アニメ三銃士

32話:謎の鉄仮面

(放送日:1988年7月22日 / 演出:アミノテツロー / 作画監督山本哲也

■Story■
ミレディーの事件から半年が経った。ダルタニャンたちの努力の甲斐なく、負傷したコンスタンスの記憶は未だ戻っていなかった。
その日もダルタニャンとコンスタンスは記憶を戻すべく、パリの街を歩いていた。そんな時、貴婦人を乗せた馬車が何者かに襲撃される。駆けつけたダルタニャンが見たのは、黒い仮面をつけた謎の盗賊だった。同じ頃、コンスタンスもその仲間らしき謎の女性と遭遇する。


やがて、その仮面の盗賊「鉄仮面」が本格的に活動を始める。
部下を引き連れてパリ中の塩倉庫を襲撃し、市民を塩不足に陥らせる。自体を重く見た国王は、トレビルと銃士隊に鉄仮面逮捕の指令を出す。
一方、パリには塩を大量に仕入れた商人・マンソンがやってくる。


早速、ダルタニャンと三銃士は鉄仮面の捜索を行う。コンスタンスが遭遇した謎の女性を手掛かりにしようとする中、ダルタニャンはその女性は自分が逃がしたミレディーではないかと疑念を抱く。


その夜、パリ・サントワレの宝石店に鉄仮面が出現する。店に火を付け、燃え盛る屋上に現れた鉄仮面は、駆けつけたダルタニャンに声高に宣戦布告をして去って行った。


■Explanation■
冒頭はダルタニャンがコンスタンスの記憶を戻すべく奮闘するシーン。1話で2人が出会った路地を歩いたり、ジャンの手作り人形を見せたり、今となっては視聴者的にも懐かしさを感じてしまう。
しかし、もっとも懐かしさを感じて欲しい人であるコンスタンスにとっては、逆に苦痛になっていたのは皮肉なものだ。


そんな中、偶然にも二人の前に現れた鉄仮面とミレ…もとい「謎の女性」。特にOPにもワンカットのみ描かれ、文字通り「満を持して」登場した鉄仮面は、いきなりの大暴れを見せる。
最初は人気の無い路地裏へ忽然と現れ、貴族の馬車を襲う。それも御者を片手で放り投げ、馬車の扉を手刀の一撃で叩き割る力強さを見せる。
その一方で、闇夜に紛れて大勢の手下を引き連れ、塩の置かれているの倉庫を次々と襲う。「単独」で「貴族の金品」を奪い、「集団」で「市民の食糧(塩)」を奪うという、方法も目的も正反対の行動を取る。まさに謎だらけだ。


そしてクライマックスは、ダルタニャンに宣戦布告するシーン。宝石を盗むという目的を果たしながら、すぐに逃げるどころか、火を付けた上に燃え盛る建物の屋上で悠然と立ち振舞う。
その姿はスポットライトを浴びた舞台上の役者のようで、自分の存在をパリの市民たちに、そしてこれから幾度も刃を交えることになるダルタニャンと三銃士へ強烈にアピールしている。


一方、「謎の女性」の正体にミレディーの影が見え隠れすることについて。ミレディーを逃がしたことを三銃士にも内緒にしていたダルタニャンは、不安と後悔に苛まれる。
それを真っ先に見抜いたのはアトスだった。前話でミレディーを処刑した(と嘘をついた)直後のダルタニャンが浮かない表情をしていたので疑っていたようだけど、ここに至って確信したとしか思えない。それでもアトスは、ダルタニャンを一度問い詰めただけで、深くは追求しなかった。


新たなる敵と、決着を着けたはずの旧敵が現れ、物語は新たな展開を見せる。


■Dialogue/Monologue■

ダルタニャン「銃士になろうと決心したのも君に会ったからだ!あれから随分、色々な事があったじゃないか!」
コンスタンス「悪いけど私、何も思い出せないの」
ダルタニャン「お願いだ!思い出してくれ!」
コンスタンス「私も、そうできたらどんなに嬉しいかしれないのに…」

自分にとって生きる全てと言えるコンスタンスの記憶を呼び戻そうと、必死に呼びかけるダルタニャン。
ここで言われている「色々な事」を見守ってきた僕たち視聴者も同じ想いだ。

謎の女性「コンスタンス!」
コンスタンス「はい、あなたはどなた?」
謎の女性「………」
コンスタンス「私の名前を知っている、あなたは誰?」
謎の女性「(…わからない?)」
コンスタンス「私は頭に怪我をして、前の事を忘れてしまったのです」
謎の女性「そう…」
コンスタンス「私の名前を知っているなら、前に会ったことがあるんですね。あなたのお名前は?」

