アニメ三銃士

Column05 堀り出せ!設定資料館

今回のコラムは『アニメ三銃士』の放映開始に先立ち、アニメ情報誌に掲載された設定資料を紹介してみる。

アニメ三銃士 パーフェクトコレクション DVD-BOX 1

アニメ三銃士 パーフェクトコレクション DVD-BOX 1

アニメ三銃士 パーフェクトコレクション DVD-BOX 2

アニメ三銃士 パーフェクトコレクション DVD-BOX 2

この出典は学習研究社より発行のアニメ誌「月刊アニメディア」の1987年10月号。
製作元である学研の発行だけあって、アニメディアは『三銃士』の情報が充実していたけど、この設定資料はその先駆けというべきか。
そして設定の内容は、実際の本編からは伺えなかったものや、本編を観たら「全然違うだろ!」とツッコミを入れたくなるものまで様々。これもまた最初期(放送前)の設定ならではの面白さがある。
というワケで、設定資料の導入として掲載された『アニメ三銃士』の紹介文は以下。

有名なA・デュマ原作の歴史冒険小説が、NHKの秋の新番組に登場する。
原作に基づきながらも大胆にオリジナル要素を加え、よりワクワクさせるアクションあり、友情あり、恋愛ありとエンターテイメントを追求する。

「大胆なオリジナル要素」というのが『"アニメ"三銃士』最大のポイントであり、それを放送前から強調しているのが伺える。


最初の紹介ページは「ダルタニャンファミリー」という見出し。
これは「ダルタニャンと、その仲間たち(ジャンやロシナンテ)」という意味であり、「ダルタニャンとジャンの家族」というダブルミーニングだろうか。

ダルタニャン
ガスコーニュ生まれの熱血漢、16歳。
コンスタンス以外の女性には興味を示さない。
嘘がつけない性格で、やむなく嘘をつくと、思わず顔が赤くなってしまう。
身が軽く、動きが早い。
いつの日か銃士隊に入れることを願って頑張る。
(声/松田辰也


はだしのジャン
6歳。はだしで街を歩くのが好きな浮浪児。
生き別れの母を捜しているうちに、ダルタニャンと知り合い、行動を共にするようになる。ダルタニャンを兄のように慕う。
また、いろいろな遊びや仕掛けを発明する天才。数学にも強く、生活力のある楽天家で周りを励ます。
(声/田中真弓


カトリーヌ
ジャンの母。20歳の頃の設定。
ジャンの父が戦争で死んでしまってから、ジャンと二人で暮らしていた。
しかし、新教徒をかくまった罪で捕らえられ離れ離れに。


ロシナンテ
ダルタニャンの愛馬。名馬とは言いがたいが、愛嬌があって警察犬よりも鼻がきくのがとりえ。
体の色も形も一風変わっていて馬らしくないのが特徴。


ヴィクトール
ダルタニャンのおじいさん。パリに旅立つダルタニャンに剣をさずける。
頑固者で厳しいが、根はあたたかい人


カトリーヌ
ダルタニャンのおばあさん。やさしい。ジャンの母と同名の別人。

本編では僅か(1話前半と27話冒頭)しか出番の無かったダルタニャンの祖父母、テレビシリーズでは回想のみ登場のジャンの母も、ちゃんと設定が存在している。あと、ダルタニャンの祖母とジャンの母親の名前が同じ「カトリーヌ」というのは、ちょっとしたトリビアだ。
ダルタニャンの設定では「コンスタンス以外の女性には興味を示さない」の一文に激しく共感。コンスタンスへの想いは、設定レベルから焼きこまれていたワケだ。
あとジャンの設定である「数学にも強い」というのは、人形売りに風呂屋といった商売をしていた事を反映したものかな。あと「楽天家」という設定の割りには、母を生き別れた過去や貴族への反発など、結構暗い面もあったっけ。


続いては見開き2ページで「ルーブル宮中関係の人々」。
まずは三銃士とトレヴィル隊長の設定から。

トレヴィル
国王ルイ13世率いる銃士隊の隊長。
ダルタニャンと同じガスコーニュの出身で、ダルタニャンのおじいさんがダルタニャンにパリで頼るように教える人。
そしてダルタニャンのあこがれの武人であり、父親的存在。
(声/玄田哲章


アトス
28歳。トレヴィルの下で銃士隊の一人として活躍する。
思慮深く頭のきれる三銃士の知恵袋。
酒と賭け事が好きだが、なぜか女性には、あまり関心がない。
(声/神谷明


