アニメ三銃士

45話:アラミスの秘密

(放送日:1988年12月9日 / 演出:渡部高志 / 作画監督:松原英明)

■Story■
シャトレ牢獄では収監している鉄仮面(国王)の処刑準備のため、第一級の警戒態勢が敷かれていた。
同じ牢に収監されているアトスとロシュフォールの元に、ダルタニャンたちの使いであるコピーが飛び込んできた。アトスはコピーを介して、鉄仮面の処刑準備が進んでいることをダルタニャンたちに伝える。それを聞いたダルタニャンは再度コピーを飛ばし、アトスにナイフを渡す。
それを受け取ったアトスはロシュフォールと協力し、牢番の目を誤魔化しながら牢の壁石を削って外そうとする。


その頃、ポール・ロワイヤルの修道院ではアンヌ王妃に匿われていたボナシューが修道女に目撃され、修道院から逃げ出していた。
それを知った鉄仮面一味は、王妃をシャトレ牢獄に収監するよう指示。さらに一刻も早く本物の国王を処刑しようとフィリップに迫るが、フィリップは頑として拒む。そこでミレディーは催眠術を使いフィリップに処刑命令書へ署名させようとする。
しかし、部屋の暖炉ではアラミスが様子を窺っていた。そして、アラミスは投げナイフで国王の肖像画を壁から落とし、その音でフィリップを催眠術から覚ました。結局、ミレディーはフィリップの説得を諦め、自ら国王のサインを真似て処刑命令書を発行した。


シャトレに向かったミレディーと入れ替わるように、マンソンの前にアラミスが現れる。アラミスはマンソンに対し、自分は国王すり替えの陰謀を探るべく銃士隊長になったことを明かす。シラを切るマンソンに対し、アラミスは「証拠」としてマンソンが身に付けていたペンダントを奪う。


そのペンダントは、かつてフィリップに仕えていた貴族・フランソワの物であり、フィリップを誘拐した時に殺して奪ったのだろうと問い詰める。ペンダントの中には女性の肖像画が収められており、彼女こそ6年前のアラミス自身であること。マンソンによって殺されたフランソワは自分の許嫁であること。そして、フランソワの仇を討つために男に扮して銃士になったことを明かす。
追い詰められたマンソンは命乞いをすると見せかけ仕込み剣で応戦し、さらに衛兵を呼んだため、アラミスは宮殿から逃走する。


シャトレ牢獄では修道院から王妃とコンスタンスが移送されていた。さらに鉄仮面の処刑準備が開始され、処刑が明日の10時に迫っていた。その事はアトスから伝えられたダルタニャンは、一刻も早く鉄仮面(国王)を救い出そうと決意する。


■Explanation■
ついに『アニメ三銃士』最大の謎である「何故、アラミスは男装して銃士になったのか」が明かされる、シリーズにおける最重要エピソード。その割りを食ったのか、主人公であるダルタニャンはポルトスと一緒にシャトレ沿いの川に浮かべた小船で待機して、見せ場らしい見せ場は無かったりする。


アラミスの前に見せ場を作るのが、図らずも牢を同じくすることになったアトスとロシュフォール。今までの因縁もどこへやら、冒頭からトランプをしながら脱獄の相談。さらには協力して壁石を削ったり、見回りが来るやトランプに興じる芝居を見せる。なかなかの名コンビぶり。
ロシュフォールも今までのコミカルさが影をひそめて、どこか頼もしい雰囲気を出し始めている。


一方の鉄仮面一味。ダルタニャンたちには本物の鉄仮面が健在なのを目撃され、ボナシューには逃げられた上に王妃に匿われ、順調に進めていたはずの陰謀に徐々に綻びが出ていた。
もはやフィリップの説得する余裕も無くなり、アンヌ王妃の牢獄移送と鉄仮面(ルイ)の処刑も、偽の命令書を書いて強行する。既成事実を作る事で、フィリップを無理やり従わせようとしていたのだろう。


