アニメ三銃士

Column13 語ろう!『アニメ三銃士』(久保田P編2)

放送当時にアニメ誌『アニメージュ』にてあらすじと共に毎月掲載されていた、久保田弘プロデューサーのコメント、否、「証言」を紹介する企画の2回目。

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前回は制作側の裏話を紹介しましたが、今回は歴史物らしくフランス中世史および文化風俗史のお勉強的なコメント。


まずは『アニメージュ・1988年4月号』より。『三銃士』の背景となるフランス宮廷のお話。

三銃士・反逆と陰謀の時代
ルイ13世は1617年4月、宮廷クーデターを決行して、ようやく政権を手に入れたのです。
摂政として実権を握っていた実の母、マリー・ド・メディシスは追放され、リシュリューもパリを逃げ出しました。
それからもしばらく両軍の戦いが続きますが、6年後和議が成立し、母后はリュクサンブール宮へ。リシュリューも顧問官としてパリに戻ります。
この後のリシュリューの活躍は目覚しく、ルイ13世に信頼されてゆくのですが、自分が取り立ててやったリシュリューに裏切られたと怒る母后のもとに、反リシュリューの勢力が結集します。
スペイン王家から嫁いだルイ13世の王妃、アンヌ・ドートリッシュ、しばしば兄王に反旗をひるがえす王弟ガストンや、陰謀好きのシューブルーズ夫人らが暗躍します。
1630年、ルイ13世は実の母よりもリシュリューを取ることを決断し、母后は追放され、再びパリに戻ることは許されませんでした。
こうした史実を背景に『三銃士』が書かれているのです。
久保田弘(PD/NHKエンタープライズ

劇場版『アラミスの冒険』に登場したマリー・ド・メディシス太后も含めた、当時の宮廷模様について。
ルイ13世メディシス太后にクーデターを起こして〜」という歴史的事実は、テレビシリーズでは語られなかったものの、『アラミスの冒険』で重要なバックボーンとなっている。この時点でこの話を紹介しているということは、このクーデターを元にした話をテレビシリーズで描く案があったのか。あるいは既に劇場版のストーリーとして検討されていたのかも。
なお『アニメ三銃士』の時代設定は1626年なので、史実的にはルイ13世メディシスが和解して数年経った頃。(『アラミスの冒険』でメディシスがリュクサンブール宮殿に住んでいたのも、それを踏まえて)。しかし、上記の史実に則れば、この数年後にはメディシスはパリを追放されることに。そしてパリに戻ることなく、1642年にケルン(現ドイツ)で逝去する。
『アラミスの冒険』で描かれたメディシスは過去の過ちを悔いて、息子であるルイやフィリップについても心を痛める「良き皇太后、良き母」として描かれていたけど。歴史とは時に残酷なものだ。


続いて『アニメージュ・1988年5月号』より、当時のファッションに関するお話。

おしゃれ?な三銃士
アニメ三銃士』の時代、17世紀前半のフランス上流階級の人々は、それなりのおしゃれを楽しんでいました。
12世紀にアルコールが登場してから、香水作りが進み、現在のものに近い香水が出回ってきました。
アラミスをはじめとする銃士たちも、香水を使っていたのです。
この香水は、手袋や上着などの革製品によくふりかけられたのです。
革をなめす技術も現在ほど進んでいないため、この頃の革製品はきつい匂いがしたそうです。
この匂いを消すために、男も女もよく香水を使いました。
もうひとつ、銃士たちがなぜ、普段も長靴を履いていたかしっていますか?
高価な拍車をつけ、ガチャガチャを音をさせながら、見せびらかすおしゃれの意味もあったのですが、実は絹の靴下のすぐ傷ができて(今でも本物の絹のストッキングはすぐデンセンしてしまいます)みっともないので、これを隠すために長靴を履いていたというのが本当のところだそうです。
久保田弘(PD/NHKエンタープライズ

「三銃士=中世フランス=お洒落」というイメージに一石を投じる、衝撃(?)の事実。
体臭や革製品の臭いを隠すために香水が重宝されたり、靴下の破れを隠すために長靴を履いていたり。お洒落の裏側にもトリビアがあるもんだ。
これを踏まえて『アニメ三銃士』を観返すと、「あのキャラはキツい体臭をしているんだろうな」とか「このキャラの長靴の下に隠された靴下には、大穴が空いているんだろうな」とか想像してみると、新たな視点で楽しめるかも?