アニメ三銃士

35話:ダルタニャンの失敗

(放送日:1988年9月2日 / 演出:水谷貴哉 / 作画監督松岡英明

■Story■
パリの貧民街に引っ越してきたダルタニャンたち。隣家に住む少女コレットと仲良しになるが、彼女の家は金貸しバスコムによる取り立てに遭っていた。
パリの市場は鉄仮面を恐れて、すっかり寂れていた。ルーブル宮殿に出勤するコンスタンスを送る途中、ダルタニャンはかつてミレディーを処刑せずに見逃した事。そのミレディーが鉄仮面の仲間だと思われることを告白する。


鉄仮面逮捕に躍起になるダルタニャンは、マンソンとミレディーの繋がりを押さえるため、ジャンにマンソン邸を張り込ませる。そしてミレディーが現れたという連絡を受けて屋敷に踏み込み、マンソンと同伴していた女性に剣を向けるが、彼女はミレディーとは全くの別人だった。ダルタニャンの張り込みに気付いたミレディーが、罠にはめるため入れ替わっていたのだ。


この一件がリシュリューを介して国王にも伝わり、ダルタニャンはトレビル隊長から当面謹慎するよう言い渡される。
落ち込むダルタニャンと、それを励ますアトス。ダルタニャンは意を決し、ミレディーを見逃した事を告白しようとするが、アトスも既に気付いていたと告白。共に鉄仮面逮捕への決意を新たにする。


一方、貧民街では鉄仮面が金をバラ撒いており、義賊として住民たちの英雄となっていた。ダルタニャンは「施しをしようが泥棒は泥棒」と憤るが、ジャンやボナシューは贅沢な貴族たちへの反発から、鉄仮面への共感を口にする。
そんな時、コレットがバスコムによって借金の形として連れて行かれそうになる。ダルタニャンが止めようとするが、ならば代わりに借金を返せと言われてしまう。
そこへ鉄仮面が現れる。ジャンが助けを求めると、鉄仮面はバスコムに金を与えコレットを救う。ダルタニャンは鉄仮面を捕らえようとするが、コレットを初めとした住民たちの妨害により逃がしてしまう。
盗賊である鉄仮面に皆が味方をする。そんな事実に、ダルタニャンは愕然とする。


■Explanation■
個人的には『アニメ三銃士』最大の問題エピソードだと思う。理由は後述。


サブタイトルにあるダルタニャンの「失敗」とは何か。もちろんミレディーの罠を見破れずに無関係の婦人に剣を抜いてしまった事。だけどそれ以前に遡って、ミレディーを処刑せずに見逃してしまった事も指しているようだ。
そして今回、ダルタニャンは「失敗」を認めて、ミレディーが生きていることをコンスタンスに告白する。しかし、コンスタンスはダルタニャンを責めてしまう。それで罪悪感や焦りが募り、ミレディーの罠に嵌ってしまったのではないか。


鉄仮面の暗躍はパリに暗い影を落としていた。寂れた市場に痩せ衰えた象と、1話でダルタニャンがやって来た時の、活気と希望に溢れた姿との落差が大き過ぎる。


そして「問題エピソード」という件について。貧民街で鉄仮面が義賊として英雄視される事について、ジャンもボナシューも共感してしまう。1話から貴族への反発を口にしていたジャンはともかく、つい最近まで「王室御用職人」で貴族の身近にいたボナシューまで、貴族を批判しているのは唐突な気がする。
「貴族=贅沢している悪人」というステレオタイプな描写が駄目な訳じゃないけど。少なくとも『アニメ三銃士』は貴族側(=銃士)の物語だから、貴族を過剰に貶めるのも不自然な感じがする。


さらに言うと、「正義の主人公」としてのダルタニャンの存在意義を揺るがすショッキングな話を描きながら、それに決着を付けるような展開が見られず消化不良になっている。後に鉄仮面の義賊行動もお芝居だったことが分かるんだけど、コレットを初めとしたパリ市民は自分たちが騙されていたことも気づかないままだった(劇中で明確な描写が無い)。
ジャンに至っては、鉄仮面に助けを求めて「ありがとう」とお礼まで言ってしまう。ダルタニャンへの裏切りに等しい行為をしたのだけど、次の回では変わらずダルタニャンと行動(鉄仮面の逮捕に向けての)を共にしている。後の「アラミスの裏切り」みたいな、物語の展開を左右するような決別になっても不思議じゃないんだけど…。


ダルタニャンを落とすだけ落として、有耶無耶のまま物語は続く。厳しい書き方だけど、そんな後味の悪い話ということかな。


■Dialogue/Monologue■

ダルタニャン「いくら悪い女だと思っていても、僕には人の命を奪う事はできなかった。ミレディーを処刑することが正しいことだと思っていても、無抵抗な、それも女を殺す事なんてできなかった」
コンスタンス「そんな!約束を守るような女じゃないわよ!あなたは騙されたんだわ」
ダルタニャン「あの時、処刑しておけば、こんなことにはならなかったのに。僕は何てバカなんだ」

ミレディーを見逃した事を、ダルタニャンが最初に告白した相手は、ミレディーの最大の被害者であるコンスタンスだった。
ここでコンスタンスがダルタニャンを責める事無く、三銃士のようにダルタニャンを「優しさ」を理解していたら。ダルタニャンが焦ってマンソン邸で失敗をすることも無かったかも。

象使い「セーヌだよ。せめてただの水をたらふく飲ませてやろうと思ってね。このままじゃ、いつまでパリにいられることやら」

ダルタニャンたちに、行く先を尋ねられた象使いのセリフ。
ダルタニャンにとってはパリに出て来る切っ掛けであり、希望の象徴とも言える象。しかし今は、鉄仮面に怯えるパリを象徴するように、惨めに痩せ衰えていた。

