アニメ三銃士

Column42 語ろう!『アニメ三銃士』(証言アソート編1)

アニメ三銃士』放送当時の、アニメ情報誌に掲載された関係者のコメントを紹介する「語ろう!」シリーズも一区切りしたワケですが。ここからは単独の「証言」として取り上げる機会が無かった、短めのコメントを寄せ集めて「アソート編」として一挙に紹介します。

今回は放送開始前・開始直後に掲載された、湯山邦彦監督のコメントを中心に紹介します。これからまさに幕を開けようとしている『アニメ三銃士』への期待感も相まって、いずれも意気込みに満ちたコメントばかりです。


まずは『アニメ三銃士』が最初にアニメ誌で紹介された、記念すべきコチラの記事から。

大河ドラマ的な展開に、アクションあり、純愛あり、政変劇ありの、いろんな要素を盛り込んで、織物を織り上げるように作り上げていきたいですね。ダルタニャンは荒けずりで、純粋な青年。その彼がみがかれていく過程もみどころの一つでしょう。
(監督・湯山邦彦/月刊アニメディア1987年9月号)

同じ歴史モノということで、放送当時に爆発的なブームを巻き起こしていた『独眼竜政宗』にあやかって「大河ドラマ的」と表現。そして主人公・ダルタニャンについて「荒削りで純粋な青年」と評している。でも、最初期のダルタニャンはコミカル過ぎて「お調子者で世間知らず」という印象かなぁ。
この記事は秋の新作アニメ群をレストランのメニュー風に紹介というコンセプト(なお、前のページで紹介されていたのは料理アニメの元祖である『ミスター味っ子』)。アンヌ王妃やリシュリューなど実在の人物が登場すること、綿密な時代考証が行われている点を踏まえて「本格派フランス風」と紹介している。各キャラについても、ダルタニャンを「田舎風で家庭的な味わい」、男装の麗人というオリジナル設定のアラミスを「当店ならではの趣向」と、料理になぞらえた紹介をしているのが面白い。そして、登場はまだまだ先となる鉄仮面(絵はパイロット版より流用)を「後半で登場いたしますので、しばらくお待ち下さい」と紹介しているのも心憎い。


同じくアニメディア1987年9月号より、パリでのロケハンについて語った貴重なコメント。

17世紀の建物が、結構そのまま残っていて、実物のスケール感、雰囲気を確かめることができたのが最大の成果ですね。たとえば、ルーブルでは王と王妃の部屋を見たんですが、バスケットのコートぐらいデカくて、想像以上でした。また、マレー地区という住宅街に行くと、二百数十年前の石造りの建物が残っているのには驚かされました。これらの見聞が、実際の背景作りに大いに役立ちますよ。
(監督・湯山邦彦/月刊アニメディア1987年9月号)

三銃士ロケ報告 17世紀のフランスにタイムワープ!」という見出しで、フランスでのロケハンの模様を紹介。ルーブル宮殿の一角を指さしてその巨大さに驚く湯山監督や、マレー地区に残る当時の建物も写真付きで掲載。なお、写真は載っていませんが「首飾り編」の舞台になるロンドンでもロケハンを行ったとのこと。
また、スケジュールは「7月8日〜18日まで」で、パイロット版『鉄仮面を負え』の制作・放送後に、本格的にロケハンを行ったようです。
湯山監督が語る「実物のスケール感、雰囲気」は、ネットで写真や動画が簡単に観られる現代でも得難い物。ましてや、ネットが無い放送当時は現地に行って「体験」しないと得られない物。そして、現代よりも手間もコストもかかる「ヨーロッパへのロケハン」を敢行したからこそ、当時の雰囲気溢れる世界観が描き得たのでしょう。


続いては掲載誌を変えて、『"アニメ"三銃士』の特徴をアピールしたコメント。

デュマの原作は新聞小説なんです。だから、もとは児童むけではなく、通俗小説的な部分が大きい。そのへんは少し抑え目にしてあります。アニメは連続冒険活劇の作り方で、ダルタニャンがパリに出て来てから銃士隊に入る1〜2年のエピソードを描いていきます。連続ものの面白さを楽しんでほしいですね。
(監督・湯山邦彦月刊アニメージュ1987年10月号)

