰宅したらコンスタンスの機嫌を損ねて締め出されてしまったり、コミカルな場面が続く。


しかし、その助けた花売りが姿を消した上、何者かに殺されてしまうショッキングな展開。ここからはジェットコースター的な展開が次々に訪れることになる。


酒場での乱闘から一夜明けて。トレビル隊長の館でダルタニャンと三銃士がトレビル隊長相手に説教と言い訳を言い合うコミカルな場面から一転、ロシュフォールと護衛隊が現れて、ダルタニャンを花売り殺害の容疑で逮捕してしまう。
酒場で揉め事を起こしたジュサックもそうだけど、ここでのロシュフォールはダルタニャンに対して傲慢な態度で証拠や証言を突き付けたり、嬉々として連行したり、鉄仮面編での和解やベル・イール島での共闘がウソのようにネガティブに描かれている。
ダルタニャンたちと変に慣れ合わない、元の関係に戻ったと考えればロシュフォール達らしいけど。本作では何ともそんな役回りになってしまった。


花売り殺しの真犯人を探して捜査をする三銃士だけど、遺品から心当たりを見つけたアラミスは、事件の鍵を握るメディシス太后妃と単身面会する。
この手の単独行動は秘密(=実は女性)を抱いているアラミスの見せ場だけど。反面でアトスやポルトスのことを、本当に信用しているのかと勘ぐってしまう。フランソワの仇討ちを(アトスやポルトスの協力も得て)果たしたのだから、秘密を打ち明けてもよかったのでは。


先の話になるけど、単身でスイスに向かうアラミスに、ポルトスは裏切りだと激しく憤り、冷静なアトスも驚きと疑念を隠さない。状況的には国王すり替え後の、アラミスが銃士隊長に就任した時と似ている。今回もアラミスは事件の真相を独りで抱え込み、ポルトスやアトスが訳ありと察することも無い。鉄仮面一味との戦いを経て築かれた信頼関係が、壊れたとは言わないまでも、テレビシリーズ前半辺りまでリセットされた感じ。
「アラミスの活躍を描く」に特化した本作だから仕方ないけれど、アトスやポルトスとの関係もしっかりと描いて欲しかったところ。


本作のキーパーソンとなるのが、国王ルイ13世の母ことマリー・ド・メディシス太后妃。テレビシリーズでは名前が一度出たきり(42話で、鉄仮面として投獄されたルイにアトスが正体を確認するための質問として)だったけど。
本作では温厚そうな人柄で、日陰に追い遣った双子の息子の片割れ・フィリップの事も気に掛けていた模様。しかし皮肉な事に、事件の元凶は王座を継がせたもう一人の息子・ルイとの不仲だった。
「飾り物の王に不満を持ってクーデターを起こした」なんて過去は史実に基づいているとは言え、テレビシリーズのルイからはとても想像もできない。あるいはクーデターを起こした反省や後悔、または追放から復帰したリシュリューに実権を握られた悔しさから、テレビシリーズでの覇気の薄い雰囲気になってしまったのかも。
対してリシュリューメディシスを諌めて、ルイと争うためにフランスの一部をスペインに譲渡することを止めさせたというから、至って良識的な人物として語られている。
本作ではルイもリシュシューも出番が無かったけど(リシュシューはメディシスの回想シーンに姿だけ登場)、テレビシリーズのイメージとは真逆な過去が語られたのも特徴。


