アニメ三銃士

33話:女優ナナの宝石

(放送日:1988年8月19日 / 演出:早川啓二 / 作画監督:辻初樹)

■Story■
ボナシュー宅に、人気女優のナナ・ベルナールがやってきた。ナナは自分の宝石が鉄仮面に奪われないよう、舞台衣装に縫い込むようボナシューに依頼する。
ボナシューは舞台衣装と宝石を預かり、お礼としてナナが出演する芝居のチケットも貰う。


後日、ダルタニャンとコンスタンスはナナの芝居を観に劇場へ行く。劇場の貴賓席には塩商人としてパリで名を馳せたマンソンと、覆面をした謎の女性がいた。その女性がコンスタンスが見かけた「鉄仮面の仲間の女性」と知り、ダルタニャンは彼女に会おうとする。


一方、謎の女性=ミレディーはマンソンの使いとしてナナの楽屋を訪れ、言葉巧みにナナから宝石の在り処を聞き出す。そしてダルタニャンが自分を探しているのを察すると、ナナの協力を得て楽屋を抜け出し、劇場から姿を消した。


数日後、上演中の劇場に鉄仮面が現れた。舞台上のナナから指輪を奪い、さらに駆けつけたダルタニャンたちを相手に、舞台裏で大立ち回りを演じて姿を消す。
その鉄仮面は、ミレディーが化けた偽者だった。


同じ頃、ボナシュー宅に本物の鉄仮面が現れ、ナナの宝石が縫い込まれた舞台衣装を奪おうとする。コンスタンスは衣装を持って屋根まで逃げるが、鉄仮面により突き落とされ、衣装も奪われてしまう。


■Explanation■
個人的にお気に入りの話。劇場という華やかな場所を舞台に、ゲストヒロインあり、鉄仮面とのアクションあり、ショッキングなラストシーンあり。作画監督が辻さんということで、作画も綺麗なのが嬉しい。


ゲストキャラのナナは「パリの人気女優」ということで、華やかさの中にも、どこか高飛車な印象。
「宝石を偽物と思わせるために、舞台衣装に縫いこむ」という奇策を思いつく一方で、ミレディーの口車に乗って宝石の隠し場所を話してしまう。さらにはダルタニャンを手玉にとってミレディーを逃がすなど、結果的に敵役に加担する行動をとったので、どうしても印象は悪くなってしまうなぁ。


コンスタンスの記憶も戻らない上に、鉄仮面とミレディー(としか思えない謎の女性)の影に悩むダルタニャン。せっかくコンスタンスとデート、もとい観劇に行くも、そこでミレディーらしき女性を目撃。
早速探りを入れるも、ミレディーとナナの奇策によって空振りに終わる。ナナに香水をかけられ、顔を洗っている隙にミレディーは楽屋から脱出。ミレディーといいナナといい、ダルタニャンは女性(特にオトナの女性)に振り回される運命なんだろうか。


後半は一転、アクションとサスペンスの連続。
芝居が終わって、満座の観客から万雷の拍手を受けながら幕が下りて…からの、幕を切り裂いての鉄仮面シーンはインパクト大。
さらに劇場内に突入したダルタニャンとアラミスを相手に、舞台装置や書き割りを駆使したアクションが展開される。そして何より、2人を相手に互角に立ち回った鉄仮面が、実はミレディーが扮した偽物だったというオチ。


頭脳面でも戦闘面でも、ミレディーが本格的な活躍(暗躍)を見せた今回。「ダルタニャンに見逃してもらったことで本当は改心していて、鉄仮面の仲間になったのも何らかの思惑があって…」思っていた視聴者も少なからず居ただろうけど、そんな希望や思惑を跡形も無く叩き潰す活躍ぶり。


そしてもう一つのクライマックス。ボナシュー宅に鉄仮面が押し掛ける。今までは神出鬼没であるが故に現実味の乏しかった鉄仮面が、ボナシュー宅という「日常」に侵食してくるインパクト。そして、舞台衣装を守ろうとしたコンスタンスが屋根から突き落とされるショッキングなシーンで締め括る。


色々と見どころ満載な話だったけど、ダルタニャンの苦難はこれから始まるのだ。


■Dialogue/Monologue■

客「全く羨ましい限りだよ。鉄仮面のおかげで儲けたのは、あの男だけだ」
客「だってそうだろう、鉄仮面がパリ中の倉庫から塩を盗んだお陰で、我々は塩不足に泣かされたが、反対にマンソンは塩が売れて大儲けしたんだからな」

