アニメ三銃士

Column49 独自考察・鉄仮面の素顔を追え

久々のコラムとなる今回は、本編で描かれなかった部分の独自考察。
お題はズバリ「鉄仮面の正体」についてです。

原作小説では「仮面を被らされて幽閉された人物」としての鉄仮面は登場して、その正体も国王ルイ14世の双子の兄弟フィリップと、時代の違いはあれども『アニメ三銃士』と共通しています。しかし「不気味な鉄の仮面で素顔と正体を隠した謎の盗賊」としての鉄仮面は、原作小説には登場しません。しかもミレディーやマンソンのように「国王すり替えの陰謀を企む者」の役割を担うのは、あろうことか我らが三銃士の一人・アラミスなのです。


アラミスと共に『アニメ三銃士』という作品のオリジナリティを象徴するキャラでありながら、アラミスのように過去や正体が描かれることなく、劇中でも最期すら描かれることなく姿を消した。そんな「仮面の盗賊」こと鉄仮面とは、一体何者なのか。その正体を独自考察してゆきます、


■仮説1:実は「表の顔」があった
鉄仮面一味を単なる盗賊団と考えてはいけない。大勢の手下を抱えた上に、ベル・イール島の廃修道院を要塞に改築する程の資材と人員(奴隷)を調達できる。これは盗賊が盗みで賄えるレベルを超えている。そして何よりフランスのトップである国王ルイ13世や総理大臣リシュリューですら知らなかった「国王の双子」ことフィリップの存在も掴む情報収集能力まで持っている。
これだけのヒト・モノ・カネ・ナレッジを持つには、それ相応の社会的な立場が無いと難しい。となれば鉄仮面の正体も、国王や有力貴族や大商人とも伝手がある、それ相応の「表の顔」がある人物だったのでは。さらに言えば「表の顔」でルイやリシュリューやアンヌ王妃とも面識があったのかも。例えばリシュリューにとってのロシュフォールやミレディーのような、懐刀的な貴族や汚れ仕事を担うスパイや傭兵のような人物だったのかもしれない。
そしてミレディーやマンソンの前でも仮面を被り続けていたのも、二人に「表の顔」を知られることで弱みを握られるのを防ぐためだったのかもしれない。
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■仮説2:素顔に「目印」があった
正体までは分からなくても、一目で見分けがつくような「目印」があれば、それはそれで困る物。例えばミレディーは肩に罪人の烙印を押されたため、裏社会で生きることを強いられた。また正体が盗賊だったマンソンは肩に瘤(こぶ)があったため「ラクダ」という異名で知られていた。ならば鉄仮面には、その顔に「目印」となる何かがあったのではないか。その「目印」を隠すために、より目立ってかつ自分で取り外せる鉄の仮面を被ってカモフラージュしていたのではないか。
だとしたら、鉄仮面の顔に刻まれた「目印」とは何だったのか。それはマンソンにとっての「ラクダの瘤」のように、己の正体に直結するモノかもしれない。あるいはミレディーにとっての「罪人の烙印」のように、鉄仮面が人々から忌み嫌われ、悪の道に走る切っ掛けとなった屈辱的なモノなのかもしれない。
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■仮説3:実は「複数の鉄仮面」がいた
我々は大きな勘違いをしていたのではないか…アニメ三銃士』の作品世界において「鉄仮面は一人しかいない」という勘違いを…。
例えば第33話では鉄仮面に化けたミレディーが劇場に現れ、ダルタニャンと三銃士を引きつけて、その隙に本物の鉄仮面がボナシュー宅を襲った。つまり、鉄仮面と同じマスク(服装)をしていれば、誰でも鉄仮面として悪事を働けるのだ!そして、劇中に登場した鉄仮面は同一人物ではなく、同じ仮面を被った複数の人物な可能性もあるのだ!
となれば、ベル・イール島で死んだとされる鉄仮面も、そんな数多いる鉄仮面"たち"の一人に過ぎなかったのでは。フランス乗っ取りを企んだ鉄仮面の他にもヨーロッパ各地で、否、世界各地で悪事を働いていた鉄仮面"たち"が存在していたのではないか。
さらに言えば、そんな鉄仮面"たち"の元締めである黒幕、即ち「ボス鉄仮面(仮称)」が存在している可能性さえあるのだ!ひょっとしたら、そのボス鉄仮面は作品世界の何処かで「フランスの鉄仮面がやられたか。しょせん奴は鉄仮面たちの中でも最弱…」と余裕ぶって、ダルタニャンたちを嘲笑っているのかもしれない。
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■仮説4:実は「仮面が本体」だった
我々はさらに大きな勘違いをしていたのではないか…そもそも鉄仮面に「正体」となる人間が存在するという大きな勘違いを…。
そう!「鉄仮面」というその名が示すように、実は鉄の仮面それ自体が呪いや魔術や超古代文明や大宇宙の大いなる意志的な諸々の超常的なサムシングを持っているんだよ!!
な!なんだってーっ!!!
そして!被った人間の肉体と人格を乗っ取って、劇中で見せたような怪力や超人的身体能力を発揮するような、常人ならざる怪人にしてしまう、まさに呪われた仮面なんだよ!
な!なんだってーっ!!!
そしてそして!劇中で「鉄仮面」を名乗っていた人物は、実はかつて「鉄仮面」を倒して、その素顔を見るべく仮面を外そうとするも、逆に仮面に体を乗っ取られて新たな「鉄仮面」にされてしまった、そんな悲劇の人物なんだよ!
な!なんだってーっ!!!
もしも!最終回で鉄仮面を追い詰めたダルタニャンが仮面を外させることに成功していたら、逆に体を乗っ取られてダルタニャンが新たな鉄仮面になっていたんだよ!
な!なんだってーっ!!!
…いやいや、ファンタジーやオカルトやホラーなら定番だけど、流石に『アニメ三銃士』の世界観じゃ有り得ないな。忘れよう。


