アニメ三銃士

Column21 語ろう!『アニメ三銃士』(湯山監督の決意表明編)

久々の更新。
今回は『アニメ三銃士』放送開始間もない頃に掲載された、湯山邦彦監督の「決意表明」というべきコメントを紹介します。

アニメ三銃士 パーフェクトコレクション DVD-BOX 1

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アニメ三銃士 パーフェクトコレクション DVD-BOX 2

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出典は1987年12月に発売された『アニメ三銃士<音楽篇>オリジナル・サウンドトラック』のライナーノーツ。
原作である『三銃士』の説明やその魅力。そして『三銃士』をアニメ化することへの意気込みを、熱く語っています。


まずは湯山監督による『三銃士』という作品についての説明。

17世紀からの招待状


アニメ三銃士』の原作は、みなさんよくご存知の通り、文豪アレクサンドル・デュマ(1820〜70)による『ダルタニャン物語』という長編小説で、『三銃士』『20年後』『ブラジュロンヌ子爵』の3部からなる大河ロマンです。
アニメ三銃士』は、このうち、第1部の『三銃士』をベースに、『ブラジュロンヌ子爵』に登場する鉄仮面のエピソードなどをとりまぜて、構成されています。
なにしろ、3部作と言っても、400字詰めで1万枚、何十年という時間経過をともなう長大な物語ですから、とてもその全てを描くことは不可能なわけです。
小説のラストは、ダルタニャンが戦死するところで終わっていますが、その時には、主要な人物は、ほとんど生き残っていないという、すさまじさです。
興味と、読み通す根性のある方は、文庫本で11巻すべて出ていますので、チャレンジしてみてください。


さて、その物語の背景となる、17世紀のはじめ。日本ではちょうど、徳川家康が天下をとり、江戸時代のはじまりの時ですが、フランスは、国の内外国問題をかかえ、揺れ動いていたようです。
絶対王制を築いた著名な“太陽王ルイ14世は、まだ生まれておらず、フランスは強国となるための基礎を固めていた時代だったのです。
そういう混乱の時代だったらこそ、ダルタニャンのような、コネも、身分もない若者が、知恵と勇気と、そして剣という、その身一つを盾に活躍できるスペースがあったのでしょう。
ルイ13世はもとより、リシュリューもアンヌ王妃も実在の歴史上の人物ですが、驚くことに、ダルタニャンも、アトス、ポルトス、アラミスの三銃士も、銃士隊長のトレヴィルも、実在の人物だったということです。
原作の第1巻の前書きにも記されていますが、マルセイユの図書館で『国王の銃士隊副隊長ダルタニャン氏の備忘録』なる書物をデュマが発見し、その本を題材として『ダルタニャン物語』の着想を得たのだそうです。


そしてデュマは、その実在のキャラクターと歴史的事件を、さまざまに脚色して物語を築きあげていったのです。
たとえば、物語の中では悪役として描かれているリシュシュー宰相などは、たしかに、その強引さによって敵も多かったようですが、王権の権威を高め、ルイ14世絶対王政をうちたてるための、基礎をつくりあげた人物たったようです。
つまり、『ダルタニャン物語』というのは、17世紀という時代背景と実在した人物を巧みに使い、デュマという大作家が、のびのびとした空想の翼をひろげて、構築した物語なのです。

『三銃士』の概要と魅力を、「招待状」というお題を用いて表現しているのは、何とも洒落ている。
そして今では広く知られている「ダルタニャンも三銃士もトレヴィル隊長も実在の人物だった」ということが、文中では「驚くこと」として紹介されています。一般には知られていない実在の人物をメインキャラとして大活躍させて、『三銃士』という歴史的名作文学を創り出した。そんなデュマの筆致に対する湯山監督のリスペクトが感じられます。
また、TVシリーズ前半では悪役の親玉として描かれているリシュリューについて。わざわざ一文を設けて歴史的な功績を紹介する辺りは、シリーズ終盤での改心を初めから予定していたことが窺えます。


