アニメ三銃士

31話:ミレディーの処刑

■放送日:1988年7月8日 / 演出:水谷貴哉 / 作画監督:杉山東夜美

■Story■
ミレディーを捕らえたダルタニャンの元に、三銃士とパトリックが駆けつけた。
三銃士はミレディーから赦免状を取り上げ、パトリックはイギリス国王の命令に基き、ミレディーの処刑を依頼する。
ダルタニャンは三銃士の薦めとミレディー自身の希望により、ミレディーの処刑を任されることになった。
処刑のため森の奥深くへ連れて行かれたミレディーは、処刑を前に己の生い立ちをダルタニャンへ語り始める。


ミレディーはイギリス貴族の落胤で、生まれてすぐに母と共に故郷を追い出されたこと。
修道院に預けられ小間使いとして働いていたが、そこで出会った貴族の息子と駆け落ちをするも失敗し、罰として魔女の烙印を押されたこと。
それによって世間から除け者にされ続け、ついには世間を恨んで裏社会へ身を投じたこと。
そして、生まれ変わったら真っ当な人生を歩みたいことを、穏やかな顔で語り明かした。


それを聴いたダルタニャンは同情し、ミレディーの髪を切っただけで見逃そうとする。
ミレディーは感謝の言葉を残し、何処へと去っていった。そしてミレディーの髪を処刑の証拠として、パトリックに渡した。


ダルタニャンがボナシュー宅へ戻ると、コンスタンスが意識を取り戻していた。しかし安心したのも束の間、コンスタンスは負傷の後遺症で記憶を失っていた。
翌日、ダルタニャンは護衛隊によってリシュリューの元へ連行される。
ダルタニャンはリシュリューに、ミレディーを処刑したことを告げ、さらにミレディーから奪った赦免状によってリシュリューをやり込め釈放されるのだった。


■Explanation■
ミレディーにとっては(後の「鉄仮面編」を含めても)全話中最大の見せ場となるエピソード。そして、そのミレディーに情けをかけてしまうダルタニャンにとっても。


逮捕され処刑を言い渡されたミレディーは、憑き物が落ちたかのように穏やかな表情になる。ダルタニャンに己の生い立ちをデスマス調で語る様子は、まるで母親が幼子に御伽噺を語り聞かせるようだ。
しかし、そこで語られる物語は、穏やかな口調とはかけ離れた過酷なものだった。


6話でミレディーが口にした「イギリスの貴族が憎い」の真相。イギリス出身のミレディーは、領主の息子が農婦との間に作った子供だった。その貴族にとっては女遊びに過ぎなかったのだろう、母子共々追い出されてしまう。
さらに修道院で出会い、駆け落ちを試みた相手も貴族の息子だった。捕まったミレディーは死刑に等しい魔女の烙印を押されてしまうが、同罪であるはずのその貴族は特に罰せられることもなく、別の修道院に移されただけだったという。
貴族に捨てられた上に、貴族であるが故に罰を与えられない。そんな理不尽さを人生の分岐点というべき場面で味わったことが、貴族への憎しみになったのだろう。


そんな苛烈な過去も、今のミレディーにとっては悪の道に入る「切っ掛け」でしかない。
若き日に修道院で小間使いをしていた頃は、田舎の素朴な村娘という雰囲気だった。そんなミレディーが常人離れした数多の秘術を習得し、裏社会で生き抜いてゆくのは、さらに過酷な日々だったことは想像に難くない。
死を前にしたミレディーの穏やかさは、そんな修羅の道から解放されることを望んでいたからかもしれない。


そしてダルタニャン。法に則った処刑とは言え、前非を悔い改心しようとしている無抵抗の人を、果たして殺すことができるだろうか。それが公爵を殺した大罪人にして、恋人を死の淵に追いやった仇であったとしても。
ダルタニャン本人もギリギリまで苦悩した末、結局はミレディーを逃がしてしまう。僕ら視聴者にしたら「主人公のお約束パターン」だし、作風的にも「善側キャラは人殺しNG」ということで納得できる。


