アニメ三銃士

52話:さようなら!ダルタニャン(後)

(放送日:1989年2月17日 / 演出:湯山邦彦 / 作画監督:辻初樹)

■Story■
国王ルイたちと共に、ダルタニャンと三銃士はパリに戻って来た。そしてルイから活躍の褒美を与えられることになった。ダルタニャンが褒美として願い賜ったのは、パリに出て来る切っ掛けとなった象だった。
そして、ダルタニャンは休暇を得て、象と共にガスコーニュへ一旦帰郷することになった。


その夜、ボナシュー宅では三銃士を招いて食事会が開かれていた。その席でジャンは、ベル・イール島で母のロザリオを見つけたこと、そして母を捜すためパリを旅立つことを告げる。
ダルタニャンもコンスタンスに、再びパリに戻ってくることを約束して、2人はキスを交わす。そして三銃士やジャンと共に、再会を約束して剣を合わせる。


パリを旅立ったダルタニャンとジャンは、道中で出会ったばかりの頃の思い出を語り合う。やがて迎えたガスコーニュへの分かれ道で、2人は別れてそれぞれの道を歩み出す。


それはダルタニャンとジャンの、新たな未来への旅立ちでもあった。


■Explanation■
スリリングな展開の続いた前半から一転、後半は大団円のエピローグ。ボナシュー宅で打ち上げよろしく宴席が行われ、ダルタニャンにとって大事な物への想いが描かれてゆく。


まずは褒美として下賜された象について。言うまでも無くダルタニャンが故郷ガスコーニュからパリに出て来る切っ掛けであり、パリという華やかな街の、そして希望の象徴でもあった。その後もダルタニャンの様子と同調するように、銃士になれず悶々としていた頃は、鎖に繋がれて窮屈そうにしていた。鉄仮面相手に苦戦していた頃は、寂れたパリの街と共に痩せ衰えていた。そんな両者が幾多の偶然を経て、ベル・イール島では共に鉄仮面と戦った。そしてついにダルタニャンの物に、否、ロシナンテやコピーと同様に「仲間」になった。
なお、象使いは暴れた象の鼻で弾き飛ばされた(51話)のを最後に、姿を消してしまった。鉄仮面に協力したことでお咎めを喰らい、象を取り上げられたのかもしれない。まぁ象使い無しでも、ダルタニャンなら象と仲良くしていけるだろう、鼻にコショウをかけたりしない限り。


ダルタニャンにとってパリに出て来る切っ掛けが象ならば、パリに出て来た後の「運命の出会い」がコンスタンス。今まで積み重ねた2人の想いは揺るがないはずだけど、別れを前に心配になったのか。象を連れて故郷に帰るダルタニャンにコンスタンスは「象と私、どっちが大事なの?」と言わんばかりの問いかけをする。本音は「私も一緒に連れて帰って」と言いたかったのかもしれないけれど、初々しい2人にはまだ早いか。
今はまだお月様を気にしつつキスをするのが精一杯。


そして最後に、ダルタニャンの「最初に出会った仲間」ではなく「もう1人の主人公」としてクローズアップされるジャン。本編を通してジャンの成長が見られたかと考えると、正直微妙。ダルタニャンと出会った頃に抱いていた貴族への反発心は、ダルタニャンが銃士になった時や鉄仮面に共感した時など、忘れた頃に描かれるに留まっていた。そして話が進むと何事も無かったかのよう治まっていて、描写に一貫性が無かった。まぁ、それも子供故の更なる成長の予感としておこう。
何よりジャンもパリでダルタニャンと出会い、三銃士やコンスタンス、ボナシューたちと出会い、苦楽を共にする仲間ができた。居場所もできた。それでも母を捜すためにパリを旅立ち、ダルタニャンとも進む道を異にする。別れではなく再会と帰還を約束しての旅立ちは、ジャンにとって掛け替えの無い成長の証なのだから。