そして今回最大の見せ場である、アラミスの秘密と過去が語られるシーン。単身マンソンの前に現れて、最初は静かに、そして徐々に激しくマンソンを追い詰めて行く。
過去のフランソワが殺されるシーン、ペンダントを開けて少女時代のアラミスの姿が現れるシーン。アラミスが、否、アラミスと名乗る前の少女が、恋人のフランソワと過ごした幸せな日々と、フランソワが凶刃に倒れ、葬儀で悲しみに暮れる姿。今まで殆ど描かれなかったアラミスの過去が、アラミス自身のセリフと回想により、堰を切ったように描かれてゆく。
アニメ三銃士』の序盤で「実は女性」という事が明かされながらも、その理由は長らく秘密だっただけに、視聴者的には待ってましたと言わんばかりの名場面だ。


ただ、個人的に残念だったのが、こんなアラミス一世一代の名シーンに主人公のダルタニャンも、仲間であるアトスやポルトスも立ち会っていない事。この場にいたのはマンソン独りだけ。折角のアラミスの告白も、仇敵を前にした恨み辛みのような物になってしまった事。
先の話になるけれど、アラミスはこの後も、自身の秘密を進んで語る事は無かった。最終盤でダルタニャンには語るんだけど、それは偶然にも女性であることを知らた事が切っ掛けだった。そして、アトスとポルトスには(劇中を観る限り)最後まで語る事は無かった。
アラミスにとっての過去とは、フランソワとの思い出とは、友や仲間には知られたくない物なのだろうか。


「鉄仮面」が急展開を迎え、作品自体もクライマックスに突入する中、ふとそんな切ない事を考えてみた。


■Dialogue/Monologue■

アトス「食事を持ってくる牢番を倒してここを出るのは簡単だ。2人も勇士が揃っているのだから」

脱獄の相談をしているアトスが、ロシュフォールに言ったセリフ。
それは即ち、今まで対立していたロシュフォールの事を勇士として、そして「仲間」として認めた証でもあった。

ロシュフォール「あれはリシュリュー閣下がアンヌ王妃に差し上げたオウムではないか。あの裏切り者が」
アトス「元はそっちのスパイだったが、今はこっちの大事な味方だ」

最初の頃(13話)まではリシュリューが王妃の元に送り込んだスパイだったコピー。
今やダルタニャン達にすっかり懐いて、今回も伝書鳩ならぬ「伝書オウム」として大活躍しているコピー。
あまりの馴染みぶりに、元々はリシュリュー側だったことを忘れてしまいそうだ。

アトス「おおっとしまった。これはいかんぞ。いやー、ダイヤを捨ててはまずかった。ちょっと待った」
ロシュフォール「待てん!」
アトス「武士の情けだ」
ロシュフォール「待てぬと言ったら待てぬ!」

見回りに来た牢番を欺くための小芝居・その壱。
テーブルに座ってトランプに興じていると見せかけて、牢番が立ち去ると即行で壁石を削っています。
ちなみに、フランス人であるアトスが何故「武士の情け」という日本語のことわざを知っているのかは、考えてはいけない(笑)。

マンソン「ルイの肖像画が落ちるということは、奴の運命もこれまでという神のお告げかな」

フィリップへの催眠術を破るため、壁に掛けられていたルイの肖像画をアラミスが投げナイフで落としたシーンより。
マンソンの口から「神のお告げ」という、悪党らしからぬ言葉が出たのが意外。悪党なりに処刑しようとしているルイに対して憐れみでも湧いたのだろうか。

ロシュフォール「あれぇー、それはまずい。待った!」
アトス「待ったは無しだ」
ロシュフォール「何ぃ!先程の恩を忘れたのか」
アトス「あの時と今は別だ」

見回りに来た牢番を欺くための小芝居・その弐。
先程の続きらしく、待ったを認めたロシュフォールが、逆にアトスに負かされそうな展開(という設定)。
勝手な想像だけど、このやり取りはアトス役・神谷明さんとロシュフォール役・千葉繁さんのアドリブっぽいなぁ。

ミレディー「死んでしまった人間を生き返らせることは、国王でもできません」

鉄仮面(ルイ)の処刑を頑として拒むフィリップに対し、偽の命令書を書いて処刑を強行しようとするミレディーのセリフ。
その裏には「国王と言っても、死んだらお終い」という、国王をすり替えたり殺そうとする者の恐ろしさが垣間見られる。