アラミス
22歳の美剣士。実は女性だが、知っているのは隊長のトレヴィルのみ。
のちには、ジャンも気づいて、何かとかばってもらうことになる。近いうちに、ヌードも登場!?
乗馬、剣術などにもすぐれている。
(声/山田栄子


ポルト
25歳。銃士隊の一人。十人力の大変な力持ちで、気のいい筋肉質の大男。
オシャレで身の回りの物や衣装に凝る。
女性に対しては不器用だが、自分ではモテると思い込んでいる。
(声/佐藤政道

目を惹くのは何と言ってもアラミス。放送前の時点で「実は女性」と明かされているではないか!
しかも「近いうちに、ヌードも登場!?」となればもう、テレビの前でスタンバイOKさ!(←男って単純)。
そしてアトスの「女性にはあまり関心が無い」と、ポルトスの「自分はモテると思い込んでいる」という設定。アトスもポストスも、本編では色恋沙汰のエピソードは皆無だったけど。この設定を見た感じだと、それぞれに恋愛話が用意されていたのかもしれない。


同じく「ルーブル宮中関係の人々」より。
こちらはコンスタンスと国王夫妻の設定。

コンスタンス
16歳。ダルタニャンの永遠の恋人で、アンヌ王妃の衣裳係。
やさしく明るい、行動力もある美しい女の子。陰謀に巻き込まれそうになる王妃を助ける。
(声/日高のり子


ボナシュー
コンスタンスの父で町の仕立屋。金もうけが大好き。
(声/峰恵研


マルト
ボナシュー家のお手伝いさん。コンスタンスが留守の間、しっかり家を守る。


ルイ13世
フランスの国王で24歳。育ちのよいおぼっちゃま。
リシュリューに頭が上がらない。王妃を深く愛する。
(声/田中秀幸


アンヌ王妃
24歳。ルイ13世の王妃。スペインからお嫁入りしたため、リシュリューに邪魔にされる。
芯は強く、聡明な女性。
(声/岡本茉利


バッキンガム
イギリスの宰相で、アンヌ王妃のおさな友達。
人妻となったアンヌ王妃に恋こがれて接近してくる。

永遠の恋人」というのがダルタニャンとコンスタンスの、初々しくて甘酸っぱくてプラトニックな恋愛模様を表現しているなぁ。
ボナシューの「金もうけが大好き」というは、本編とは最もかけ離れた設定だ。女優ナナから預かった宝石を鉄仮面に奪われた時は私財を投げうって弁償したというのに……。
そしてルイ13世とアンヌ王妃は、共に「24歳」という年齢設定(ポルトスの一歳年下)に驚き。それぞれ国王と王妃という威厳や風格を感じさせるキャラなので、より年長にデザインされたんだろうな。
そしてシリーズ前半におけるトラブルメーカーであるバッキンガム公爵。ここでの設定によるとアンヌ王妃との関係は「おさな友達」ということで「元恋人」でも、ましてや「不倫関係」では無かった模様。


続いてはシリーズ前半の敵役である「リシュリューとその一味」の設定。

リシュリュー
フランスの宰相でルイ13世をさしおいて実質的な政治手腕をふるっている。
目的のためには手段を選ばない策略家。
かつてはルイ13世の家庭教師。
(声/田中信夫


ミレディー
リシュリューの腹心で頭のきれる悪女。
過去に受けた辛酸のために世の中(貴族社会)に対して敵意を持ち、彼女の悪事の源泉となる。
(声/平野文


コピー
リシュリューがアンヌ王妃の誕生日にプレゼントするオウム。
実はリシュリューのスパイで王妃の行動を探らせる。
(声/龍田直樹


ペペ
象使いが飼っていたサルだが、なかなか賢い。
動物を自由に操るミレディーにひきとられ、ダルタニャンたちを混乱させる。


ロシュフォール
伯爵で、宰相リシュリューの信任あつく、いわばリシュリューの懐刀的な存在。
ミレディーと共に暗躍する。いずれは、ダルタニャンと剣を交える。
(声/千葉繁


ジュサック
リシュリューの護衛隊の隊長。
リシュリューの命令に従い、コンスタンスを誘拐したりする。


リシュリュー護衛隊
隊長ジュサックの手先として、ダルタニャンや三銃士たちとしばしば剣を交える。
なかなか手ごわく、腕がたつ者も多い。

リシュリューの「かつてはルイ13世の家庭教師」という設定は妙に納得。
そしてミレディーについては「過去に辛酸」「貴族社会に敵意」と、根幹に関する設定がこの時点で書かれている。ロシュフォールやジュサックが「リシュリューの手先」的な説明しかされていないのとは対照的だ。
この時点でシリーズ後半でのリシュリューとの決別(=鉄仮面との共闘)を予感させる。
なお、シリーズ後半の敵役である鉄仮面一味の設定は未掲載。この時点では設定自体が作られていなかったのか、それとも作成済みだったけど先の話過ぎたため紹介されなかったのか。
強烈な個性を持つ鉄仮面やマンソンについてどんな設定が記されていたのか、見てみたかったなぁ。