本作のゲストキャラである花売りのカリーナと、名前が登場するだけのメディシスの部下・マックス卿について。カリーナはゲストキャラでありながら登場早々に殺されてしまい(加えて護衛隊に絡まれたり、ダルタニャンと共にセーヌ河に落ちたり、散々だった)、ダルタニャンや三銃士とまともに会話を交わしたことも無かったことから、その人となりは殆ど描かれていない。
しかし、国家的な一大事に関わるマックス卿の世話をして、自身の危険も省みず(その結果、殺されてしまう)行動していたのだから、よほど気丈な女性だったことが窺える。もちろん、マックス卿とも「そういう関係」だったことも想像に難くない。
そう考えると、カリーナとマックス卿の関係は、男女の逆はあれどダルタニャンとコンスタンスによく似ていている。ダルタニャンは銃士になる前から、アンヌ王妃に仕えるコンスタンスのために幾多の危険を乗り越えてきた。バッキンガム公爵をパリから逃がしたり、王妃の首飾りを取り返しにはるばるイギリスまで旅をしたり。
非業の死を遂げたカリーナとマックス卿は、ダルタニャンとコンスタンスの「バッドエンド」の姿だった。そう考えると、何とも切ない。


そんなカリーナとマックス卿が命懸けで伝えようとしたのが、条約文章の在り処。ノワージ・ル・セック村の館に何らかの形で隠されていて、それがスイスのシャトー・ダ・ジュールに移されたことがアラミスによって語られる。
今回の事件が、自身とフランソワとの思い出に深く関わっていると知ったアラミス。メディシスとの面会から帰宅して、激しい雨音の中でダニエル卿との邂逅を回想するシーンは、運命的な何かを感じて激しく心乱れる雰囲気が描かれている。


一方、アラミスとメディシスの会話を盗み聞きしていたのが、メディシスの侍従・ピサロ。初登場の時から怪しかったけど、その正体はお察しの通りスペインのスパイだった。この辺は尺の都合もあって、一切のタメも引き伸ばし無く招待が明かされる。
ピサロのデザインはテレビシリーズ15話で登場したリシュリューの手下・アランに酷似している(声優も同じ大林隆介さん)。アランはアミアンの宿場町でダルタニャン達と対決するも、結果的にはダルタニャン達が逃げ出すような形で、明確な決着が描かれなかった。それはスタッフ側でも心残りだったのだろうか、アランとのリターンマッチを描くためアランにそっくりな、否、ひょっとしたら同一人物で、名前を変えてリシュリューからスペインに鞍替えしたアラン本人かもしれない、ピサロというキャラクターを登場させたのかも。


そして何より、アランのバックにいる謎の人物。黒マントに飾りの着いた派手な仮面を着け、傍らには黒豹を従えるという異様な風貌。その正体は・・・・・・まぁ、ここまで『アニメ三銃士』を観てきたファンなら察しが着くよね。


一方その頃、「アラミスの活躍を描く」という本作のコンセプトのため、投獄の憂き目に遭ったのが我らが主人公ダルタニャン。
アラミスの働きかけで、待っていても釈放されるはずだったのが、大人しくしていられるはずが無い。首を吊るフリをして牢番を騙して脱獄を果たす。そしてパリに戻って来たジャンとも再会を果たして、コンスタンスを含めた3人で三銃士の後を追いスイスへと旅立つ。
ジャンとコンスタンスまでも「決戦の地」へ赴くのは、まぁお約束。テレビシリーズでは人買いに攫われたり、隠れた樽が象に背負わされたり、大渦に巻き込まれたりと、幾多の偶然が折り重なる形でベル・イール島に辿り着いた。でも今回は自分の意思で、ダルタニャンと共にスイスへ向かったのは頼もしい。
特に本作のコンスタンスは、ダルタニャンをすっかり尻に敷くまでに成長してるし、ジャンを連れてダルタニャンの後を追う姿は、もはや肝っ玉母さんだ。


条約文書を求めるスペインのスパイたちが、アラミスが、アトスとポルトスが、そしてダルタニャンとコンスタンスとジャンが、それぞれの後を追うようにパリを発った。まさにオールスター状態で、舞台はスイスへと移る。


■Dialogue/Monologue■

フランソワ「よかった、気づかれましたか」
ルネ「……ここは」
フランソワ「ノワージ・ル・セック村の、私の御主人の館です」
ルネ「……まぁ、立派な椅子だこと」
フランソワ「貴女のお名前は」
ルネ「ルネと申します」
フランソワ「フランソワです」