鉄仮面の仲間と思しき「謎の女性」と、コンスタンスの会話。
何とも奇妙なやり取りなのは、一方が記憶を失っているから。そしてもう一方が、相手の記憶を奪った張本人だから。

リシュリュー「塩不足はすぐに市民の食卓に響きます。市民の不満や不安を煽って、陛下を足元から揺さぶるつもりではないでしょうか」

なぜかパリ中の塩を盗んだ鉄仮面についての、リシュリューの分析。
例によって「鉄仮面はスペインのスパイ」と決め付け、あわよくばアンヌ王妃も追放しようと企んでいる様子だけど、この分析自体は外れていないかも。

マンソン「さぁパリの野郎ども、塩を運んできてやったぞ!どいつもこいつも塩気の無い顔をしてるわい!こりゃあ大儲けができそうだ!」

塩不足で苦しむパリに大量の塩を運び、市民から英雄のごとく迎えられるマンソン。
しかし初登場のセリフは英雄に程遠い、俗物丸出しの怪しいものだった。

アトス「鉄仮面の一味になるような女というと限られているが…」
ダルタニャン「あぁ…」
アトス「真っ先に思いつくのはミレディーだが、アイツは君が処刑してしまったしな」
ダルタニャン「!…うん…」
アトス「君は本当にミレディーを処刑したのだろうな」
ダルタニャン「も、もちろんだとも!」
(暫しの沈黙の後)
「ならば、ミレディーのはずは無いな」

「謎の女性」について、アラミスとポルトスのいない場所で話す2人。
ダルタニャンがミレディーを処刑できなかったことを、アトスは最初から見抜いていたのだろう。
しかし、ダルタニャンの明らかに疑わしい態度を見ながら、あえて問い詰めることは無かった。ダルタニャン自身の口から語って欲しかったのだろう。

ジャン「コピー、お前の声が悪いんだぞ。もっと王妃様みたいなキレイな声を出してみろよ」
コピー「コンスタンス、コンスタンス、セナカノヒモヲハズシテオクレ」
ジャン「しっかし、酷い声だなぁ」

コンスタンスの記憶を戻すために、ジャンとコピーも頑張っているのだ。王妃の声真似をさせるのは無理があるけど。
そんな二人、もとい一人と一匹の努力もコンスタンスを追い詰めることになり、記憶を求めて夜の街へ飛び出してしまう。

ダルタニャン「鉄仮面!」おとなしく降りて来い!
鉄仮面「お前は誰だ?」
ダルタニャン「国王陛下の銃士、ダルタニャンだ!」
鉄仮面「お前のような若造が俺の相手をするのは10年早いわ!大人になったら出直して来い!」
ダルタニャン「何だと!」
鉄仮面「あばよダルタニャン!宝石は根こそぎ頂いたからな!」

ダルタニャンと鉄仮面が初めて本格的に対峙したシーン。
ここから鉄仮面との長い戦いが始まるのだ。


■Next Episode ~次回予告~■

ポルトス「ナナ=ベルナールって知ってるか?」
アトス「パリ一番と人気の高い女優だろう」
ポルトス「なかなかの美人らしいな」
アトス「今度の休みにでも行ってみるか!」
アラミス「アトスにポルトス!二人して鼻の下を伸ばしてる時じゃないぞ!」
アトス「どうしたアラミス!」
アラミス「そのナナ=ベルナールの舞台に鉄仮面が現れたんだ!」
アトス「なにぃ!」
ポルトス「行こう!すぐ行こう!」
アトス「次回『アニメ三銃士』《女優ナナの宝石》」
アラミス「諸君、また会おう!」

三銃士による次回予告。
女優ナナの噂に、声色からデレデレなポルトスだけでなく、アトスも興味津々。それを注意するのが実は女性のアラミスというのも面白い構成。
そして最後のポルトスの「すぐ行こう!」という言葉は、どう考えても鉄仮面を捕まえにではなく、ナナを観に行きたいとしか思えない。


■Mousquetaires Journey ~三銃士紀行~■
セーヌ川の中にあるシテ島とドーフィーヌ広場を紹介。
シテ島ポン・ヌフの東にあるドーフィーヌ広場はアンリ4世が皇太子ルイ13世のために造り、「ドーフィーヌ」という名称も「皇太子」を意味するという。
広場の東は裁判所で、美しい白い石と赤い煉瓦のコントラストが建築当時の特徴を今に伝えていると紹介されている。


(記:2013年1月13日/追記:2020年04月24日)