アニメ三銃士

42話:アラミスの裏切り

(放送日:1988年11月11日 / 演出:水谷貴哉 / 作画監督:辻初樹)

■Story■
ルーブル宮殿に戻ったフィリップはリシュリューを呼び出し、園遊会の費用を国費から横領したと弾劾する。費用はマンソンが負担を申し出たと弁明するリシュリューだったが、マンソンは費用など出していないと証言する。さらにミレディーも、リシュリューが国費を横領していると証言する。
リシュリューは必死に抗弁するも、フィリップの命令で逮捕され、銃士隊によってシャトレ牢獄へ連行される。かくしてリシュリューの排除に成功したフィリップは、マンソンを後任として財務官に任命する。


リシュリューの逮捕にロシュフォールは激しく憤る。しかし、護衛隊長ジュサックは怒るどころか、リシュリューを見限り「これからはマンソンの時代だ」と言ったため、両者は袂を分かつ。


一方、ボナシューの居所を探すダルタニャンとジャンは、リシュリューをシャトレの牢獄へ護送中の三銃士と出会う。そして、収監中の鉄仮面にボナシューの居所を尋問するよう頼む。
リシュリューの護送を終えた三銃士は、看守長ベーズモーを誘って彼の部屋で酒宴を始める。ポルトスが持ち込んだ酒でベーズモーを酔わせ、その隙にアトスが牢の鍵を持ち出す。


アトスは地下牢の鉄仮面(ルイ)を尋問するが、鉄仮面は「自分は国王だ」の一点張り。そこでアトスは鉄仮面に対し、国王なら知っているはずの事柄を次々に問い質す。鉄仮面は国王の父母に関する質問には即答したが、パリの人口について問われると答えられないどころか「リシュリューにでも聞け」と言い出す。
アトスは目前の鉄仮面が国王に似ていると思いつつも、国王本人だと信じることができなかった。


鉄仮面の尋問が不調なため、ダルタニャンはマンソンの身辺からボナシューの居場所を探そうとする。そしてマンソンの馬車を追跡し、乗っていたマンソンとミレディーと対峙する。しかし、リシュリューの元から鞍替えしたジュサック率いる護衛隊によって妨害される。
ダルタニャンはミレディーとマンソンが、今や侍女と財務官として国王に仕えていると知り困惑する。


その頃、ルーブル宮殿ではトレビルがフィリップの元を訪れ、マンソンやミレディーの抜擢に異議を申し立てていた。そしてフィリップと口論の末、トレビルは銃士隊長の辞任を申し出る。
これに対し、鉄仮面一味は後任の銃士隊長に三銃士を任命して、本物の国王を鉄仮面として処刑させようと目論む。さらに鉄仮面を残酷な悪党だと市民に知らしめるため、監禁中のボナシューを餓死させようとしていた。


トレビルの辞任挨拶の後、三銃士は国王の元に呼び出される。そして後任の銃士隊長として、先ずアトスが任命されるが、アトスは固辞。続いて任命されたポルトスも、マンソンへの批判を口にして固辞する。怒ったマンソンはポルトスに殴りかかるも、あしらわれて転倒。着けていたペンダントが外れてしまう。


足元に転がったペンダントを手に取ったアラミスは表情が一変。そして、薦められるまま銃士隊長の職をすんなりと引き受けてしまう。これにアトスとポルトスは激怒し、銃士隊を辞任してしまう。


■Explanation■
鉄仮面一味によって、前回のアンヌ王妃に続きリシュリューが追放される。偽国王のフィリップも、前回の頼り無さから一変、堂々とした態度でリシュリューを弾劾して行く。
その罪状である「園遊会の費用として国費を横領した」という件は、視聴者目線では嘘だと分かっているだけに、マンソンの証言が白々しく思えてしまう。あと、ミレディーが指摘した「これまでも国費を横領していた」という件について、リシュリューは否定も弁明もしていない。真偽は描かれていないけど、本人にとっては横領ではなく「フランスのために、国費を自分の裁量で使っていた」という考えなんだろうな。


かくして、ダルタニャンたちにとって宿敵だったリシュリューが、思わぬ形で失脚する。これに対して、三銃士は「イイ気味だ」と喜ぶかと思いきや、「国王のなさることは分からない」と困惑する。リシュリューを「追放されて当然の悪大臣」と描かない辺りは、後の改心と和解の伏線になっている。


主を失ったロシュフォールとジュサック。ジュサックは悪役らしく(笑)損得勘定でリシュリューに従っていた事が明らかになる。さらには「これは俺のモノになったんだ」と言わんばかりに、リシュリュー愛用のビリヤードに興じる図々しさ。一方のロシュフォールは、リシュリューへの忠誠心に基づき単独行動を起こす。「想い人」と「忠誠を捧げた主人」という違いはあれど、他人のために損得抜きで猪突猛進する辺り、ダルタニャンとロシュフォールは似た者同士なんだなぁ。