後のアラミスこと「ルネ」とフランソワが交わした初めての会話。
この時から両者の間に惹かれ合う物があったのだろうか。フランソワがルネを「立派な椅子」で介抱したのも、その現われかもしれない。

ルネ「フランソワ、貴方の恨みは晴らしました。どうか安らかに眠って下さい」

時系列にはテレビシリーズ終了後の、鉄仮面一味を倒した後。
フランソワの仇討ちという人生の全てを賭けた目的を果たした今、アラミスの、否、ルネの心には一時の安らぎが訪れていた。
しかし、自身の仇討ちのため愛した女性が男装して銃士となり、命を幾多の危険に晒していた事を、天国のフランソワがどう思っていたかは知る由も無い。

ダニエル「息子の墓にお参り頂く方がいるとは珍しい。どなたかな」
ルネ「……では、貴方はフランソワのお父上」
ダニエル「ダニエル侯爵です。貴女は」
ルネ「……」

これもフランソワの導きか、フランソワの父であるダニエル侯爵と邂逅を果たす。
「墓参りする人が珍しい」というダニエルの言葉からは、日陰の存在であるフィリップに仕えたが故に偲んでくれる者も少ないフランソワの不遇が感じられる。
そして何より、ダニエル侯爵に名前を聞かれて、どう答えたのだろうか。亡きフランソワの許婚である「ルネ」か、それとも銃士としての名前である「アラミス」か。
誰もが気になる所を描かないままシーンは変わりアバンは終了。タイトルに続き本編が始まる。

アトス「あれから一年半か、元気にやってるんだろうな」
ポルトス「ジャンのことだ、たくましくやってるさ」

酒場で談笑するシーンより、テレビシリーズからの時間経過が明示されるセリフ。度々便りを送って来ることもあって、「仲間」であるジャンの様子を、ダルタニャンと三銃士が気に掛けていることが窺える。

ダルタニャン「そろそろ僕は帰らないと、コンスタンスが待っているんだ」
ポルトス「いいじゃないか、もう一杯」
ダルタニャン「あ、いや……」

ダルタニャンのコンスタンスに対する恐妻家ぶりが垣間見えるセリフ。そんなこと御構い無しとばかりに酒を勧めるのもポルトスらしいけど、ダルタニャンにとってはいい迷惑。

ポルトス「花なんか買って、恋人でもできたのか」
アラミス「いや、さぁ、ダルタニャン(花束を渡す)」
ダルタニャン「俺に?」
アラミス「コンスタンスにあげるんだ。遅くなった、お詫びの印にな」
ダルタニャン「そんなぁ、どうして僕がコンスタンスに謝らなくちゃいけないんだよ」

一方、女心を分かっているのがアラミス。花を買ってダルタニャンに渡し、コンスタンスに贈るよう勧める。ダルタニャンも意地を張って断ろうとするが、内心助かったと思っているのかも。
なお、この花を売った花売りこそが、後に事件の切っ掛けとなるカリーナ。

花売り「離して下さい!」
ジュサック「俺たちと付き合ったら、花を全部買ってやるぜぇ」
アラミス「護衛隊の奴らだな」
ポルトス「女一人を大勢で……」

花売りが迷惑がるのも気にせず、執拗に絡むジュサックたち護衛隊。本作でもテレビシリーズの大部分と同様、下衆ぶりが強調されている。

アトス「止さないか、ジュサック!護衛隊の名折れだぞ」
ジュサック「銃士隊の奴らか、邪魔すると痛い目を見るぞ!」
ポルトス「ほーう、面白い、こんな目にか!(ジュサックを突き飛ばす)」

ジュサックと護衛隊を諌めようとするアトス。「名折れ」という言葉は、ベル・イール島での戦友である護衛隊をそれなりに尊重していることの現れでもあるんだけど。
ジュサックが喧嘩越しで応じたことから、ポルトスが待ってましたとばかりに手を出して大乱闘になってしまう。

