アニメ三銃士

39話:二人の鉄仮面

(放送日:1988年10月14日 / 演出:アミノテツロー / 作画監督佐藤真人

■Story■
ダルタニャンとジャンはリシュリュー邸の前で張り込んでいた。やがて馬車でやって来たミレディーが屋敷の中に入り、リシュリューに面会する。そして出て来た馬車をダルタニャンが呼び止め調べるが、中には誰も乗っていなかった。ミレディーがダルタニャンの張り込みに気付き、馬車を囮にしていたのだ。


一方、マンソンの別荘では、鉄仮面一味に捕らわれたボナシューは国王の衣装を仕立て終えていた。そして、一味からコンスタンスをさらったのが嘘だと知らされると、隙を見て脱出を試みる。抵抗しようと置物の甲冑の剣を取ると、近くの壁が開き隠し部屋が出現した。その隠し部屋には、鉄仮面と同じマスクを被せられた謎の男が監禁されていた。謎の男はボナシューを押し退け脱出を図るも鉄仮面に阻止され、再び隠し部屋に監禁させられる。


その夜、ミレディーは鉄仮面の敵を装い謎の男に接触。マスクを外して鏡で自らの顔を見せると、その顔は国王と全く同じであった。さらに謎の男に対して、その出自が国王ルイ13世の双子の兄弟・フィリップであること。そして今の国王は偽者であり、貴方こそ本来の国王であると話す。


フィリップは幼い頃から田舎の屋敷に入れられ、家庭教師のフランソワを唯一の友として成長した。しかし、突然押しかけた鉄仮面一味にフランソワを殺され、仮面を被せられ監禁されていた。ミレディーは、フィリップを追放したのは皇后の命令で、そして監禁したのは国王の命令だと語る。さらに国王の非道ぶりを吹き込み、フィリップこそ国王になるべきだと説得する。
フィリップも、不安を抱きながらもミレディーの持ちかけた計画に賛同する。それは国王と自分が摩り替わるという恐ろしい計画だった。


園遊会の日も近づき、マンソンによる園遊会場の改装も順調に進んでいた。そして、ミレディーも来るべき計画実行に向けて、フィリップに王妃やリシュリューの事、王宮での仕来たりを教え込んでいた。


■Explanation■
今回は鉄仮面一味の真の陰謀が明かされる重要回。
そのため、ダルタニャンたちの活躍は殆ど無し。リシュリュー邸の前で張り込むも、かつてのマンソン邸の時と同様、ミレディーに気付かれて失敗。さらにはその件を鉄仮面一味に、文字通り「酒の肴」にされてしまう。


今回のメインであるフィリップについて。「隠し部屋に監禁されている、もう一人の鉄仮面」という強烈な初登場もさることながら、仮面を外したら「国王と全く同じ顔」でさらにビックリ。そして何より、その出自が国王の双子の兄弟だという。
衝撃の事実を裏付けるように、フィリップの半生が回想で描かれる。幼い頃から世間と隔絶した屋敷で育ち、さらには賊に拉致されて、仮面を被らされ監禁される。そんな異常過ぎる半生の原因が、その出自にあると知らされた時の驚きは如何程だったか。否、逆に出自ゆえの異常な半生だったと納得したのかもしれない。


そこへ畳み掛けるように、ミレディーが国王の非道と悪政を吹き込む。ここで語られる「国王の弟・ガストンは何度も謀反を起こした」というのは史実らしいけど、劇中ではこの類の政治的ゴタゴタは殆ど描かれない。せいぜい序盤に「リシュリューが好き勝手な政治をしている」と語られる程度なので、視聴者的には唐突な感じがする。
ともあれ、囚われの身であるフィリップにとっては「塀の外」の事情より、ただ自由が欲しかったのか。地獄に差し伸べられた救いの手を取るが如く、ミレディーの誘いに乗ってしまう。


そしてフィリップが「唯一にして最高の友」と語るフランソワ。回想シーンから、少年だったフィリップが青年に、青年だったフランソワが壮年になるまでの長い時間を過ごしていた様子が描かれている。その名前をミレディーも知っていたことから、単なる家庭教師ではない一角の人物であることが伺える。
やがて、その名前が「本編最大の見所」と切っても切れない重要な意味を持ってくるのだけど、それはまだ先の話。


■Dialogue/Monologue■

リシュリュー「ワシの別荘で、ワシの護衛隊が出し抜かれ、銃士隊に手柄を取られたとあっては、ワシの面子は丸潰れだ!」

ミレディーとの面会での言葉。鉄仮面の件をパリ(ひいてはフランス)の危機ではなく、自らの面子の問題としていることが伺える。

ミレディー「鏡をご覧になったことはありますか?」
フィリップ「カガミ?」
ミレディー「ご自分の顔を見ることができる道具でございます。恐らくご覧になったことは無いと存じます。貴方様のお顔に秘密があるのですから」

鏡の存在を、つまりは「自分の顔を見る」という行為自体を知らされずに生きていたフィリップ。
彼にとって自分の顔を見ることは、即ち自らに隠された秘密を知らされることだった。