何より物語をパリを発つシーンで終わらせるのではなく、その道中で野宿をするシーンを織り込んでくるのが嬉しい。ダルタニャンとジャンが過去を懐かしんだり間近に迫った別れを悲しむ様子は、ここまで作品を観続けてきたファンの気持ちを代弁しているようだ。そしてラストシーンでは思いを振り切るように走り出したジャンと、思いの丈を叫び切って名残惜しいように見送るダルタニャン。このテンションの高さには涙せずにはいられない。


本編終了後の次回予告枠にあたるパートで流された、各キャラから視聴者へのメッセージ。こんなメタフィクション的なサービスがあるのも古き良きアニメならでは。
ここで使われたフランス語の「オー・ルヴォワール」は、6話ではアンヌ王妃への思いを捨てられないバッキンガム公爵が呟いた、再会を願う意味での別れの挨拶。それを最終回の最後の最後でメインキャラから、スタッフやキャストの思いを込めて語らせたのは嬉しい限り。
この翌月には劇場版が公開されたのはご存知の通りだけど、このメッセージが劇場版を意識したものかと考えると、残念ながら違うはず。(テレビシリーズのアフレコ収録は結構前に済んでいて、劇場版決定はその後だったらしい)。ここで願われている再会は、即ちテレビアニメとしての「続編」や「シリーズ作品化」は実現しなかった。否、未だに果たされていないと言うべきだけど、実現する可能性は限りなくゼロに等しいのが現実だ。


それでもいいじゃないか。また1話から観直せば、また物語は、『アニメ三銃士』は幕を開けるのだから。


■Dialogue/Monologue■

ルイ「そち達4人の働きがフランスを救ったのだ。褒美に好きな物を選ぶがよい。金(きん)でも宝石でも、思いのままだ」

鉄仮面討伐の殊勲者であるダルタニャンと三銃士に向けた、国王ルイ13世のセリフ。
最初はリシュリューの言いなりだったり、鉄仮面の陰謀で処刑されかけたり、何かと頼り無さが目立ったルイだけど。最後には国王らしい太っ腹な面を見せてくれた。

アトス「では、一番手柄のあったダルタニャンから」
ダルタニャン「いや・・・・・・それはまず先輩から・・・・・・」
アラミス「ダイヤの指輪でも頂いて、コンスタンスにプレゼントしてやれ」
ポルトス「そうだ、それがいい」
ダルタニャン「・・・・・・そ、そんな・・・・・・」

目前に金銀宝石を並べられ、好きな褒美を選べと言われると、流石に遠慮がちになるダルタニャン。
三銃士からはコンスタンスへの婚約指輪よろしく、指輪でも貰ったらどうかと薦められるが。ダルタニャンが本当に欲しい物は別にあった。

ダルタニャン「僕がパリにやって来たのは、本物の象をガスコーニュに連れて帰って、村の人たちみーんなに見せてやりたかったからなんだ。象を連れて帰れば、爺ちゃんも婆ちゃんも、きっと大喜びすると思うんだ」

村のみんなというか、具体的には領主の息子ジョルジュ(と、その子分たち)だろうけど。
実際に象を見せられたジョルジュたちがどんな反応をしたか、想像しただけで笑える。

ポルトス「美味い。マルトの料理はボナシューさんの作る服よりお見事だ」
アトス「だからって食い過ぎるなよ。ベル・イールで手柄を立てた勇士が敵の弾ではなく、食い過ぎでやられたら、みっともないぞ」
ポルトス「美味い食い物にやられるなら本望だ」

本話序盤では要塞の扉を破ろうとして、手下たちから銃撃の雨あられを喰らったポルトス。美味い料理を食べながら軽口を叩けるのも、その時に弾に当たらなかったから。何ともポルトスらしい「本望」だ。

