アニメ三銃士

Column22 語ろう!『アニメ三銃士』(脚本・田波靖男)

前回は湯山邦彦監督のコメントを紹介しましたが、今回は脚本を手掛けた田波靖男さんのコメントを紹介。
お題はズバリ「ダルタニャンとコンスタンスの恋の行方」について。

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出典はアニメ情報誌『月刊アニメージュ』の1988年5月号。この号では『アニメ三銃士』は全4ページの特集。タイトルは「ダルタニャン・コンスタンス 水色の初恋」で、2人の恋模様をフィーチャー。特に前半2ページは見開きで2人が花畑でデートする版権イラスト(辻初樹さんの書きおろし!)を掲載。続く3ページ目では2人の距離が急接近した名エピソードである第19話「港のすれちがい」(1988年3月25日放送)を紹介。
そして4ページ目に、田波さんへのインタビューが掲載されました。このページには「不器用なふたりの恋 あたたかく見守って…」という見出しと、その下ではジャン(のカット)が吹き出しで「あてられてばかりさ」とコメントするという、ロマンスとユーモアに溢れたデザインでした。


そんな中、田波さんはダルタニャンとコンスタンスについて、そして『アニメ三銃士』について、どんなコメントをしていたのでしょうか……。


まずは2人の恋愛の現状と今後について……。

アニメ三銃士』の脚本は、すべて田波靖男さんと田波さんが主宰するジャック・プロダクションが書いている。スケールの大きい原作をまとめるのに苦労した、という田波さんに、これからの『三銃士』の見どころをきいてみた。


AM:ダルタニャンとコンスタンスが初キッス。ふたりの仲がこれからどうなるのか気になるところなのですが。
田波:キスはしたけれども、ふたりともまだ子どもで、いわゆるおとなの恋になっていくことはないでしょう。ダルタニャンがコンスタンスに抱いている想いには、あの年ごろの男の子が年上の女性に抱くあこがれが半分くらいある。いなか育ちの彼にはこれが初恋だと思って書いています。
だから、コンスタンスに素直に想いをぶつけているけど、そのやり方は不器用ですよね。でも、それだけに想いがストレートに伝わるので、コンスタンスのほうでもだんだん彼にひかれていって、それがキスという形であらわれたんですよ。
これからの展開で具体的なことをいうと、27話でふたりははじめてデートをします。でも、そのときにミレディがコンスタンスを誘拐してしまうんですよ。その事件のショックでコンスタンスは記憶を失ってしまう。その記憶をとりもどす過程でふたりの仲は一段と近づきますよ。ファンのみなさんも、これからのふたりをあたたかく見守ってください。

ダルタニャンのコンスタンスに対する想いを、田波さんは「年上女性への憧れ」であり「初恋」として書いてるという。確かにシリーズ序盤のコンスタンスはダルタニャンについて「ただの下宿人」とか「年下の坊や」とか、何ともつれない言い方をしている。でも、首飾り編でロンドンへの危険な旅を頼んだことで「頼れる男性」として、そして恋愛対象として意識し出したのだろう。その意味でも、この特集で紹介された第19話はターニングポイントとなった。
そして、その後の展開について。田波さんのコメントでは「コンスタンスが失った記憶を取り戻す過程で、ダルタニャンとの仲は近づく」とのことだけど。実際はダルタニャンはコンスタンスの記憶を取り戻そうとして、反ってコンスタンスを苦しめるようなシーンもあったり。結果的に記憶を取り戻したのは、鉄仮面に屋根から突き落とされたショックというのも、正直如何な物かと。
ともあれ、色々な事件を乗り越えて、ダルタニャンとコンスタンスの仲がより接近したのはご存じの通り。最終話ではひと時の別れを前にキスを交わし、劇場版では痴話喧嘩(にしか見えないシーン)があったり。田波さんが言うところの「初恋」から、気が付けば長年連れ添った夫婦のような、何とも微笑ましい仲になりました。


ところで、ダルタニャンはコンスタンスに一直線なのは当然として、そのダルタニャンが他の女性から想いを寄せられるかというと……。

AM:女性であるアラミスが、ダルタニャンに恋愛感情を抱くことは?
田波:それはありません!あのふたりのあいだにあるのは共通の敵と戦った戦友に対する信頼と友情であって、どっちかというと男同士の感情ですよ。むしろ敵であるミレディのほうが好意を持っている。といっても、子どもなのに見どころのあるやつ、と思ってるくらいですが。


AM:最後にこれからのみどころを。
田波:夏ごろになりますが、OP(ルビで「オープニング」)にも顔を出している鉄仮面が登場します。鉄仮面はアラミスが男装している理由にも関係しています。これまでにないハードな悪役ですよ。ダルタニャンたちとの対決に期待してください。

「アラミスを女性にしたのは、ダルタニャンとのロマンスを描くためでは」と予想(期待?)するファンもいたかもしれないけど、田波さんはそれを「ありません!」と感嘆符付きで完全否定。これはダルタニャンに対してだけでなく、同じ三銃士の「戦友」であるアトスやポルトスに対しても恋愛感情は無いことを示唆している。
そしてミレディーについては「好意を持っている」とは言え、首飾り編で苦杯を舐めさせられたことで「復讐の対象」となり。処刑されるところを見逃されても恩を感じるどころか、鉄仮面編で再び、そして劇場版で三度、ダルタニャンの前に立ちはだかる「宿敵」となる。同じ第1話でダルタニャンと運命的な出会いを果たしたにも関わらず、コンスタンスとミレディーは、どこで差が付いたのか。
最後は満を持して登場する鉄仮面について言及。「これまでにないハードな悪役」と評するように、鉄仮面の登場と共に物語も一気にシリアスになって行く。
この時期に描かれたダルタニャンとコンスタンスのロマンスは、その前のひと時の「安らぎ」でもあった。


インタビューと共に掲載されたカットのキャプション(写真やカットに添えられた説明文)は、以下となっています。

▲(※田波さんの写真)田波靖男さんの代表作は映画『若大将』シリーズ。全作品が田波さんの脚本だ。ほかにNHKの人形劇『三国志』などがある。


▲(※ダルタニャンとアラミス、三銃士のカット)ダルタニャンとアラミス、アトス、ポルトスのあいだにある絆、それはともに戦ったものだけが持つ、かたい信頼とあつい友情だ!


▲(※1話のダルタニャンとコンスタンスのカット)パリにやってきたダルタニャンはコンスタンスにヒト目ボレ?ふたりの恋のはじまりでした。


▲(※ミレディのカット)じつはこのミレディがダルタニャンをいちばん高く評価している(?)いつもジャマされているからかな?

田波靖男さんは1933年12月12日生で、インタビュー当時は54歳。大学卒業後に大手映画会社の東宝に入社し、脚本家として活躍。1960年代にはキャプションにあるように加山雄三の代表作『若大将』シリーズ全作品や、『ニッポン無責任時代』などのクレージーキャッツ主演作品を手掛けました。やがてNHKの子供向け作品にも携わるようになり、同じ名作歴史作品である『人形劇 三国志』を手掛けた流れで、『アニメ三銃士』の脚本を手掛けることになったと思われます。
その後も『ふしぎの海のナディア』『ヤダモン』『忍たま乱太郎』といった『アニメ三銃士』の後輩にあたるNHKアニメを手掛けたましたが、2000年3月21日に惜しまれつつ享年66歳で他界されました。