ここからは湯山監督によるロケハンの印象と、『アニメ三銃士』に対する決意表明になります。

実は、この作品のために、何人かのスタッフと、パリとロンドンに取材に行くことができました。
百聞は一見にしかずと言いますが、その石造りの街道の圧倒的な量感に、たじたじと後ずさり、文化の違いを思い知らされました。しかし、それと同時に、食べて寝て、愛して憎んでと、人間の営みに、たいした違いがないんだということを、また実感してきました。
17世紀と現代はもちろん違います。けれど、そこに生きて生活していたのは同じ人間なのです。
この矛盾した二つの事実を踏まえた時、『アニメ三銃士』は、僕の中で急速に実体化してきました。
物語の舞台となる17世紀の時代公証には、かなりの労力を費やし、できるかぎり忠実にこの時代を再現したつもりです。しかし『アニメ三銃士』は、17世紀のパリを再現するのが目的ではありません。
『ダルタニャン物語』という、大エンターテインメント小説の面白さを、アニメーションで表現しなくてはならないのです。
そこで我々も、デュマに習い、原作のストーリーとキャラクタを脚色し、自由にのびのびと物語を展開していこうと思っています。それこそが、原作の面白さに近づく、一番の近道のはずだからです。


アニメ三銃士』は、全52回。まだまだ、これからどんどん面白くなっていくはずです。
どうか、気長に見守って、はるか17世紀でがんばっている彼等(ルビで「キャラクター」)に、声援を送ってやってください。


(湯山 邦彦)

実際にパリとロンドンに赴き、17世紀当時から残る街並みを観ての感想。写真や映像では分からない「圧倒的な量感」と「同じ人間の営み」を実感できたと語っています。その上で『アニメ三銃士』の目的を「17世紀パリの再現」ではなく「面白さの表現」と語り、ストーリーとキャラクタの脚色も「原作の面白さに近づく近道」とも語っています。
その言葉が示すように、『アニメ三銃士』では「アラミスが実は女性」「コンスタンスが人妻ではない」「鉄仮面が謎の盗賊」など、原作を大胆に脚色した点が多数あり、放送開始時は賛否両論が起こったのも事実。しかし、それが現在では『アニメ三銃士』の特徴であり魅力として語り継がれています。


このコメントが発表された1987年から、間もなく30年が経とうとしています。湯山監督は『アニメ三銃士』の後も『ポケットモンスター』シリーズなど多くのアニメ作品を手掛け、今なお現役のアニメ監督として大活躍をしています。
そんな今、湯山監督は『アニメ三銃士』のことを、どう思っているのでしょうか。今回紹介した決意表明で掲げた思いは果たせたのでしょうか。
何かの機会で、湯山監督が再び『アニメ三銃士』を振りかえり、そして語ってくれることを、密かに期待しています。


さて、今回の出典である『アニメ三銃士<音楽篇>オリジナル・サウンドトラック』は、『アニメ三銃士』の(現時点では)唯一のサントラ盤となっています。放送開始から間もない頃に発売されたため、未収録曲も多いのは残念なところですが。
それでも、後に『サクラ大戦』や『勇者王ガオガイガー』で大ブレイクして「アニメ音楽の第一人者」としてお馴染みの田中公平先生による曲の数々は必聴モノ。聴けばすぐに『アニメ三銃士』の世界へ、そしてダルタニャンたちが生きた17世紀のフランスへと誘ってくれるはず。
さらにはボーカル曲も、主題歌の『夢冒険』(歌:酒井法子)や前期エンディング曲の『プレッジハート(誓約)』(歌:PumpKin)に加えて、ジャン役・田中真弓さん歌唱の『Sail Over』『愛のタペストリィ』も収録されています。
『Sail Over』は疾走感あふれるアップテンポな曲、『愛のタペストリィ』は伸びやかな声で歌いあげられたバラード。『アニメ三銃士』でジャンを演じた声優・田中真弓とは違った「ボーカリスト田中真弓」の実力と魅力に溢れた曲になっています。また両曲とも「作詞:ゆやまくにひこ(ライナーノーツ表記より)/作曲・編曲:田中公平」という、『アニメ三銃士』の世界を文芸と音楽で築き上げたお二方が手掛けています。アニメ本編では使用されなかったため、聴けるのはこのサントラだけとなっているのが勿体無い名曲です。


今回紹介した『アニメ三銃士<音楽篇>オリジナル・サウンドトラック』は、現在でも中古であればネットショップなどで比較的容易に入手できるようなので、『アニメ三銃士』のファンはもちろん、田中公平先生の作曲や田中真弓さんのボーカル曲に興味のある方にもお勧めです。そして願わくば、そこから『アニメ三銃士』という作品に興味を持って頂ければ幸いです。