アニメ三銃士

52話:さようなら!ダルタニャン(前)

(放送日:1989年2月17日 / 演出:湯山邦彦 / 作画監督:辻初樹)

■Story■
ついにフランス軍がベル・イール島に上陸して、鉄仮面の要塞に攻め込んだ。要塞の塔に立て籠もる鉄仮面は、扉を守る手下たちには徹底抗戦を命じておきながら、自身はミレディーを連れて脱出しようとしていた。
ダルタニャンたちは塔の扉に迫り、ポルトスが丸太で扉を破ろうとするが弾き返され、銃撃と油による炎攻撃により一時退却する。
そこでダルタニャンは一計を案じ、投石器で自ら投げられて屋根伝いに窓から塔に潜入。扉を内側から破る。


扉から三銃士とロシュフォールが先陣を切り、フランス軍と手下たちとが大乱戦を始まる。鉄仮面とミレディーは財宝を袋に詰めて隠し通路から脱出を図り、ダルタニャンは2人を追いかける。
鉄仮面は財宝を潜水艦に詰め込み、さらに地下の火薬庫の導火線に火を着け脱出しようとしていた。そこへダルタニャンが追い着き、両者は剣を交える。一度はダルタニャンが鉄仮面を追い詰めるが、鉄仮面が含み針で不意打ちして、その隙にダルタニャンに短銃を突き付ける。


鉄仮面がダルタニャンを撃とうとした時、ミレディーが自分の手で決着を着けたいと言い出す。ミレディーは鉄仮面から銃を受け取り、鉄仮面が立ち去ったのを待って銃を撃つ。しかし、銃弾はダルタニャンではなく床に当たっていた。
ミレディーは間もなく要塞が爆発すると伝え、ダルタニャンを逃がそうとする。戸惑うダルタニャンだったが、鉄仮面が引き返して来るのを察したミレディーに促され、その場を走り去る。


戻って来た鉄仮面はミレディーに、共に逃げるよう迫るが、ミレディーは頑なに拒む。止むを得ず鉄仮面はミレディーに別れを告げ、独りで逃げ出す。そしてミレディーは一度は逃がしながらも戻って来た愛猿ペペと共に、地下で爆発の時を迎えた。


ダルタニャンの指示で退避したフランス軍の見守る中、要塞は大爆発。鉄仮面の乗った潜水艦も洞窟の崩落に巻き込まれて大破。海岸には鉄仮面のマスクが流れ着き、ここに鉄仮面一味の野望は潰えた。




■Explanation■
ついに迎えた最終回。冒頭からフランス軍の上陸シーンから、塔の攻防戦というアクションが展開される。
丸太を抱えて正面突破を図ったポルトスが弾き返されてしまうのはご愛嬌。ここでもダルタニャンが知恵を絞って、敵の投石器を使う奇策を実行。大きな布をパラシュート代わりにするのは、『忍者ハットリくん』の「ムササビの術」からの着想だろうか。
ともあれ、ダルタニャンが単身窓から突入して扉を破り、さらに逃げようとする鉄仮面とミレディーを追い詰める。この件も落とし扉にギリギリで駆け込んだり、隠し通路を滑り台のように滑ったり、流石は主人公という見応えのあるシーンが続く。
そして締め括り。ダルタニャンと鉄仮面の決闘は、引き目の横アングルから両者の剣戟をワンカットで描いたアクションの集大成と言うべきシーン。それを制して鉄仮面に剣先を突きつけて・・・・・・と最高に盛り上がったところでダルタニャンの活躍はお終い。後は鉄仮面とミレディーの「結末」が描かれる。


鉄仮面はミレディーと共に脱出を図り、手下は完全に見捨てようとする。鉄仮面と手下たちの関係については、劇中では殆ど描かれなかったけど、リシュリューロシュフォールのような敵役なりの忠義はあったのだろうか。それともジュサックのように損得勘定で従っていたのか。だとしたら、フランス軍が上陸した時点で我先に逃げ出すだろうだけど。間抜けでコミカルな手下キャラも出てきただけに気になってしまう。


そして鉄仮面は、追い詰められても逃げればいいと豪語する。だがそれは虚勢だったのか。ダルタニャンに追いつかれるや意地と恨みからか決闘に応じて、追い詰められるや含み針と短銃という卑怯な手段を使う。仮面を被って「不気味な大物」という雰囲気を醸し出していたけど、最後には小悪党的な振舞いばかりになってしまった。
そんな鉄仮面も最後の最後、ミレディーとの別れ際では意外な人間臭さを垣間見せる。ミレディーも見捨てて脱出するどころか、わざわざ引き返して力尽くで連れて行こうとする。それを拒まれるや、怒るどころか別れの言葉を残して去って行く。
鉄仮面にとってのミレディーは、単に悪事に役立つ「仲間」程度のものだったのか、それとも危険な陰謀を共できる「同士」だったのか。それとも・・・・・・まさか・・・・・・いや、でも、ひょっとしたら・・・・・・。(敢えてソッチの方向性を考慮しない主義)
結局、鉄仮面は要塞の爆発に巻き込まれて物語から退場する。明確な死に際の描写は無く、水面上の潜水艦に巨大な岩が落下するシーンと、「仮面だけが海岸に流れ着いた」という説明だけだったけど。ひょっとしたら続編が作られた場合に備えて、再登場への可能性を残しておいたのかもしれない。
でも、今となっては仮面の下に隠され続けた素顔も正体も、何より本心も、描かれることなく終わってしまった。


