アニメ三銃士

30話:バッキンガム暗殺

■放送日:1988年7月1日 / 演出:早川啓二 / 作画監督松岡英明

■Story■
ダルタニャンと三銃士は、逮捕したミレディーをトレビル隊長の元に連行する。
しかし、ミレディーはリシュリューの赦免状を盾に無罪を主張し、トレビルは已む無くミレディーを釈放する。
これにダルタニャンは激しく憤り、リシュリューの元へ直談判へ向かうが、ミレディーはすでにイギリスへと旅立っていた。


数日後、ルーブルにイギリスからバッキンガム公爵の執事・パトリックがやって来た。公爵が王妃の使いを名乗るミレディーによって暗殺されたというのだ。
パトリックからの依頼を受け、ダルタニャンと三銃士はミレディーを逮捕すべくパリ中を捜索する。


その頃、ミレディーはパリに戻り、バッキンガム暗殺の報酬を受け取るためリシュリューの館を訪れていた。
そして、館を見張っていたジャンとコピーは、館からミレディーの飼い猿ペペが出てくるのを目撃。ダルタニャンはペペの後を追い、古びた修道院に隠れているミレディーを発見する。


追い詰められたミレディーは火薬玉によって修道院ごと自爆を試みる。
爆発によって修道院は崩壊するが、ダルタニャンはミレディーを連れて暖炉に逃げ込み無事だった。


■Explanation■
ダルタニャンたちが苦労の末に逮捕したミレディーを、理不尽な理由で釈放せざるを得ない辛い展開。
激しく憤るダルタニャンを三銃士は励ますが、気休めにもならない。
トレビル隊長に至ってはダルタニャンの抗議に声を荒げ、聞こうともしない。首飾り編で見せた、厳しい中にも融通を利かせてくれた姿とは別人のようだ。


ここで以前の無鉄砲なダルタニャンだったら「リシュリューなんて関係ない!銃士を辞めてでもミレディーを討つ!」とか言い出してもおかしくないのに。それをやったら物語が続かないということもあるんだけど。
悠々と逃げて行くミレディーを前にして、ダルタニャンが何もしないというのは、どうも違和感がある。


今回のメインであるバッキンガム公爵の暗殺について。
肝心の暗殺シーンは「既に起こった事」として、パトリックの回想で簡単に描かれるだけ。シリーズ前半の最重要キャラにしては、何とも呆気ない退場ぶりだ。
ともあれ、公爵はメインキャラで最初の、そして「善側キャラ」としてはシリーズ全編を通して唯一の犠牲者となってしまった(既に死んでいるフランソワを除く)。
そして皮肉なことに、公爵が殺されたことで、ダルタニャンたちはミレディーを再び逮捕するチャンスを得る。


ミレディーを探してパリ中を聞き込みするダルタニャンたち。
このシーンはポップで明るめなBGMで、火を噴く大道芸人やスリが聞き込みに驚いたり慌てたり、妙にコミカルな雰囲気になっている。シリアスな展開を和ませるためだろうか?


修道院でダルタニャンに追い詰められたミレディーは、自爆覚悟で火薬玉を使う。
公爵を暗殺した件といい、このシーンといい、ミレディーの行動は凶悪というか破滅的になっている。
首飾り事件で屈辱を味わったことで、タガが外れてしまったかのようだ。しかし、その暴走も終わろうとしていた。


■Dialogue/Monologue■

ダルタニャン「リシュリュー閣下の方が、陛下より偉いのですか?」
アトス「今の我が国では、リシュリューが第一の実力者だ。つまり、リシュリューが法律なんだ」

国王に仕える銃士ですら泣き寝入るしかない。
首飾り事件で一度はやり込めたはずのリシュリューだったが、国王すら凌ぐその権力の強大さを改めて思い知らされる。

ミレディー「私はお金のためだけに閣下に雇われているわけではございません」

ミレディーがリシュリューに仕える本当の目的とは何だろう?
少なくともリシュリューが(方法に問題はあるにせよ)目的としているフランスの発展とかでは無いだろう。

リシュリュー「元々あれはイギリスの女だ。処罰して欲しかったら、イギリスの国王に頼むのだな」

この時は「どうせ無理だろうけどな」というニュアンスの言葉だった。
しかし、ミレディーの思わぬ行動によって現実化してしまうとは、リシュリューも想像できなかっただろう。

ダルタニャン「聖母マリア様、どうかコンスタンスの命をお助け下さい。コンスタンスを助けるためならば、僕の命も差し上げます」

コンスタンスの意識は戻らず、仇であるミレディーも釈放せざるを得ない。自分にできることは、もはや祈ることだけ。
そんなダルタニャンの胸中は、自分の命すら要らないと思うほど、無力感に苛まれていたのかもしれない。

リシュリュー「そろそろ、あの女とも手を切る潮時かもしれぬな」

有能な手駒として重宝してきたミレディーだったが、失敗続きの末に私怨に取り付かれ、一国の総理を勝手に暗殺してしまう。
その暴走ぶりには、雇い主であり絶大な権力者であるリシュリューすら、恐れを感じずにはいられなかった。


■Next Episode ~次回予告~■

ダルタニャン「ミレディー、これまでだ!観念しろ!」
ミレディー「わかっているわダルタニャン。でもせめて、この世の名残に私の身の上話を聞いて下さる」
ダルタニャン「身の上話?」
ミレディー「ええ。神に見捨てられ、世間に見捨てられた女の定めを」
ダルタニャン「次回『アニメ三銃士』《ミレディーの処刑》」
ミレディー「ダルタニャン、もう一度生まれ変われるのなら心を入れ替えてやり直したい」
ダルタニャン「ミレディー!…」

今回はダルタニャンとミレディーによる掛け合いの予告。
しかし今までのような緊迫感は無く、観念して別人にように抜け殻になったミレディーが静かに語りかける。そして最後のダルタニャンのつぶやきからは仇敵への憐みと、自身の手で処刑することへの戸惑いや躊躇いが表れている。


■Mousquetaires Journey ~三銃士紀行~■
ノートルダム寺院で行われる洗礼やカタコンプ(地下納骨堂)を紹介。
ノートルダム」とは聖母マリアを意味し、寺院は12世紀に建設が始められたが、それより遥か以前の4世紀には既に祈りに捧げられる場所になっていたという。
カタコンプのあるパリ市左岸の丘の地下は、シーザーがパリを征服した時代から建築用の石取り場だったという。モンルージュ地下の横穴には両側800メートルに渡り骸骨の山が続き、600人もの当時の無名の人々が眠っていると語られている。
映像ではノートルダム寺院で洗礼を受ける赤ん坊や、モンルージュ地下に並ぶ骸骨の山を紹介。さながら「誕生と死」という対比になっている。


(記:2012年9月12日/追記:2020年04月18日)