アトス「ジャン、そのロザリオに何か・・・・・・」
ジャン「母ちゃんが持ってた物なんだ。裏に母ちゃんの名前だって彫ってあるし」
アラミス「そうか、しかし鉄仮面が何処かで奪った物だとすると」
ジャン「やっぱり母ちゃんはどこかで生きているんだ。・・・・・・だから俺、母ちゃんを探しに行こうと思うんだ」


ジャン「大丈夫さ。何があったって、このロザリオがオイラを守ってくれるような気がするんだ。母ちゃんはきっと見つかるよ」

崩壊した要塞跡で母のロザリオを見つけたというジャン。
鉄仮面にとっては持って行く価値の無かった物かもしれないが、ジャンにとっては母の生存を確信させた、そして新たな旅立ちを決意させた、どんな財宝よりも価値のあるロザリオだった。

ポルトス「象のヤツ、腹を空かしているのかな」
ダルタニャン「俺、餌をやってくるよ」
コンスタンス「私も手伝うわ!」
ジャン「オイラも!」
アラミス「こら!邪魔するな。2人だけにしてやれ」
ジャン「ちぇっ」

象への餌やりを口実に、外へ出たダルタニャンとコンスタンス。ジャンも付いて行こうとするが、アラミスに止められて残念がる。
お子様のジャンには、どうして2人が外に出たか分からないらしい。

コンスタンス「ダルタニャン……象を連れてガスコーニュに帰ったら、もう戻ってこないんじゃないの?」
ダルタニャン「いや、戻ってくる。だってガスコーニュにはコンスタンスがいないもの」
コンスタンス「ホント!約束よ」
ダルタニャン「ああ、だから、約束のキスだ」
コンスタンス「……ダメ……お月様が見てるわ……」

象のためにガスコーニュからやって来て、念願叶って象を連れてガスコーニュへ帰るというダルタニャン。しかしダルタニャンにとっては象よりも大事な存在にパリで出会っていた。
2人を見守るように出ていた月も、約束のキスをする時だけは邪魔しないよう雲に隠れて・・・・・・。

ジャン「何やってたんだよ」
ダルタニャン「いや・・・・・・別に・・・・・・藁の山が崩れただけだよ」
ジャン「ホントかな」
コンスタンス「ホントよ・・・・・・ねぇ、ダルタニャン」
ダルタニャン「あ、あぁ・・・・・・」

2人だけで何をしていたのか、当人は語れるはずもなし。
怪しがるジャンも気付いているのかいないのか。

アラミス「ジャンも、お母さんを見つけたら一緒に帰ってくるんだぞ」
ジャン「うん!」
ボナシュー「待ってるぞ。お前はこの仕立て屋ボナシューの一番弟子なんだからな」
ジャン「ありがとう、ボナシューさん……」

母を捜しに独りでパリにやって来たジャン。最初は市場で人形売りをしていたけど、どこか馴染んでいない雰囲気で、騒ぎを起こすや直ぐに追い出されてしまった。
しかし、ダルタニャンと出会い、三銃士やコンスタンスやボナシューたちとも出会えた。パリで仲間と帰るべき場所を得たジャンは、もう独りではなかった。

ジャン「オイラも一度やってみたかったんだ、これ」
ダルタニャン「……(微笑んで)」
ダルタニャン・三銃士・ジャン「一人はみんなのために!みんなは一人のために!」

再会を誓って剣を掲げるダルタニャンと三銃士。そこにジャンも箒の絵を掲げて加わる。剣だろうが箒だろうが関係無い。ダルタニャンと三銃士にとってはジャンも掛け替えの無い仲間なのだから。
これが本編最後のシーン、最後のセリフになる三銃士にとっても相応しい締め括りになった。

ジャン「覚えてる?ダルタニャンと初めて会った頃、よくこうやってセーヌの魚を獲ったじゃん」
ダルタニャン「うん、ロシナンテに手伝ってもらったりしてな。カネは無かったけど、あの頃は結構楽しかったよな」
ジャン「うん……あれから随分色んなことがあったね」
ダルタニャン「ああ……」

