アニメ三銃士

Column20 語ろう!『アニメ三銃士』(Q&A編)

2016年最初の更新は「基本に帰る」ということで「アニメ三銃士』は、どんなアニメなのか」という基本的な事について。

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今回紹介する記事は『アニメ三銃士』の放送が始まったばかりの、1987年10月発売のアニメ情報誌『月刊アニメディア・1987年11月号』の新番組特集。各新番組に対する読者からの質問にスタッフが回答するというQ&A形式の記事で、『三銃士』からは学習研究社の金子泰生プロデューサーが回答および作品解説をしている。


なお、記事には読者投票による期待ランキングも掲載されており、『三銃士』は『ついでにとんちんかん』に次ぐ2位。これについて記事では「『三銃士』は聞いたことがあるけど、どんな話か知らないという声が圧倒的」と前置きした上で「ストーリーへの興味が推進力となっている」と分析している。
また、票の男女比率は男性31%・女性69%で、圧倒的に女性からの支持が多かった。これを受けてか、記事の大見出しは「意外!?正統派冒険物語を女の子が支持」となっており、「政変劇、チャンバラ、冒険とくれば、男の子が好きそうな題材ばかりだが、女性の期待度が高くて意外」「三銃士のコスチュームや舞台となる王宮の華麗さへの期待が多くの女性を引き付けた結果だろう」と分析している。


では、当時のアニメファンはまだ観ぬ『アニメ三銃士』という作品に対して、どんな疑問や期待を抱いていたのか。そして金子プロディーサーはスタッフを代表してどう答えていたのか。それを紐解いてみましょう。


最初はやっぱりと言うべきか、『三銃士』という作品名とその概要を聞いた人ならば、ほぼ全員が抱くであろう素朴かつ根源的な疑問について。

Q:"三銃士"なのに、なぜダルタニャンが主人公なのですか?


A:『三銃士』というのは本来、『ダルタニャン物語』という長いストーリーのいわば青春篇です。
騎士道はなやかなりし頃のパリに、銃士になろうと田舎からやって来た若者ダルタニャンは、ケンカが大好きの三銃士と気が合って、八方破りの大活躍をします。
実写では"四銃士"として同じ話を描いている作品もあるように、主人公は、言ってみれば4人なのです。
アニメでは、若き青年剣士の成長物語を中心においているということで、主役はダルタニャンと言えるわけですね。

「題名=主人公、若しくはそれに限り無く近い存在」という不文律からすると、三銃士の一員ではないダルタニャンが主人公というのは奇妙な気がするけど。大元の作品名が『ダルタニャン物語』で、その序盤である「三銃士とダルタニャンが出会う物語」という意味ならば『三銃士』という題名も納得。訳本によっては『友を選ばば三銃士』という題名になっているので、こっちの方が分かりやすいかも。


続いては、女性ファンが気にしていたであろうロマンスについて。

Q:ダルタニャンとコンスタンスの仲は、今後どうなるんですか?


A:言ってみれば、田舎者のダルタニャンが、パリの街でひと目ボレしたのがコンスタンス。
最初はダルタニャンが追いかけるだけで、コンスタンスにうまくあしらわれてるんですね。
でもやがて、彼女が宮廷の陰謀に巻き込まれ、窮地を彼が救ってから、少しずつ愛情を持ち始めます。

これはストーリー最序盤。まだダルタニャンがコンスタンスに一方的な想いを抱いている時点での話。
この後、バッキンガム公爵の危機を救った後、コンスタンスの家にダルタニャン(とジャン)が下宿することになり、その後は幾多の困難を乗り越えて……というのは皆さんご存じの通り。


続いては、こちらも女性ファンから多く寄せられたという「チャンバラもの」ならではの質問。

Q:血を流したりするのはイヤ!戦いのシーンはどう描くんですか?


A:作ってる私たちとしても、あまり血なまぐさいアクションはやりたくないと思っています。
ですから剣を使った戦いでも、例えば敵の剣が壁に突きささると、その上にダルタニャンが牛若丸のような身軽さで飛び乗って……というように、ギャグ的な要素を持ったアクションで描いていきたいと思っています。

「ダルタニャンが牛若丸のような身軽さで〜」というのは、2話のロシュフォールとの対決シーンと思われる。シリーズ序盤は護衛隊との戦いでも剣で直接斬ったり刺したりするシーンは殆ど無かった(例外はアトスが重傷を負う11話くらい)。その後、ストーリーがシリアスになる首飾り編以降もこの方針は貫かれており、バッキンガム公爵が暗殺されるシーンやフランソワが殺されるシーンでも、ショッキングな要素は出しつつも直接的な描写は避けていた。
血なまぐさいアクションが無くても、アクション物は成立する。それを示す好例とも言える。


最後は世界史のお勉強にもなる?こんな質問。

Q:ダルタニャンが巻きこまれる陰謀って、どういうものですか?


A:フランスが敵視していたスペイン生まれの王妃は、自国を裏切るのではないか?
宰相リシュリューはそう疑っているんですね。
それにルイ13世が気弱なために、王妃さえいなければ自分が実権も握れる。
愛国心と権勢欲が入り混じった彼が、王妃失脚を狙って仕組む、数々の事件のことです。

ここではシリーズ前半における敵方の黒幕であるリシュリューの陰謀について。一見すると歴史物の定番である「王様によからぬ働き掛けをする悪い大臣」のようだけど。リシュリューのことを「愛国心と権勢欲が入り混じった」とネガティブなだけでない点で語っているのは、シリーズ終盤での急激な改心をこの時点から示唆しているようで興味深い。


その他、記事では「知らないお話だから知りたい、という素朴な期待がストレートに票に結び付いた典型。オリジナルアニメではこうはいかない」と題名の有名さを期待の要因に挙げている。また「キャラでは男装の麗人・アラミスが、女性の間ではダルタニャン以上の人気」と、アラミス人気が放送前から高かったことも触れている。


この記事が掲載されたのが、そして『アニメ三銃士』が放送されたのが1987年10月。気が付けばもう30年近く前の話になります。当時は原作である『三銃士』についても「題名は知ってるけど、どんな話かは知らない」という声が圧倒的だったことが伺えました。
そして今ではどうだろうか。『アニメ三銃士』以降も、ハリウッド映画や舞台や人形劇、加えてソーシャルゲームなどでも題材になったことから『三銃士』の認知度は飛躍的に高まったはず。
そして、自信を持って言いましょう。それらの今なお続く「三銃士モノ」というジャンルを開拓した作品こそ、『アニメ三銃士』であると。