劇場にてダルタニャンの隣席の客が、貴賓席のマンソンを見ての言葉。
単なるやっかみと思いきや、これが実は…。

ミレディー「その宝石はみんな本物ですの?」
ナナ「とんでもない、偽物よ。本物はこの指輪のダイヤだけ。あとは安全な場所に隠してあるわ」
ミレディー「でも最近、鉄仮面という盗賊がいて物騒でしょ。だから、せっかく差し上げたダイヤが盗まれるようなことがあったら大変だと心配なさってるのよ」
ナナ「大丈夫よ、うまい隠し場所を見つけたから安心して」
ミレディー「でも、宝石は身に着けてこそ値打ちのある物だから、身近に置いておかなきゃ意味がないでしょ」
ナナ「本当は秘密なんだけど、ダイヤを下さるというマンソンさんのお使いだから、教えてあげる」

ミレディーの口車に乗って、宝石の「隠し場所」を教えてしまうナナ。
軽率と言うか、お人好しと言うか。

ミレディー「私の事をしつこく追い回している、田舎者の銃士なの。居ないと言って下さらない?」

ミレディーによるダルタニャンの評。少なくとも間違ったことは言っていない。

ナナ「誰かお探しなの?」
ダルタニャン「ええ、マスクをした女の人を」
ナナ「その人は、貴方の恋人?」
ダルタニャン「ちっ、違います!」

ミレディーとの関係をナナに訊かれて、焦るダルタニャン。
二人の関係は「恋人」なんて甘く生易しいモンじゃありません。

ダルタニャン「ナナ・ベルナールが着けていたのとは違う香水の匂いがしたもの」
ポルトス「ダルタニャンに香水の匂いが分かるのか?」
ダルタニャン「バカにするな、あの香水には覚えがある。あれは確かミレディーが、あっ…」
アトス「ミレディーが着けていたのと同じ香水だったのか」

無意識に口をついて出るミレディーの名前。
ダルタニャンにとって、ミレディーが生きていることは疑いようの無い事実になっていた。
そして、それを取り繕う発言をしたアトスにとっても。

ダルタニャン「まさかミレディーが…」
ポルトス「同じ香水を着けている人は幾らでもいるさ」
アラミス「それにミレディーはとっくに死んでいるのだろう?」
ダルタニャン「それが…」
ポルトス「ミレディーが生きているとでもいうのか?」
アトス「生きているわけ無いだろう。ダルタニャンが自分の手で処刑したのだから」

上の会話の続き。
ミレディーが処刑されたことを信じて疑わないポルトスとアラミス。
それは即ち、処刑を行ったダルタニャンへの信頼でもあった。
一度は真実を言いかけたダルタニャンだったが、気遣ったアトスが遮る。

マルトー「旦那様!旦那様!」
ボナシュー「何だマルトー」
マルトー「お客様ですよ!」
ボナシュー「今仕事中だ!」
マルトー「お願いです!開けて下さい!」
ボナシュー「駄目だ!仕事が終わるまで誰にも会うつもりは無い!」
鉄仮面「ならば、こっちから行くぞ!」

ホラー映画のコメディパートを思わせるシーン。
鉄仮面を律儀「お客様」と呼んで取り次ごうとするマルトーの様子が笑える。

マルトー「コンスタンス様に手を出させるもんか!お嬢様はまだ嫁入り前の可愛い娘さんで、とっても大人しくて!優しくて!私には親切この上ない…」

舞台衣装を持って逃げるコンスタンスを守るべく、鉄仮面の前に立ちはだかるマルトー。
己を奮い立たせるためか、コンスタンスへの想いを一気に捲くし立てる。
が、無常にも鉄仮面に遮られる。


■Next Episode ~次回予告~■

マルト「だんな様!この家を手放すなんて本気でございますか!」
ボナシュー「たとえ鉄仮面に盗まれたとはいえ、お客様に預かった大切な宝石を無くしてしまったのだ。少しでも弁償しなくてはな」
マルト「せっかくここまでにしたお店を…旦那様お可哀想に」
ボナシュー「次回『アニメ三銃士』《鉄仮面を逮捕せよ》」
マルト「ダルタニャン!三銃士の皆さん!お願いしますよ!」

珍しいボナシューとマルトによる予告。なお、二人とも予告に登場するのは今回だけ。
そんな貴重な予告も、鉄仮面のせいで家財を手放した無念さが語られる。劇中における二人の、特にボナシューの苦労人ぶりが表れている。


■Mousquetaires Journey ~三銃士紀行~■
セーヌ川中のサン・ルイ島を紹介。
劇中の時代にはノートルダム寺院の領地だったが、牧場だった「牛島」と「ノートルダム島」が繋がれて宅地造成されて、サン・ルイ島になったという。
そんなサン・ルイ島には貴族や高官、そして芸術家たちも住むようになった。島には17世紀建築の傑作「ランベール館」や詩人ボードレールが住んだ「ローザン館」など、17~18世紀に建てられた由緒ある建物も多く残っていると紹介されている。


(記:2013年1月27日/追記:2020年04月24日)