アニメ三銃士

Column36 語ろう!『アニメ三銃士』(スタッフルーム通信編3 -製作 久保田弘-)

『別冊アニメディア アニメ三銃士 PART1』からの証言特集。今回はメインスタッフ陣のインタビュー記事「スタッフルーム通信」の第3弾です。

今回紹介するのは「『アニメ三銃士』のスポークスマン」こと、NHK・久保田弘プロデューサーのインタビュー。
久保田Pの証言は当Blogでも多く紹介していますが、今回は『アニメ三銃士』の企画意図からテーマ、自身が考える作品の魅力。そしてアラミスを女性にした意図に至るまで語られており、大変興味深い内容になっています。

●製作 久保田弘


オリジナルアニメを作るには時間が足りないということで、原作ものでいくことになったんです。いくつか候補があった中で、完全な形でアニメ化されていなくて、NHKで放送するのに良い物ということで絞り込んでいく中で、『三銃士』が一番良いということで決まったわけです。その理由の一つには、原作の『ダルタニャン物語』が大変長くて、52回のシリーズでやっていくのに、全11巻の本のどこからでもお話が拾えるほど内容が豊富であるという事。
それからもう一つは、愛、友情、冒険というテーマがとても適している。どういう事かと言いますと、今の若い人や、少し歳とった人もそうでしょうけど、本当の愛情や友情が薄いのではないだろうかと、そこのところが、『三銃士』は時代ものだから照れずに打ち出せるという事なんです。
アラミスを女性にするということについては、メインスタッフの中でも、かなり意見が分かれましたが、『三銃士』は女性がとても少なかったということと、物語の前半と後半を繋ぐ橋渡しのような役になれば、という思いで決めたんです。
アニメ三銃士』のいいところは、どのキャラクターも単純に悪人、善人と分けられないところです。そういう意味で私は、ダルタニャンが死んだと思って泣いてしまう、ローシュフォールというキャラクターが好きですね。(17話「一人はみんなのために」)。


PROFILE
昭和10年1月16日生まれ。血液型B型。代表プロデュース作に、アニメーションの『おねがい!サミアどん』『へーい!ブンブー』、人形劇の『三国志』『新八犬伝』など。

『三銃士』が「NHKで放送するのに良い物」というのは、後に人形劇の『新・三銃士』(2009年)と海外ドラマ『マスケティアーズ』(2016年)を放送しているのを見れば納得。そして「三銃士と言えばNHK」というイメージの先鞭をつけたのが、他ならぬ『アニメ三銃士』ということで、その慧眼には驚かされます。
また、原作の『ダルタニャン物語』について「どこからでもお話が拾える」と評しているのも興味深いところ。『アニメ三銃士』で主に使われたのは「首飾り編」と「鉄仮面編」だけだったけど、他にも原作の見せ場である「ラ・ロシェル攻防戦」や、ダルタニャンと三銃士が敵味方になる「二十年後」、アトスの息子(!)が登場する「ブラジュロンヌ子爵」のエピソードが描かれていたかもしれません。


そして「時代もの」だからこそ、愛や友情や冒険という普遍的なテーマを照れずに描けるというのも納得。現代を舞台にした作品だと、どうしてもリアリティとか気にしたり、どこか浮いてしまいがちだけど。時代もので、かつフィクション性の強い『"アニメ"三銃士』だからこそ、それらをストレートに描き得たといえます。


さて、久保田Pといえば「アラミスを女性にした張本人」としてもお馴染み。その狙いである「物語の前半と後半を繋ぐ橋渡し」という役割を、アラミスは充分過ぎる程に、恐らくは久保田Pの予想を超える程に果たしていました。そして、テレビシリーズでの「橋渡し役」から、劇場版では「主役」に抜擢されることを、インタビュー時点での久保田Pは予想していたのでしょうか。


作品の「いいところ」こと魅力については「悪人、善人と分けられないところ」と語り、その象徴であるローシュフォールを好きなキャラに挙げています。シリーズ後半には鉄仮面やマンソンという、どう考えても悪人にしか分けられないキャラが登場するのだけど、これについてどう思っていたのか気になるところです。


久保田Pは『アニメ三銃士』の後も『ふしぎの海のナディア』『アニメひみつの花園』『ヤダモン』とNHKのアニメを手掛け続け、今なお続く長寿シリーズである『忍たま乱太郎』のプロデューサーも1〜7期(1993〜1999年)に渡って務めました。
言うなれば「20世紀のNHKアニメの生き証人」である久保田P。その輝かしい作品群に『アニメ三銃士』も、しっかりと名前を刻んでいます。