パリを発った旅路でのある夜。川辺で獲った魚を食べながら思い出語りをする。2人がセーヌ川の小船で暮らしていたのは6話までだったから、本当に最初の方だ。
それからの「随分色んなこと」については当人だけでなく、ここまで観ていた視聴者も思い出すだけで胸が一杯になりそう。

ダルタニャン「まだ起きてるのか」
ジャン「ダルタニャンこそ・・・・・・」
ダルタニャン「早く寝ろよ・・・・・・夜が明けたら別々の道を行くんだから・・・・・・」
ジャン「わ、分かってるよ!」

これまで多くの行動を共にしていた2人にとっては、再会を誓っていても別れであることは変わりない。
いざ別れが間近となったら、様々な思いが去来して眠れぬ夜を過ごしていた。

ジャン「じゃあ……さよなら!(走り出す)」
コピー「サヨナラ!!(飛び立ってジャンについて行く)」
ダルタニャン「ジャーン!どんなことがあっても挫けるんじゃないぞーっ!」
ジャン「分かってるさーっ!さようなら!ダルタニャン!」
ダルタニャン「母さんによろしくなーっ!」
(姿が見えなくなるまで見送って)
ダルタニャン「……さようなら、ジャン……」

ラストシーンにて。別れの寂しさと悲しさを振り切るように走り出すジャン。そんなジャンの姿が見えなくなるまで別れの言葉を叫ぶダルタニャン。
最後に独り別れの言葉を呟くダルタニャンの表情は、寂しさや悲しさの中にもどこか清々しさが見えていた。

ナレーション「分かれ分かれになった2つの道は、また、ダルタニャンとジャンの、新しい人生の始まりでもあったのです」

最終回を、即ちテレビシリーズの全52話を締め括るナレーション。別れのシーンでありながら、「新たな始まり」と希望に満ちた言葉で締め括っている。
更に言えば「人生」というやや大げさな表現も、ダルタニャンとジャンは、加えて三銃士たち他のキャラたちも最終回が終わってもそれぞれの人生を歩んで行く。すなわち作品を超えて「生きている」ということを感じさせる。

コンスタンス「コンスタンスです。皆さん、これまで『アニメ三銃士』を応援して下さって、本当にありがとうございます。心からお礼申し上げます」
ジャン「ジャーン!おいら、はだしのジャンも」
ダルタニャン「僕たち四銃士も」
三銃士「もう一度、皆さんにお会いしたいと願っています」
コンスタンス「みんなで一緒に『夢冒険』を歌ってお別れしましょう!」
一同「さようなら!オー・ルヴォワール!」

本編終了後の次回予告枠でオンエアされた、メインキャストから視聴者へのお別れの、そして再会を願っての挨拶。
この後、主題歌の『夢冒険』をバックにシリーズ前半(首飾り編まで)の名場面が説明テロップ付きで流れて、『アニメ三銃士』全52話は幕を閉じる。


■Digest ~総集編~■
テレビシリーズ前半の「首飾り編」までを映像と字幕で紹介。シリーズ序盤のダルタニャンと三銃士が折れた剣で友情を誓うシーンや、ジャンが入浴中のアラミスを覗いて女性だと知ってしまうシーンや、今は亡きバッキンガム公爵を連れて大逃走をするシーンなど、懐かしの名場面が次々と出てくるのは、何とも感慨深い。
時に、NHKの久保田プロデューサーの証言によると、最終回の予告部分はメインキャラクターのその後を紹介して終わる予定だったとか。そしてアラミスは修道院へ入る案もあったけど、それを知ったファンから反対の投書が殺到した事も語られています。
そのせいで「メインキャラクターのその後」が描かれなかったのだとしたら、勿体無い気もしますが。むしろファンが自由に「その後」を想像できるようになったとも言えます。
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(記:2014年11月22日/追記:2020年05月04日)