アトス「腹ごなしも済んだし、ここらでお開きとするか」
ダルタニャン「それじゃあ、帰ってもいいね……さよなら!」
アラミス「コンスタンスによろしくな」
ポルトス「よーく謝るんだぞー」

「腹ごなし」こと、酒場を埋め尽くさんばかりの護衛隊士を叩きのめしてご満悦のダルタニャンと三銃士。それでもダルタニャンはコンスタンスのご機嫌が気になって、そそくさと帰ってしまう。
喧嘩にまで付き合せておきながら「よく謝るんだぞ」というポルトスも意地が悪い。

コンスタンス「ダルタニャン!(ドアを開けて)」
ダルタニャン「コンスタンス、君の服を貸してあげてくれないか。このままじゃ風邪をひいてしまう」
コンスタンス「……何よ!なかなか帰って来ないと思ったら、女の人なんか連れて!(ドアを閉める)」
ダルタニャン「コンスタンス!違うんだったら!誤解だよ……ヘクション!」

愛する夫(←限りなく似た関係だけど違う)がようやく帰ってきたと思ったら、見知らぬ女性を、しかもずぶ濡れで気を失っている状態で連れて来た。そりゃコンスタンスも怒って閉め出すなぁ。
こればかりは最初に事情を説明しないダルタニャンが悪いかと。

コンスタンス「それじゃあ、溺れそうになったのを助けただけなのね」
ダルタニャン「助けようとしたら、溺れそうになったんだよ」
コンスタンス「何よそれ」


ダルタニャン「セーヌの水は冷たいし、おまけに帽子はどっか行っちゃうし、散々だよ」
コンスタンス「大体、こんな遅くまで寄り道していたのが悪いのよ」
ダルタニャン「いや、もっと早く帰るつもりだったんだけど……」

ダルタニャンの説明(言い訳とも言う)を一応聞くも、それでもダルタニャンの「寄り道」を説教するコンスタンス。すっかり夫婦喧嘩状態。

トレビル「パリの治安を維持する護衛隊にケンカを売って、一般市民にも迷惑をかけたそうだな!」
ポルトス「ケンカを売って来たのは向こうの方であります」
トレビル「先に手を出したのはお前だそうじゃないか!」
ダルタニャン「ポルトスは悪くありません!花売りにしつこく絡んでいた護衛隊に注意しただけです!」
トレビル「注意をするのと暴力を振るうのは違うぞ!」
アラミス「口で言って聞くような連中ではありません」
トレビル「それはお前たちも同じことだ。ちっともワシの言う事を聞かん」

一夜明けて、酒場での一件をトレビル隊長から説教されるダルタニャンと三銃士。
劇中では様々な活躍を見せてくれた彼らも血気盛んな銃士達。平時ではトレビルを悩ませる問題児となることも少なくない模様。

アトス「申し訳ありません。あんな事になったのは私の責任です」
トレビル「一番思慮深いアトスが、そんなはずはあるまい」
アトス「いいえ、最初から有無を言わさず、あいつらを叩き出してしまえば、店や他の客に迷惑をかける事も無かったのです。なまじっか話し合いで済まそうとしたために……」
トレビル「もうよい!アトスの屁理屈など聞きたくない。……ケンカをしたのはけしからんが、護衛隊に負けなかったのは何よりだ。以後、気をつけろ」
ダルタニャン・アトス・アラミス・ポルトス「はい!」

アトスによる、反省しているようで全く反省していない言葉には、トレビルもうんざりした様子で説教を止める。もっとも、トレビルにとっても説教は建前で、「護衛隊に負けなかったのは何より」という最後の一言が言いたかっただけなのかもしれない。

ジュサック「お前が女を家に連れ込む所を見たという証人もいるんだ」
ロシュフォール「証拠もある。(帽子を手に取って)これはお前の防止だろう。現場の近くに落ちていた」
ダルタニャン「違う!それは!」
ロシュフォール「申し開きがあるんなら裁判所でするんだな!さぁ、神妙にしろ!」