アラミス「これを何処で手に入れた!言えなければ私が言ってやろう!今から6年前、お前たちがフィリップ王子を誘拐した時に、王子を守っていた貴族から奪ったものだ!そうだろう!」

マンソンが付けていたペンダントを剣で絡め捕り、鬼気迫る表情で迫るアラミスのセリフ。
その凄まじさは、マンソンに抗弁する隙を一切与えない程のものだった。

アラミス「ラクダという盗賊団の、ただの物盗りということだったが、こんな陰謀が仕組まれていたとはな」

ペンダントを証拠にマンソンを、そして鉄仮面一味がフィリップを攫ったことを断罪するアラミスのセリフ。
視聴者的には、アラミスがマンソン達に従っていたのは国王すり替えの陰謀に気づいていたからだと思っていたけど。このセリフから察するに、陰謀の事はもちろん、フランソワの主人が国王の双子の兄弟である事も知らなかったらしい。
それこそ「マンソンが付けていたペンダント」という細い糸を頼りに、陰謀に迫っていたのか。

アラミス「これを見ろ!これが6年前の私だ!お前に殺されたフランソワは、私の許婚だった!私はフランソワの仇を討つために男の姿となり、銃士になっていたのだ!これは私の、フィアンセへの贈り物だった!」

アラミスが女であることを隠して銃士になった理由を、最も端的に明かしたセリフ。
それを言った相手が、友であるダルタニャン達でもなく、使える主である国王や王妃でもなく、憎むべき仇敵であるマンソンというのは、何とも悲しい。

マンソン「許してくれ!殺すつもりはなかった!」
アラミス「鉄仮面が殺せと言ったのか!」
マンソン「私は殺したくなかった!でも顔を見られてしまって、見てくれ、この傷を…」

アラミスの糾弾を受け、もはやシラを切れないと観念したマンソン。もはや見苦しく命乞いをするだけ。アラミスも興奮が収まり、一瞬気の緩みを見せるが……。

ナレーション「アラミスは今、何処で何をしているのでしょう。
アトスは脱獄に成功するのでしょうか。
三銃士が揃えば、鉄仮面たちの陰謀を打ち砕くことができるのです。
ダルタニャンは何としてでもシャトレの牢獄に潜入しなければならないと、
流れる星に、堅く誓ったのでした」

ルーブル宮殿を脱出したアラミス、シャトレ牢獄で脱獄の準備をするアトス、そして牢獄を見張るポルトスとダルタニャン。
散り散りに動く3人が、やがて力を結集させて陰謀に挑む。そんな心躍る展開を予感させるナレーションで、この話は締め括られる。


■Next Episode ~次回予告~■

アトス「国王陛下は明日の朝10時に、鉄仮面として処刑されてしまう」
ローシュフォール「そ、そうなったら次はリシュリュー閣下が!」
アトス「そして、アンヌ王妃もな」
ローシュフォール「えらいことではないかぁ!」
アトス「ダルタニャンとポルトスが、うまくシャトレの中に入り込めれば、何とかなるんだが」
ローシュフォール「次回『アニメ三銃士』」
アトス「《鉄仮面を救出せよ》」
ローシュフォール「ダルタニャン!何をグズグズしてるんだ!早く助けに来ぉーい!」

本編でも獄中で絶妙な掛け合いを披露したアトスとローシュフォールによる予告。
「鉄仮面編」のクライマックスとなる回の予告を担当する辺り、ローシュフォールも出世したもんだ。特に締めの「早く助けに来ぉーい!」が何ともユーモラス。


■Mousquetaires Journey ~三銃士紀行~■
フランス・ロワール地方の3回目。「ノストラダムスの予言の城」ことショーモン城と、「新教徒の悲しみの城」ことアンボワーズ城を紹介。
ショーモン城は16世紀にノストラダムスが国王アンリ2世の事故死を予言。そして予言通りアンリ2世は騎馬試合で騎士の槍に突かれて死を迎えたという。
アンボワーズ城にも1560年に大勢の新教徒が虐殺された過去があり、共に悲しい歴史を持った城の紹介となっている。


(記:2014年2月16日/追記:2020年05月04日)