フィリップ「これは私の絵姿だ!」
ミレディー「いいえ、これは現在のフランス国王ルイ13世陛下のお姿です。そして実は貴方様が、本当のフランス国王陛下。この絵の男は偽物。貴方様の双子の兄弟なのです」

ボナシューに作らせた衣装を着せた上で、絵師ルブランに描かせた国王の肖像画を見せる。写真が無い時代ならではの手順を踏みながら、フィリップに自分が国王と同じ顔であることを知らせる。
ミレディーの話し方も、ここから既に「貴方が本当の国王」という刷り込みに入っている。

鉄仮面「目に見える様だな。あのダルタニャンが悔しがっているところが」
御者「剣を抜いて、動くな!開けるぞ!と怒鳴ったところまでは良かったんですがねぇ。その後はがっくりしょんぼり。うひひ…」
ミレディー「ちょっと可哀想だったわね、ダルタニャン」
御者「おや、珍しい。ミレディー様、惚れてたんですか、ダルタニャンに」
ミレディー「つまらないこと言ってないで、もうお行き!」
鉄仮面「消えろ!(酒瓶を投げて渡す)」
御者「へへ、どうも失礼します」

夜のアジトにてワインを飲みながら、ダルタニャンを欺いた件を肴に談笑する鉄仮面一味。
ダルタニャンに同情するようなミレディーの言葉に対し、冷やかす御者と、苛立ったかのように声を荒げる鉄仮面と、何とも印象深いシーンだ。
それにしても、仲間内で寛いでいる時でもマスクを外さない鉄仮面は異様過ぎる。どうやってワインを飲んでいるのだろうか…。

フランソワ「やぁフィリップ、門を開けに来てくれたのかい?」

フィリップの回想シーンより。幼いフィリップが屋敷から出ようしたところを呼び止めたセリフ。
青年時代のフランソワは、これがデビューとなる子安武人さんの初々しい声も相まって、どこかダルタニャンと似た雰囲気。

ミレディー「貴方様の家庭教師フランソワは剣術・馬術・数学、そして天文学の初歩まで、全てを貴方様にマスターさせました。ただ一つ、近い過去の、そして今のフランスの歴史だけを除いて」
フィリップ「彼は私の唯一の、そして最高の友だった…」

フランソワについて語る2人。ミレディーの言葉からして、フランソワは文武共に長けた人物だったらしい。
そしてフィリップにとっては「友」であると同時に長い時を共に過ごしてきた、限り無く「家族」に近い存在だったのかもしれない。

ミレディー「双子の王子の一人が、この様に閉じ込められ、闇の中へ葬られてもよいのでしょうか」
フィリップ「私は…私なら、その様なことはしないだろう!」
ミレディー「しかし、今の国王陛下はそれをなさったのです。重い、そして冷たいこの仮面を着けたまま一生を終るつもりですか?このフランスは陛下の物なのです!」
フィリップ「なぜだ!なぜ双子の兄弟が、助け合って生きてはいけないのだ!」

国王の非道ぶりを熱弁するミレディーと、それに煽られるように嘆くフィリップ。
視聴者の目線ではミレディーがフィリップを利用していると分かっているためか、いささか芝居っ気が過剰な気もする。

ミレディー「陛下、フランスの人民は新しい真(まこと)王を待ち望んでいます。無駄な戦いを止めさせ、重い税金に苦しむ人民を救えるのは陛下だけでございます」

畳みかけるように国王摩り替わりを、否、この流れだと「偽国王の排除と、真の国王の復活」を呼び掛けるミレディー。
生まれて以来、外の世界を全く見ていないフィリップにとっては、フランスの政治だの人民だの言われても戸惑うばかりだと思うけど。

リシュリュー「お前も忙しいだろう。自分の別荘だ、案内はせずともよい」

園遊会場の改装状況を視察するリシュリュー。「自分の別荘」が、陰謀の舞台へと作り変えられたことなど知る由も無し。案内役のマンソンは、リシュリューの言葉に不敵な笑みを浮かべる。


■Next Episode ~次回予告~■

鉄仮面「私、鉄仮面は予告する!リシュリュー園遊会に、必ず現れるとな!
ダルタニャン!三銃士の諸君!せいぜい張り切って待っているがよい!
君たちは頑張れば頑張るほど我々の罠に落ちてゆくのだ!フハハハハ!
次回『アニメ三銃士』《すりかえられた国王》。獲物はフランスの王座だ!

満を持して次回予告に鉄仮面が登場。
しかも「予告する!」と前置きしてダルタニャンと三銃士、そして視聴者に向けてフランスの王座を狙うと自信満々に宣言する。まさに鉄仮面の独壇場だ。


■Mousquetaires Journey ~三銃士紀行~■
前回に続きフォンテンブロー宮を紹介。この宮殿はフランソア1世・アンリ2世・アンリ4世など、歴代の多くの王が増築を重ねてきたという。そしてルイ14世はこの宮殿で、ラ・ヴァリエールとの有名な恋の花を咲かせたと解説されている。
パリから近いことから観光客や、森中の岩山で登山訓練をする人もいて、パリの人々の安らぎの場でもあると紹介されている。


(記:2013年5月21日/追記:2020年04月29日)