トレビル隊長の館に殴り込みの如く押しかけて、傲慢かつ高圧的な態度でダルタニャンを糾弾するロシュフォールとジュサック。
小悪党的なジュサックはまだしも、鉄仮面編では人間味のあるキャラとしてポジティブに描かれていたロシュフォールまでもこの有様。

ロシュフォール「ぃよーし、それでよい!さぁ、来るんだ!」
ポルトス「待てロシュフォール!ベル・イールで一緒に戦ったことを、もう忘れたのか!」
ロシュフォール「私は職務に私情は挟まん」

ダルタニャンを連行して意気揚々と引き上げようとするロシュフォールに向かい、誰もが抱いてる疑問をポルトスが代わって投げかける。しかし、ロシュフォールは憮然とした態度で応じるのみだった。
私情は挟まんと言っておきながら、その振舞いは「ダルタニャンを逮捕できて嬉しい」という私情を全く隠そうとしていなかった。

色々親切にして貰ってありがとう
もし私が死んだら、この手紙に添えてある書付を、マリー・ド・メディシス太后妃殿下に届けて欲しい
ただし、書付は妃殿下に直接お手渡しすること
きっと充分なご褒美が頂けるはずだ
それが君へのせめてもの恩返しになるだろう
親切なカリーナへ
マックス

カリーナがダルタニャンの家に残した服のポケットに残されていた、マックス卿からカリーナに宛てた手紙。劇中には名前が登場するだけのマックス卿の、誠実な人柄が窺える文面になっている。
恐らくが死を覚悟していたであろうマックス卿は、どんな思いでこの手紙と書付を「親切なカリーナ」へ託したのだろうか。

ポルトス「ジャン、お母さんは見つかったのか?」
アラミス「……ポルトス!」
ポルトス「…あっ…」
ジャン「……ダメだったよ」

投獄されたダルタニャンと入れ違いになるように、パリに戻って来たジャン。
再会の嬉しさもあり、ポルトスは皆が最も気になっている事を、ごく自然にジャンへ尋ねる。ジャンが何故、独りでパリに帰って来たのかを察してもいいのだけど。

アラミス「例の書付か」
アトス「恐らくは……破られている」
アラミス「それを奪われまいとして殺されたのか」
ポルトス「どっかの屋敷の図面みたいだが……」
アラミス「……これは!」

カリーナの遺体が握り締めていた謎の書付(しかも半分だけ)が何なのか、アトスとポルトスは全く見当がつかない。しかしアラミスは一目見ただけで、それが何を示すのか理解できた。
だが、それはアトスやポルトスには明かすことのできない、思い出と秘密の彼方に隠された場所だった。

メディシス「マックスの使いの赴きというのは?」
アラミス「この書付を太后妃殿下にお届けするように言われました」
メディシス「例の書類が見つかったのね!では、その書付を……」

「マックスの使い」を名乗る女性から、「例の書類」に関する知らせを聞いたメディシス
その言葉と表情には、喜びというより安堵の思いが滲み出ていた。まるで過去の過ちが清算されようとしているかのように。

ピサロ太后妃殿下、どうなさいましたか」
メディシス「(アラミスに向けて)大丈夫、侍従のピサロです。(ピサロに向けて)曲者が私たちを狙ったのです。すぐに出入り口を固めて庭内を探しなさい」
ピサロ「かしこまりました」

東屋での会見中、何者かに狙撃されたアラミスとメディシス。そこに駆けつけたのがメディシスに仕えるピサロだけど・・・・・・。冷静かつ慇懃な態度が、隠し様も無い怪しさを漂わせている。

メディシス「ではそなたは、私の可愛い息子フィリップに仕えていたフランソワの……」
アラミス「許嫁でございました」
メディシス「しかも、女の身で銃士隊員とは」
アラミス「その事は銃士隊員の中でも、トレビル隊長と親友のダルタニャンしか知らないのです。そうか内密にお願いします」