最後はシリーズ序盤に登場した「ゲスト&サブキャラクター」の設定。
「あぁ、いたいた!」というキャラも載っているかも。

ガスコーニュの牛
ダルタニャンの故郷、ガスコーニュの領主が飼っている大きな牛。
ダルタニャンは象の方が大きいと主張する。(1話)


ジョルジュ
ダルタニャンの故郷、ガスコーニュの領主の息子。
誰もはむかう者がいないため、わがままし放題でダルタニャンをいじめる。(1話)


シュヴルーズ夫人
アンヌ王妃の親友。アンヌ王妃とバッキンガム公の連絡係をしている。
王宮のすぐそばに住んでいる伯爵夫人。


シャルロット
ルイ13世とアンヌ王妃を仲たがいさせるためミレディーがロシュフォールを介して送り込んだ拳銃の女達人。(9、10話)
男装してルイ13世にとりいる。本当は3歳の娘がいる。


貴族と貴婦人
イギリスの貴族と貴婦人たち。
ロンドンの舞踏会でルイ13世とアンヌ王妃の噂話をする。(9話)

この中での最重要キャラと言えば、何と言っても1話に登場したジョルジュと牛。何たってこの2人、否、1人と一匹がいなければダルタニャンがパリに旅立つ事も、そして『アニメ三銃士』の物語が幕を開けることも無かったのだから。
あとシュヴルージュ夫人も、原作小説ではアラミスとごにょごにょだったりアトスとごにょごにょだったり、物語全体における重要キャラだったけど。『アニメ三銃士』では王妃と公爵の連絡係として登場するゲストキャラに過ぎなかった。何とも勿体無い気がする。


最後の最後に、設定資料と併せて掲載されていたスタッフコメントを紹介。
まずはキャラクターデザインの尾崎真吾さん。

■キャラデザイナーからひと言
僕は今までコマーシャルアニメをやっていて、物語のキャラ作りはこれが初めてなんです。
描きやすいように描きながら僕らしさが出せたら、と思っていたんですが、キャラを動かしやすいように修正していくうちにどんどんアクが抜けてしまったようで、そこは反省しています。
あと、時代考証は大変でした。でもあの頃の絵がすごく好きでしたので、絵の中に描かれたヨーロッパ庶民の生活を基にしようと思ってからは、描くのが楽になりました。
それから、僕の描く顔はどうしても西洋風になってしまうんですが、今回のはうまく中和されて、日本でも外国でも受け入れられるようになったんじゃないかな。
キャラは女性のキャラの個性を出すのが難しかったですね。はだしのジャンのはだしの足も、バランスに苦労しました。(尾崎真吾)

アニメ三銃士』のキャラデザインと言えば、メインの作画監督を務めた辻初樹さん(肩書上は「サブキャラクターデザイン」)が思い浮かぶけど。基本的なデザインは尾崎さんが手掛けた模様。
尾形さんは主に『みんなのうた』や『ひらけ!ポンキッキ』のショートアニメを務めていて、ストーリー物の、加えて時代物である『アニメ三銃士』のキャラデザインには苦労した事が伺える。


そして学習研究社のプロデューサーである金子泰生さんのコメントを紹介。

■プロデューサーの談話集
どうして今『三銃士』なのかというと、ストーリーがしっかしりたもので、子供が持っている夢とか愛を描きたかったのと、日本のアニメファンのみならず、ナショナル・マーケットにも流せるように、と思ったからなんです。
そして、『三銃士』なら、お母さんやお父さん、おじいちゃん、おばあちゃんまで知っている有名な作品ですから、単なるアニメ作品、というよりも、ファミリーアニメとしても楽しんでもらえるんじゃないかなぁ。
そのために原作にはないジャンや動物たちを登場させて、子供たちにも入りやすい設定にしたり、ダルタニャンも少年に変えて彼の成長物語をメインに描いていく予定です。
また、監督や脚本家とパリまで行って美術や歴史を調べたので、そういった忠実な所も楽しめると思います。
冒険活劇にご期待下さい。(金子泰生)

日本に留まらず世界規模で、かつ子供から大人までファミリー幅広い層に人気を得る題材として選ばれたのが『三銃士』だったという。
まさに放送を前にして、『三銃士』をアニメ化した理由と意気込みを語っている貴重なコメントだ。