ミレディー「何もかも上手くいって、このマスクが取れる日が待ち遠しいわ」

早くマスクを取り、素顔に戻りたがっているミレディーのセリフ。
ひょっとしたら、仲間である自分たちの前でもマスクを外して素顔を出そうとしない、鉄仮面への当て付けだったりして。

アトス「最初から分かっていたさ。君にはミレディーが斬れないってね」
ダルタニャン「すまない、許してくれ!」
アトス「気にするな。騙されたふりをしていた俺の方が、よっぽど人が悪いのだから」

ミレディーを見逃した事に気付きながら、ダルタニャン自身が告白するまで見守る。そして、責める事無く受け止める。
この時のダルタニャンの一番の理解者はコンスタンスではなく、アトスだった模様。

ダルタニャン「卑しい事を言うな!いくら施しをしようが、泥棒は泥棒じゃないか!それを褒めたりするなんて!」
ジャン「そんな事を言うなら、お上はもっと酷いじゃないか!だってそうだろ、高い税金を取るだけ取って、その日の暮らしに困るような貧乏人に何もしてくれないじゃないか!お上は泥棒より酷いや!貧しい人が鉄仮面を捕らえて欲しくないと思うのは当たり前だろ!」

「泥棒は泥棒」と正論を叫ぶダルタニャン。しかし、そんな正論では生きては行けない事実を、幼いながらも嫌と言うほど知り過ぎてしまったジャンは、貴族への反発と鉄仮面への共感を口にする。

ボナシュー「ワシもこんな所に引っ越して来て、貧乏がどんなに辛くて惨めなものか、よく分かった。それに比べて服を注文に来た貴族や金持ちが、そんなに贅沢な暮しをしていた事か。やはり、この不幸な世の中は直さなきゃいかん。そうしないと鉄仮面どころか、今にどんなに恐ろしい物が持ち上がるか分からんぞ」

ダルタニャンやジャンよりも世慣れて良識的なはずのボナシューも、貧乏暮らしに落ちたショックからか、これまでのお客だった貴族を「贅沢者」と批判するようになっていた。
ここで示唆されている「鉄仮面より恐ろしい物」とは、百年以上未来に起きるフランス革命のことだろうか。

バスコム「ならお前さん、この娘さんの親に代わって借金を払おうってのかい。耳を揃えて払ってくれりゃ、この娘は返してやらぁ。もっとも、こんなボロ屋に住んでるようじゃ、とても払えっこねぇだろうけどよぉ!」

どんなに剣の腕が立とうとも、栄えある国王陛下の銃士(謹慎中だけど)であろうとも、金が無ければチンピラ同然の金貸しに言い負かされ、目の前の少女一人救えない。
ダルタニャンにとって、今までとは全く違う形で己の無力さを突き付けられてしまう。

ジャン「借金の形に連れて行かれる子がいるんだ。お願い、助けてやってくれよ!」
鉄仮面「男、その娘を離せ!金ならいくらでもある。それだけあれば文句はあるまい」
ジャン「ありがとう、鉄仮面さん」

あろうことか盗賊に、それも自分たちを貧民街へ追い遣った元凶である鉄仮面に助けを求めるジャン。そして鉄仮面も別人の如く紳士的に振る舞い、コレットを金貸しから救う。
ジャンが鉄仮面に向けた感謝の言葉を、ダルタニャンはどんな気持ちで聞いたのだろうか。

コレット「お願い!鉄仮面を捕らえないで!」
ダルタニャン「何てことだ、みんなで盗賊を庇うなんて。世の中間違ってる…」

「ここが貧民街だから」とか「鉄仮面が"奪う側"から"与える側"になっているから」とか、今までとは違う「世の中(=立場や環境)」だと考えれば納得できないこともないんだけど。
それすら出来ないほど、ダルタニャンが直面した現実はショッキングなものだった。


■Next Episode ~次回予告~■

アラミス「ダルタニャンの処分が決まったそうだな」
ポルトス「軽くて済みそうなのか」
アトス「いや、クビだ」
アラミス「クビ?」
ポルトス「クビって、銃士隊をか?」
アトス「そういうことだ」
アラミス「ダルタニャン、さぞガックリするだろうな」
アトス「それを励ますのが、我々、友としての努(つと)めだ!」
ポルトス「次回『アニメ三銃士』」
アトス「《鉄仮面の挑戦》」
アラミス「こういう時こそ"みんなは一人のために"だ!」
ポルトス「よし!みんなで飯でも喰いに行くか!」

お馴染み三銃士による予告だけど、内容が内容なのでテンション低め。
三人ともダルタニャンを気遣っているけど、例によってポルトスは飯を喰いに行きたいだけな気がする。三銃士が予告をする時は、ポルトスがオチを担当するのがお約束。


■Mousquetaires Journey ~三銃士紀行~■
パリ・マレ地区のシュリー館を紹介。
シュリー館は劇中の時代(1624~1634年)に作られ、アンリ4世の大臣だったシュリーが住んでいたという。
シュリー館の映像をバックに当時の政治体制について解説。リシュリューの時代には国務会議の形が整えられ、以後の最高国務会議は王の他に4~5名で構成。宰相・外務・陸軍・海軍海運・宮内の国務卿の他に、財務総官・大法官といった重要な官職があった。そして、会議に一度でも出席した者はVIPとして「ミニストル」と呼ばれたという。


(記:2013年3月17日/追記:2020年04月24日)