双子の片割れ故に追放せざるを得なかったフィリップを「可愛い息子」と言うメディシス
フィリップを巡る陰謀によって許婚を殺され、その仇討ちのため銃士になったアラミスに対して、驚きとも敬意とも取れる事を言う。
一方、この会話からアトスとポルトスはアラミスの秘密を知らない、少なくともアラミス自身は秘密を隠し続けていることが明示されている。「劇中で描かれていないだけで、実はテレビシリーズと劇場版の間で・・・・・・」なんて想像をしたくなるけど、違うらしい。

アラミス「マックス卿が託された秘密文章とは、どういうものでしょうか。お差し支え無ければ、お聞かせ下さい。カリーナを殺した真犯人を見つけ、ダルタニャンの無実を晴らしたいのです」
メディシス「……其方をフィリップ所縁の者として信頼致しましょう。全ては私とルイの不仲から始まったことです」

フィリップ所縁の者(正確にはその許婚)故に数奇な人生を歩むことになったアラミスを信頼して、事件の真相を告白するメディシス。それは自身が追放した上に陰謀に利用された息子フィリップに対する、母としての贖罪だったのかもしれない。

アラミス「(書付を出して)これをご覧下さい。マックス卿が書き残して、カリーナに託した書付です。マックス卿は条約文章の隠し場所を示す暗号を、2つに分けて送ろうとしたのです」
メディシス「でも、マックスは何を伝えようと……」
アラミス「私には分かるのです。これは私とフランソワの思い出の場所、ノワージ・ル・セック村の、あの館の図面に間違いありません」

マックス卿がメディシス宛に送ろうとした暗号。しかしその内容は、当のメディシスにも見当がつかないものだった。
唯一分かったのは、その示す先が「思い出の場所」だったアラミス、否、ルネだけだった。

メディシス「では条約文章はあの館に!ありがとう、私は救われました」
アラミス「いえ、文書は既にスイスに移されています。……スイスにあるシャトー・ダ・ジュールのアンリ4世陛下が預かっておいでなのです」

アンリ4世はとうの昔に他界しており、条約文書を預かることも、ましてやスイスに移ることもできない。ならば今、条約文書を持っているのは誰か、否、何かというと・・・・・・。

ピサロ「シャトー・ダ・ジュールのアンリ4世の所だ!急ごう!」
謎の人物「そう……これで条約文書はスペインの物ね……」

アラミスとメディシスの会話を盗み聞きしていたピサロ。条約文書の在り処を聞くや馬車に乗り込み、仲間と思しき謎の人物と共にスイスへと発つ。
そして仮面で素顔を隠した謎の人物。声からして女性だということは分かるけど・・・・・・。
いったい、なにものなんだー(←棒読み)

ダニエル「そうですか、貴方が……。フランソワが貴方を連れて来たら、私はシャトー・ダ・ジュールのあの城を2人に譲り、引退して信仰の道に入ろうと思ったのですが。それも過ぎ去った夢です」

アバンより続くアラミスの回想シーンより。フランソワの父ダニエル卿のセリフ。
亡き息子の許婚と会ったことで、かつて思い描いていた自身の夢と、何より「息子夫婦」の幸せを語る。例えそれが、もう叶わなくなった夢だったとしても。

アラミス「……この椅子は……」
ダニエル「ノワージ・ル・セック村のあの館から譲り受けて来た物です。お気の毒なフィリップ王子に残された、アンリ4世陛下の唯一の形見なのです。……何か」
アラミス「……私が初めてフランソワ様とお会いした時の、思い出の椅子です」

アラミスにとってはフランソワとの幸せな日々の始まりでもあった思い出の椅子。
それは不遇な人生を強いられる事になったフィリップに向けて、父であるアンリ4世からの思いが込められた物でもあった。
そして今、図らずも条約文章をメディシスへと渡そうとした、マックス卿とカリーナの思いも託されていた。