「今年の秋は、海外の名作ものがいっぱい!!」という大見出しで、『アニメ80日間世界一周』『グリム名作劇場』と並んで紹介。記事見出しの「男児ダルタニャン登場!!」が示すように、原作小説が新聞小説(つまり大人向け)であることを考慮した上で「児童むけ」「冒険活劇」と、まさに「アニメ向け」にアレンジしたことが語られています。
また記事には「17世紀のフランスを描くために、当時の古地図を探した」と、スタッフの熱意を示すエピソードも。


お次は「『アニメ三銃士』のスポークスマン」ことNHK・久保田プロデューサーのコメント。

ポイントは三つあります。まず、歴史上の政略を扱った、スケールの大きな仕掛けが背景にあることが一つ。二つめは、作品のテーマでもある友愛です。ダルタニャンと三銃士の友情、コンスタンスとの恋物語などを通して、『自由や平等は手に入れたけれど、果たして、友愛も獲得できたのか』という現代への問いかけにしたい。

そして三つめが、主人公ダルタニャンの視点が、常に庶民の側、弱い立場の側に立っているということです。彼はコンスタンスのために戦うのであって、王を賛美するために戦っているのではないということを理解して欲しいですね。
こう言ってしまうと、とても堅苦しい感じかもしれませんが、ストーリーの展開は冒険また冒険の連続!かつての『ひょっこりひょうたん島』のように、見た世代の心に残る名作にしてみせますよ。
(NHKプロデューサー・久保田弘/月刊アニメディア1987年10月号)

放送開始を1カ月後に控えて、「陰謀渦巻く中、愛と友情のドラマが始まる!」と期待感を大いに盛り上げる見出し。作品を楽しむポイントとして「純愛も時にはコミカル」と、ダルタニャンとコンスタンスの恋を。さらに「知恵と友情の戦い」と、ダルタニャンと三銃士の友情を紹介。
そんな中でひと際目立つのが久保田Pのコメント。特に『自由や平等は手に入れたけれど〜』の件は、歴史モノならではのスケールの大きさ。後の「別冊アニメディア」に掲載されたインタビューでも同様の事が語られており、久保田Pが作品に込めたテーマが感じられます。
そして何より、目標として掲げているのが同じNHKの名作『ひょっこりひょうたん島』というのが、意気込みの強さを示しています。それから30年。久保田Pが目指したように、『三銃士』は僕たちの心に残る名作となったのは御存じのとおりです。
djpost1987.hatenablog.com


さて、今回の締めくくりは放送開始から1カ月が経ち、仲間であるアトス・アラミス・ポルトスの「三銃士」も登場した頃のコメントです。

「見る人の好みで、四人がみなヒーローと呼ばれて当然だし、また、そう見て欲しい」
(監督・湯山邦彦/月刊アニメディア1987年12月号)

放送開始前は主人公のダルタニャンがフィーチャーされていましたが、三銃士も登場したことを意識してのコメントと思われます。ここでは「四人ともヒーロー」と語る湯山監督ですが、まさにこの頃。本編では「アラミスが実は女性!」という衝撃の事実が描かれ、アラミスが四人の中から飛び抜けて注目を浴びる「ヒーロー」(※ヒロインではないのがコツ)となるのは、まさに運命の悪戯。
ところで、このコメントが掲載された記事は、異様なまでに熱気あふれる文面になっていました。見出しは「大義名分なし型 庶民派ヒーロー登場」で、記事本文も「いつからだろう、アニメの主人公が"地球の危機だ!宇宙の平和だ!"とスンゴいことを言うようになっちゃったのか…!?」「大げさな大義名分なんかなくったって、もっと身近にヒーローはいるハズだ!」と、当時のアニメへの大仰な問題定義で始まる。
さらに、ダルタニャンと三銃士について「弱い者を守ろうとする正義感と、少しのことではくじけないバイタリティ。ヒーローに必要な素朴な条件しか持っていない。そんな明快さが、今、最も失われているヒーローの条件なのでは」と熱弁を奮っている。
ここまで『アニメ三銃士』への熱い思い入れをストレートに綴った記事を書いたのは、一体誰なのか。残念ながら記事は無記名となっていますが、それ故に名も無き多くのファンの声を代弁しているかのようです。


今回はここまで。次回からは放送中のコメントを紹介します。キャラ寸評やネタバレや、さらには劇場版『アラミスの冒険』に関するコメントの詰め合わせをお送りします。