しかし何より、この方がダルタニャンらしくて親しみを感じる。確かに罪人を情けを一切掛けず処刑するのが、銃士として正しい行動かもしれない。しかし、それができない、甘ちゃんで情け深い方が、ダルタニャンらしい。
それは、他のキャラクターも思っているのだろう。「処刑を済ませた」と言いつつ浮かない顔のダルタニャンに、アトスは何かを勘付くも、あえて追求しなかった。


その一方で、リシュリューの出頭命令に逃げずに応じ、三銃士の心配を他所に、あっさり窮地を切り抜けてみせる。
ミレディーを見逃した甘ちゃんぶりはどこへやら、この狡猾さには随分大人になったと感心してしまう。


コンスタンスは意識を取り戻したものの、記憶を失っていた。暗い影を残しつつ、パリの街はひと時の平穏を取り戻す。


■Dialogue/Monologue■

ミレディー「他の誰よりも、ダルタニャンの手にかかって死ねるなら本望です」
ポルトス「ダルタニャン独りなら、誑(たぶら)かせると思っているのだろう」

ミレディーにとっては恐らく本心だったであろうこの言葉。
しかし、ポルトスが懸念したとおり、ダルタニャン独りに処刑を任せたことが裏目に出てしまう。

ミレディー「私なんて、生まれてこなければ良かった。そうすれば、こんな惨めな死に方をしなくて済んだのに」
ミレディー「もう一度、生まれ変われるとしたら生まれ変わりたい。せめて死ぬ時に、この世に生まれてきたことを神様に感謝するようになりたい」

処刑を直前にした、ミレディーの言葉。これを聞いたダルタニャンは…。

ダルタニャン「もう一度、生まれ変わりたいって言ったね。貴女はたった今死んで、生まれ変わったんだ。ここから逃げて、誰も知ってる者のいない所へ行くんだ」

ミレディーのことを信じて、結局は逃がしてしまう。

ダルタニャン「僕もフランスのためにミレディーを処刑しました。これを持っていても逮捕なさるおつもりですか?そうなると閣下は御自分で出した御命令に、御自分が背くことになりますが」

ミレディーから奪った因縁の赦免状を盾に、己の正義を主張するダルタニャン。
ミレディーの復讐に加担したリシュリューも見事にやり込める。


■Next Episode ~次回予告~■

ジャン「ジャーン!鉄仮面が出たーっ!」
ダルタニャン「どうした、ジャン」
ジャン「鉄仮面だよ!ダルタニャン」
ダルタニャン「鉄仮面?」
ジャン「パリを荒らし回る謎の盗賊で、気味の悪ぅーい鉄の仮面を被っているんだって」
ダルタニャン「うぅーん、ここは俺たち銃士隊の出番だな!」
ジャン「だけど、もの凄ぉーく強い奴らしいよ!」
ダルタニャン「三銃士のみんなも付いている。任せとけって!」
ジャン「次回『アニメ三銃士』《謎の鉄仮面》」
ダルタニャン「みんな、また会おう!」

「鉄仮面編」への突入を告げる次回予告。
ジャンの「出たーっ!」と、まるで幽霊や妖怪を見たかのような叫びは、まさに鉄仮面が「正体不明の化け物」であることを示している。
対して我らが主人公のダルタニャンも、受けて立つとぞと言わんばかりに「任せとけって!」と意気込む。新シリーズの幕開けに相応しく、賑やかな予告になっている。


■Mousquetaires Journey ~三銃士紀行~■
今回からパリを流れるセーヌ川を紹介。
映像ではセーヌを見守るように建つエッフェル塔自由の女神、川岸で日光浴を楽しむ人々、そして上流へ遡ってサン・セーヌ・ラベー北西にあるセーヌの水源を紹介。水源の傍にはジュフロワ作のニンフ像があり、山奥の静かな風景と相まって神秘的な雰囲気を醸し出している。
夕暮れのセーヌ川の映像と共に「セーヌ川はパリの、そしてフランスの母である」「セーヌが、そしてノートルダムが静かに暮れてゆく」というメッセージで締めくくられる。


(記:2012年9月12日/追記:2020年04月24日)