ポルトス「ようアラミス、カリーナの身元が分かったぞ」
アトス「アラミスと同じ、ノワージ・ル・セック村の生まれだ」
アラミス「すまないが、今度の事は君たちに任せる」
ポルトス「何っ!」
アトス「どこへ行くんだ!」
アラミス「ちょっと都合があって、銃士を辞めることにした」

アトスとポルトスが苦労して突き止めたであろうカリーナの素性だったが、既に事件の真相と重大さをメディシスから聞かされたアラミスにとっては、耳を傾けるまでも無い些事でしかなかった。
すでに真相をトレビルに伝えて、固い決意と共にスイスに発とうとしていた。

ポルトス「何だと!ダルタニャンを助けなきゃならない時に、何で銃士を辞めなきゃいけないんだ!」
アラミス「そのことなら心配いらない」
ポルトス「だったら、ダルタニャンの無事な顔を見てから……」
アラミス「そこをどいてくれ、もう行かなきゃならないんだ」

スイスへと急ぐ余り焦っていたのか、それとも事の重大さ故に敢えて沈黙を保っていたのか。ポルトスの激しい問い掛けにも冷淡に応じ、ついにはポルトスに殴られてしまう。

アトス「隊長、アラミスはなぜ辞めたのですか」
トレビル「一身上の都合だ」
アトス「ですから、その理由を…」
ポルトス「どうだっていいじゃないか!奴は勝手に俺たちを裏切って辞めたんだ!」
トレビル「ポルトス!言葉が過ぎるぞ!アラミスはダルタニャンを釈放するために、あるお方と取引したのだ」

アラミスが銃士隊を辞めた理由をトレビルに尋ねるアトスとアラミス。
アトスは訳有りだと察しているようだけど、ポルトスは「勝手に裏切った」と察する余地すらない憤りよう。尺やストーリーの都合もあるんだけど、本作のポルトスは直情的な面ばかり描かれてそんな役どころ。

ジュサック「あんなに証拠が揃っているのに、ダルタニャンを釈放しなきゃならないなんて……」
ロシュフォール「仕方あるまい。太后妃殿下の強い要請とあれば、いかにリシュリュー……」
(奥からダルタニャンが猛ダッシュして来る)
ロシュフォール「…ダルタニャン…!」
ダルタニャン「さいならーっ!」

ダルタニャンを釈放せざるをえなくなり、不満を隠そうとしないロシュフォールとジュサック。やっぱりダルタニャンへの「私情」は少なからず挟んでいたらしい。そのお返しとばかりに、脱獄したばかりのダルタニャンに文字通り蹴散らされて逃げられてしまう。
これが最後の出番となったロシュフォールとジュサックだけど、情けなくも面白いシーンなのは2人らしい。

ダルタニャン「ただいま」
コピー「タダイマ!」
ダルタニャン「……ジャン!」
ジャン「へへへ……お帰り、ダルタニャン」
ダルタニャン「何言ってんだよ!それはこっちのセリフだろ!ハハハ!」

投獄されていたのでお預けになっていたけど、ダルタニャンもジャンとの再会を果たす。
テレビシリーズ最終回で描かれた別れのシーンを思い出すと、再会した2人の喜びがどれ程だったか窺えるはず。

ダルタニャン「どうして2人とも付いて来なきゃいけないんだよ」
ジャン「オイラと」
コンスタンス「私が付いていないと」
ジャン「ダルタニャン独りだと危なっかしくてねー」
コンスタンス「ねっ」
ダルタニャン「ちぇっ」

「危なっかしいから」という、ダルタニャンを子ども扱いした理由でスイスへ付いて行くコンスタンスとジャン。テレビシリーズでは事件に巻き込まれる側だった2人も、本作では自ら事件へ飛び込んで行こうとする。これもまた成長か。
不満気なダルタニャンだけど、本心では喜んでいるに違いない。


(記:2015年1月18日)