そして何よりミレディー。フランス軍が上陸した時はすっかり諦めた表情を浮かべて、それでも鉄仮面に言われるまま、共に逃げ出そうとしていた。しかし、ダルタニャンに追い詰められて何かを決意したのか。ダルタニャンを逃がした上、鉄仮面との逃亡も拒み、自らの手で悪事塗れの人生に幕を下ろそうとした。
ダルタニャンを見逃す時の「バッキンガム公爵暗殺の罪で処刑されるところを見逃してくれたお返し」というのは、正直「何を今更」という感じ。出来心にも近い気持ちでダルタニャンを見逃そうした事への口実に過ぎないのかもしれない。
ミレディー自身も、どこかで悪事塗れな修羅の道から降りたかったのかもしれない。一度はダルタニャンに見逃されたことで降りかけたものの、どういう経緯か鉄仮面と共に舞い戻ってしまった。そのまま鉄仮面と共に歩み続けるしかないのか・・・・・・そこに再びダルタニャンが現れたことで、今度こそ降りる決意ができたのだろう。


結局は生き延びて、劇場版で三度ダルタニャンの前に立ちはだかるんだけど、それはまた別の講釈。


■Dialogue/Monologue■

ミレディー「来たわ、終わる時は意外と呆気無いものね」
鉄仮面「この塔は、そう簡単には落ちん」
ミレディー「時間の問題じゃないかしら」
鉄仮面「その時間が稼げれば充分だ」
(パイプを通して)
鉄仮面「者ども、用意はいいか。敵の軍勢は既に島に上陸した。だが恐れることは無い。この塔は難攻不落だ。奴らを蹴散らし、目にもの見せてやれ!」
手下たち「おぉーっ!」
(パイプを閉じて)
鉄仮面「フフフ……さぁ、潜水艦にお宝を積み込んで脱出だ。俺とお前と、そしてあの財宝さえあれば、どこででも巻き返しができるさ」

すっかり諦めたミレディーと、全く諦める気配の無い鉄仮面による会話。
手下には徹底抗戦を呼びかけておきながら、自身はお宝と共に逃げ出そうとする鉄仮面の非道ぶり。これには共に逃げようと言われたミレディーですら冷やかな目を向けていた。

ロシュフォール「どうだ?」
ポルトス「当たって砕けろ、任せておけって」

塔の扉を力づくで破ろうとするポルトス。自身にとってのメインウェポンとなった「丸太」を抱えて、威勢の良い事を言うが・・・・・・。

ポルトス「駄目だ!扉より先にこっちがやられちまう」
ロシュフォール「何とかしてくれ!」

扉の堅さに加えて、塔を守る手下たちの銃撃を受け、あえなく退却。活字では分からないけど、この時のロシュフォールは何ともコミカルで情けない声色をしている。

鉄仮面「静かになったな」
ミレディー「そういえば……」
鉄仮面「奴らもこの塔を攻めあぐねて、頭を抱えているのだろう。フフフ……こっちにとっては好都合だ」

財宝が積まれた部屋で逃げ支度をしながらの会話。
手下たちは鉄仮面の言葉を受けて奮戦しているのに、当の鉄仮面は手下のことなど全く省みず、自身が逃げ出す事しか頭に無かった。

ダルタニャン「鉄仮面!もう逃がしはしないぞ!」
鉄仮面「ダルタニャン……(剣を抜き)今までの礼をさせて貰うぞ!」

フランス乗っ取りという陰謀を阻止され、立て籠もる要塞を陥落させられ、ついには逃げ出そうとする所を追い着かれる。
ここまで自分を追い詰めたダルタニャンを前に、鉄仮面も逃げる前に決着を着けずには治まらなかったのか。剣を抜いてダルタニャンとの決闘に挑む。

ダルタニャン「さぁ降伏しろ!その仮面を外すんだ!」
鉄仮面「……うぅ……」
ダルタニャン「早く!」

鉄仮面に剣先を突き付けたダルタニャンは、降伏の証としてマスクを外すよう迫る。
「ついに鉄仮面の素顔が出て来る!」とブラウン管(当時)の前でドキドキしていたボーイズ(僕含む)&ガールズも大勢居たはずだけど・・・・・・。

鉄仮面「動くな!」
ダルタニャン「……!」
鉄仮面「最初からこうするべきだったよ……。さぁ、苦しまずに死なせてやろう」

含み針に短銃という卑怯な手でダルタニャンを追い詰め返した鉄仮面。
ここで鉄仮面が言う「最初から」とのは、つい先程ダルタニャンに追い着かれた時のことか。それとも物語をずっと遡って、両者が初めた対峙した時(32話)のことか。
いずれにせよ「どんな手段を使ってでも、ダルタニャンをもっと早く始末しておくべきだった」という鉄仮面の悔恨がにじみ出ている。