牢内で繰り広げられる、アトスと鉄仮面(ルイ)の問答。パリの人口を問われたルイは答えられないばかりか「リシュリューにでも聞け」だの「国王は貴族の事だけを知っていればいい」と反論。国王らしからぬ、でも実はルイらしい感情的で身勝手な反論をする。これにはアトスも「やっぱりお前は国王じゃない!」と言わんばかり。アトスは「国王」という存在に対して過剰な理想を抱いてたのか、ルイ個人の性格を理解していなかったらしい。


マンソンを張り込んでいたダルタニャンは、久々にミレディーと対面し言葉を交わす。鉄仮面編になってからも劇中に出ずっぱりな2人だけど、まともに会話をするのは処刑を見逃して以来になるのか。あの時は「銃士と、バッキンガム公爵殺害犯」だったけど、劇中時間で半年以上経った今では「元・銃士と、国王の侍女」と立場が逆転していた。


銃士隊長を辞任したトレビル。王妃やリシュリューと違い、鉄仮面一味の追放対象には無かったらしいので、一味にとっては棚ボタのような形でルーブルから、そして物語からも姿を消す。もしも何らかの罪をでっちあげて幽閉なり投獄をしていたら、ダルタニャンや三銃士が黙っていなかったはず。
そう考えると、「最重要にして必要最小限の人物」として、王妃とリシュリューは追放されたんだろうな。


ミレディーはトレビルの後任に三銃士を据えようと提案する。自分たちの陰謀を追っていた人物を要職に就けるのは危険なはずだけど、マンソンの尻尾を掴めなかったから騙し切れると思ったのか。あるいは隊長の座を与えておけば素直に従うだろうと予想していたのか。いずれにしても、三銃士を侮っていたに違いない。
案の定、アトスもポルトスも固辞する。それどころか、国王の御前だというのにミレディーとマンソンを公然と批判する。三銃士にとってはミレディーもマンソンも、リシュリュー以上に相容れない「敵」であり、共に国王に使える事を許せない「悪」なのだから。


しかし、アラミスだけは翻意して隊長を引き受けてしまう。アラミスはシリーズ序盤で「実は女性」という最大級の秘密が視聴者(とジャン)に明かされ、何かとワケありなキャラに描かれていた。それだけに今回の裏切りもジュサックなんかとは違って、何らかの理由があると分かっているのだけれど、この展開は驚くばかり。


■Dialogue/Monologue■

ミレディー「リシュリュー様、この期に及んで言い訳はおよしあそばせ。貴方が国家のお金を長年に渡って横領し、自分の懐に入れていたことは、詳しく陛下にお伝えしてあるのですよ」
リシュリュー「裏切ったな、ミレディー!」
ミレディー「人聞きの悪い。私は陛下のため、フランスのために、本当のことをお話しただけ」
リシュリュー「おのれ!恩を仇で返すとは!」

鉄仮面逮捕に王妃追放。何から何までリシュリューの思い通りに事が運んできたと思いきや、その功労者であったはずのミレディーに突如裏切られてしまう。
なおリシュリューは、ミレディーの裏切りには怒っていたけど、国費を横領していたことについては否定も弁明もしていないことに注目(笑)。

リシュリュー「これは陰謀だ!陛下は騙されておいでです!」
ミレディー「陰謀はリシュリュー様のお手の物でしょう」

これまでに幾多の陰謀を巡らせて、政敵を尽く退けてきたであろうリシュリュー
しかし、いざ自分が陰謀に陥れられると、陳腐で感情的な言葉しか口に出せなくなっていた。

リシュリュー「鉄仮面と同じ牢に入るとは、何とも皮肉なものだな」
ベーズモー「鉄仮面は地下の最下等の牢、閣下は最上等の牢でございます」
リシュリュー「最上等でも牢獄は牢獄だ」

いくら上等であろうとも、リシュリューにとって牢獄とは「政敵を送り込む場所」であったはず。そこに自分が入れられる屈辱は如何ほどだったか。

ジュサック「世の中変わったんです。これからはマンソン様の時代です」
ロシュフォール「ジュサック!お前がそんな恩知らずの男だと思わなかったぞ!もうお前など頼りにせぬ!私一人でリシュリュー様の無実を晴らしてみせる!」
ジュサック「やれやれ、先の見えぬお方だ」