■結論:鉄仮面は「悪役の記号」だった
メタ的な分析をすると、鉄仮面の正体なんて存在しないし必要じゃない。何故なら「仮面を被った不気味で恐ろしい悪役」という記号的なキャラであり、ルイとフィリップの和解を描くための舞台装置だから。
パイロット版における鉄仮面の正体はルイの双子の兄(を名乗る人物)で、TVシリーズにおけるフィリップに相当するキャラだった。そしてラストは正体を見破られて逃げ出した鉄仮面を、ルイが敢えて見逃すというもの。これは尺の短さもあるけれど、ルイが出会ったばかりの兄弟を断罪するラストでは後味が悪過ぎる。たとえ、その兄弟が「盗賊の鉄仮面」であっても。そんなスタッフの意図があったと推測されます。
そこでTVシリーズの鉄仮面を明確な悪役とするため「国王の双子の兄弟(=フィリップ)」という要素を切り離した。さらにはフィリップとの仲介役であり、表立って陰謀を準備する仲間としてマンソンも追加した。これによって鉄仮面は仮面の下の「正体」も「表の顔」も奪われて、劇中ではただ「仮面を被った悪役」としてのみ存在することになった。物語の都合とはいえ、こうなっては鉄仮面が些か不憫に思えます。
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■余談:鉄仮面の正体を「決める」のは…
そんな鉄仮面ですが、第50話でルイとフィリップの和解が描かれ、続く第51話でマンソンが最期を迎えると、僅かながら「悪役の記号」から脱した様子が描かれます。それが最終回の、ミレディーとの別れのシーン。ベル・イール島の爆発が迫る中、ダルタニャンと決着を付けるべく残ったミレディーを、鉄仮面は律義にも潜水艦の準備をして待ち続ける。やがて待ち切れなくなり、わざわざ戻って力ずくでミレディーを連れて行こうとする。そして拒まれると怒るどころか、納得したように別れの言葉を告げて去って行く。それまでの記号的な悪役である鉄仮面ならミレディーを見捨てて一人で逃げていたはずだし、拒まれたら怒りに任せて殺していたはず。でも、最終回での鉄仮面はそうしなかった。何故だろう。
これは、今まで記号的な悪役に徹し通した鉄仮面に対する、スタッフからのご褒美だったのかもしれない。あるいは鉄仮面が劇中で放ち続けていた強烈な存在感が、単なる記号的な悪役で終わることを許さなかったのかもしれない。いずれにせよ、劇中では諸々の事情により描かれなかっただけで、鉄仮面にだって素顔がある、正体がある、そして人格がある。それを物語が終った後で、観た人の想像に委ねるためだったのでは。
ということで、鉄仮面の正体に正解は無い(分からない)のだから、それを「決める」のはファンの役目であり、楽しみでもあるのです。僕がここで書き連ねたのも「仮説」に過ぎません。ふと気が向いた時に、ダルタニャンやジャンや三銃士の「その後」に想いを馳せるついでにでも、「鉄仮面の正体って何者なんだろう」と考えるのも面白いですよ。
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