ミレディー「待って!私にやらせて」
鉄仮面「何!?」
ミレディー「このダルタニャンは散々私の邪魔をしてきたわ。最後は私の手で決着を着けたいの」
鉄仮面「よかろう」
ミレディー「動くんじゃないよ!」
ダルタニャン「……」

ここまで沈黙を保っていたミレディーが突然声を上げ、ダルタニャンと「決着を着けたい」と言い出す。
これには鉄仮面も、自分以上に根深いダルタニャンとの因縁を察して、突き付けた短銃を譲るが・・・・・・。
あくまでもミレディーは「決着を着けたい」と言っただけで、「殺したい」とか「始末したい」とは、一言も言ってないことにも注目。

ミレディー「時間が無いわ!先に行って潜水艦の用意を」
鉄仮面「しかし……」
ミレディー「この坊やに最後に言っておきたいことがあるのよ。さぁ、すぐに済むわ!」
鉄仮面「分かった!」

銃を受け取った上、鉄仮面に先に行く(この場から立ち去る)よう指示するミレディー。
先程からの変わり様に鉄仮面も珍しく戸惑うが、押し切られるようにその場を後にする

ミレディー「さぁ、早く逃げて……」
ダルタニャン「ミレディー……」

先程までの緊張感溢れるシーンから銃声が響き、一瞬の静寂。
ミレディーも先程までの激しい表情から一変。憑き物が落ちたかのように穏やかな顔で短銃を放り投げ、淡々とダルタニャンに逃げるよう促す。
余りの予想外の事態に、ダルタニャンも呆然とするばかり。

ミレディー「あなたは処刑されるはずだった私を助けてくれた。そのお返し……。これであなたへの借りは返したわ。……急いで知らせないと、上にいる連中も吹っ飛んでしまうわよ!」
鉄仮面「(遠くから声)ミレディー!どうしたんだ!」
ミレディー「鉄仮面が戻ってくるわ……面倒なことになる前に、さぁ早く!」
ダルタニャン「わ、わかった……(走り去る)」
ミレディー「さようなら……ダルタニャン……」

ミレディーはダルタニャンを見逃そうとするだけでなく、要塞がもうすぐ爆発することも伝えて、攻め込んでいるフランス軍も助けようとする。
ミレディーの思わぬ行動に、ダルタニャンはその真意を尋ねるが、状況はそれを許さなかった。
感謝の言葉すら言えないまま立ち去るダルタニャンと、最終回のサブタイトルにもなっている別れの言葉を呟くミレディーの対比が印象的。

鉄仮面「ミレディー、早く来るんだ!」
ミレディー「……私は行かないわ」
鉄仮面「何ぃ!」
ミレディー「逃げたければ、あなた独りで逃げて。若い時から追われ続けて、私はもう疲れたわ。逃げたところで一生お尋ね者。……これ以上追われるのは、もうたくさん」
鉄仮面「そんなことは俺が許さん!さぁ、一緒に来るんだ!」
ミレディー「(ナイフを抜いて)私に命令するのは、もうお止め!さぁ、行って!」
鉄仮面「……ミレディー……さらばだ!」

最初から逃げる気など無かったのか、それともダルタニャンと対峙して気が変わったのか。ミレディーは鉄仮面の脅し同然の誘いすら拒む。
対して鉄仮面も、感情が少なからず込められているであろう別れの言葉をミレディーにかけて去って行く。
それは簡潔でありながらも、ミレディーがダルタニャンにかけた言葉にもどこか似ていた。

ミレディー「神様……こんな私でも、あなたの御許へと行けますでしょうか……」

元々は修道院の小間使いで、修道士との駆け落ちに失敗して魔女の烙印を押されたミレディーにとって、神様とは貴族と同様に恨みの対象であったはず。
そんなミレディーでも、死を決意した今となっては魂の安寧を神に祈るしかなかった。

ペペ「キィ!(鳴き声)」
ミレディー「……ペペ!」

劇中におけるミレディー最後のシーン。
因縁の相手であるダルタニャン、陰謀を共にした鉄仮面、そして最も信頼している愛猿ペペにも別れを告げ、独りで死を迎えようとしていたミレディー。
しかし、ペペだけは彼女の元に戻って来た。それを迎えに駆け出した瞬間、島は大爆発を起こす。

トレビル「最早これまでと、自ら島を爆破した模様です」
ルイ「では、鉄仮面とミレディーも……」
トレビル「鉄仮面のマスクも海岸で発見されました。島もろとも運命を共にしたのでしょう」
ルイ「そうか……」

フランス軍本陣にて、要塞が爆発した後の報告をするトレビルと、それに言葉少なく応じるルイ。
2人の胸中にあったのは反乱を鎮めた安堵か、反逆者を自身の手で裁けなかった悔しさか、それとも反逆者の死が確認できないことへの恐怖か。
夕暮れの中、海の先に浮かぶベル・イール島を眺める2人の表情には晴れやかさの欠片も無かった。


(記:2014年11月8日)