主であるリシュリューの失脚に対する、部下2人の反応。悪役らしく(笑)マンソンに鞍替えするジュサックに対し、ロシュフォールはあくまでもリシュリューへの忠節を貫く。

アトス「では、パリの人口は?」
鉄仮面(ルイ)「…?」
アトス「国王陛下ともあろうお方が、お膝元のパリ市民が何人いるか知らんのか!」
鉄仮面(ルイ)「そんなことはリシュリューにでも聞け!私が知っていなければならないのは、貴族の誰と誰が信頼でき、誰が叛きそうだということだ!」

ルイの「国王としての本性」が、図らずも露見したセリフ。その目には貴族たちの事しか、つまりはルーブル宮殿の中しか見えていなかったのかもしれない。

トレビル「逆らったわけではございません。陛下が間違った判断をなさった時には、それをお諌(いさ)め申し上げるのも、銃士隊長の務めでございます」
国王(フィリップ)「辞めたければ辞めるがよい!銃士隊長ごときに脅されて、一度決めたことを覆すわけにはいかぬのでな!」

トレビルの必死の説得に、一歩も引かないフィリップ。前話では偽国王としての立場に戸惑ったり、知らない人物(ダルタニャン)の名前を出されて困惑していたが、もはや腹を括ったのか別人のような威厳を見せる。

マンソン「無駄に苦しませるより、ひと思いに殺してしまったらどうだ」
鉄仮面「そうはいかん。飢え死にさせて、その惨たらしい死体を市民に見せつけてやるのだ。鉄仮面は残酷な奴として処刑されなければ、パリの市民は納得しない。何しろ貧しい市民は、まだ鉄仮面に施(ほどこ)しを受けた恩を忘れていないからな」

市民が鉄仮面に抱いていた「義賊」や「救世主」という姿も、当の本人にとっては「仕事」をやり易くするための偽りの偶像でしかなかった。そして、その偶像を自ら打ち砕くことに、一欠の躊躇や罪悪感も無かった。

アトス「お断りします!訳はトレビル隊長と同じです。リシュリューのスパイだったミレディーや、パリの市民の弱みに付け込んで大儲けしたマンソンなどと、一緒に働くわけには参りません!」
ポルトス「私もお断りします!鉄仮面の一味のようなマンソンの顔を見るだけで、飯が不味くなる」

ミレディーから銃士隊長に推薦されるも、アトスもポルトスも固辞する。それどころか、国王の御前でありながら、その部下であるミレディーやマンソンを公然と批判する。リシュリューに対しては抱いてなかったであろう、激しい憤りと不信感が向けられていた。

アラミス「どういうつもりもない。銃士隊長と言えば誰もが憧れる、やりがいのある仕事だ。アトスやポルトスが嫌なら、俺しかいないじゃないか」
アラミス「マンソン殿、未熟者ですが、よろしくお願いします」

アトスもポルトスも固辞したのだから、アラミスも…と思いきや。直前にマンソンが落としたペンダントを何気無く、やがて「何か」を確かめるように手に取る。そして「何か」に気付き驚愕の表情を浮かべる。
しかし、すぐに平静を取り戻し、銃士隊長の職をあっさり引き受けてしまう。どこか芝居染みた口調で引き受けた理由を語り、さらにはマンソンへ媚びるように、外れたペンダントを手渡す。


■Next Episode ~次回予告~■

ポルトス「一体、何がどうなってるんだ!
アトスが裏切り者のアラミスに逮捕され、シャトレの牢獄へ入れられてしまった!
なんとか逃げ出した俺は、ダルタニャンと共に、未だに行方のつかめないボナシューを捜し、マンソンの別荘に乗り込んでいった!
そこには…。
次回『アニメ三銃士』《アトス逮捕さる》。
ダルタニャン、ジャン!もう食ってばかりもいられないぞ!」

お馴染み三銃士…どころか、アラミスの裏切りに続き、アトスも逮捕されて、ついにポルトス独りとなった衝撃の予告。
あのポルトスが「食ってばかりもいられない」と言うことが、事態の危うさをこれ以上無い程に表している。


■Mousquetaires Journey ~三銃士紀行~■
パリ市の紋章と17世紀の市民について紹介。
パリ市の紋章である帆船は、パリ発祥の地であるシテ島を象徴しているといわれ「パリはシテ島セーヌ川と共に発展してきた」と解説されている。
また、17世紀に建てられたリュー・ボルタ3番地の建物の映像と共に、当時の市民の食生活を紹介。当時は朝食を採る習慣が無く、せいぜいスープ一杯だけ。貴族や富豪は狩りの獲物である猪・鹿・野鳥などの肉を食べていたが、下級官吏や庶民の食卓は貧しかったという。また、物語当時(1625年ごろ)のフランスにはまだコーヒーは無く、ルイ14世の時代にも貴重品だったという。


(記:2013年6月18日/追記:2020年04月29日)