アニメ三銃士

1話:象のいるパリ

■放送日:1987年10月9日 / 演出:湯山邦彦 / 作画監督:辻初樹

■Story■
舞台は17世紀のフランス。ガスコーニュに住む下級貴族の息子・ダルタニャンは、領主の息子・ジョルジュと象の噂をめぐって大喧嘩をする。そして本物の象を求めて、祖父母に見送られパリへと旅立つ。
ダルタニャンがパリについた頃。街の広場では人形売りの少年・はだしのジャンが象にコショウをかけて暴れさせ、大騒ぎになっていた。それを聞きつけたダルタニャンは広場へ急ぐが、その途中で一人の美少女にぶつかってしまう。彼女は持っていた人形の腕が折れてしまったと怒るが、ダルタニャンは彼女に一目惚れしてしまう。

ダルタニャンが広場に着いた時には、象は既にいなくなっていた。自分が象を追い払ったと言う少年・ジャンに、ダルタニャンは憤る。その直後、象使いの飼い猿にジャンの財布が奪われてしまう。ダルタニャンはジャンと共に猿を追いパリの街中を疾走する。やがて二人は猿を木の上に追い詰める。そこへ通りかかった謎の美女・ミレディーが笛の音で猿を操り、木から降ろさせた。だが、財布は既に空になっていた。
そしてダルタニャンも、いつの間にか有り金をすられていたことに気づく。パリに来た早々、自分の不運に落ち込むダルタニャン。しかし、川へ水浴びをしている象を見て、その大きさに感動するのだった。


■Explanation■
「随分とコミカルな雰囲気だなぁ…」というのが、1987年10月9日に『アニメ三銃士』の1話をリアルタイムで観た、僕の率直な感想だったりする。冒頭のジョルジュとのケンカといい、コンスタンスとの出会いといい、ジャンと一緒に猿のペペを追いかける様子といい。個人的には「歴史モノ」らしく、もっとシリアスな内容(後の鉄仮面編のような)を予想していたので、かなり意表を突かれた気分だった。


我が孫の旅立ちを温かく見守るヴィクトールとカトリーヌ。ここで言及されるダルタニャンの父親は、元銃士でトレビル隊長とも仲間同士、戦争の傷が元で死んでいなかったら銃士隊長に出世していただろうという。
それだけの人物にも関わらず、この後は一切触れられなくなるのは残念。ありがちだけど「死んだのはリシュリュー(または鉄仮面)の陰謀によって」とか「新人銃士だった頃のアトスを鍛えていた」なんて因縁があっても良かったんだけど。


パリの細道でボーイ・ミーツ・ガールを果たすダルタニャンとコンスタンス。もっともコンスタンスにとっては馬でぶつかられた上、せっかく買ったジャンの人形を壊されてしまうという最悪の出会いなんだけど。
別れ際、また会おうと言うダルタニャンに「ベーッ!」をするコンスタンス。コミカル過ぎて、ロマンスの欠片も無いなぁ。


もう一つの出会いは、全編を通した宿敵となるミレディー。この時点では「街角で出会った、ミステリアスだけど親切な女性」といったところ。この時のミレディーは、どうしてダルタニャン(この時はまだ「財布を猿に盗られて困っている少年」だけど)を助けたんだろう?
この先「悪女」として描かれるミレディーの、一人の女性としての優しさが垣間見られるレアシーン。にも関わらずダルタニャンは、コンスタンスに対して抱いた想いを、ミレディーには抱かなかった。この時点で既に、ダルタニャンとミレディーの運命は決まっていたのかもしれない。


最後にトリビアを一つ。エンディングのキャストクレジットによると、90年代の声優ブームの立役者となる林原めぐみさんが出演していた(役名表示は無し)。林原さんは同年5月に放送されたパイロット版『鉄仮面を追え』では酒場で働くシャルメーンという女性キャラ役(しかもアラミスの「彼女」だぞ!)でに続いての出演。
アニメ三銃士』には他にも、子安武人さんや辻谷耕史さんや立木文彦さんなど、90年代に活躍する声優さんがが何人も端役で出演している。その中でも最大のスターである林原さんが役名無し(しかも、どこにに出ているか聴き取れなかった)で出演していたなんて驚きだ。


■Dialogue/Monologue■

ダルタニャン「だから俺、ダルタニャン家の名誉のために戦ったんだ!
今はこんな貧乏してるけど、死んだ父さんはちゃんとした貴族だったんだろ!」

ジョルジュのケンカについて、ダルタニャンが祖父に言ったセリフ。象を巡るケンカとはいえ、ダルタニャンにとっては貴族としての意地と名誉をかけた戦いだった。
ところで「ダルタニャン」というのは名字(ファミリーネーム)らしいけど、ダルタニャンの下の名前は何なんだろう?

ヴィクトール「ワシもあと10年若かったら、バアちゃんなんかうっちゃって、パリに出てゆくんだがな」

これを聞いた僕は「バアちゃんを人買いに売り飛ばして〜」という意味に取ってしまい、「酷いジイちゃんだな」とか思っていました。

ダルタニャン「ゴメンゴメン、怪我は無かった?」
コンスタンス「大有りよ、腕が折れちゃったじゃない!」
ダルタニャン「ムフフ、パリの女の子って刺激的」

ダルタニャンの、ひいては物語の行く末を決めたボーイ・ミーツ・ガールの巻。こんな二人が、特にコンスタンスが、あんなにラブラブになるとは誰が想像しただろうか。

ジャン「貴族なんて、農民をいじめて贅沢しているだけじゃないか!」
ジャン「じゃあ、なんでおいらの父ちゃんは死んだのさ!」

戦争によって父を失ったというジャンが、会ったばかりのダルタニャンに貴族への憤りをぶつけるシーン。
ジャンの根底には「貴族への反発心」という、他のキャラには無い負の感情が渦巻いている、それは本編の端々に現れ、明るい作風にも暗い影を落としている。


■Next Episode ~次回予告~■

ジャン「俺、はだしのジャン。
これからね、オイラが住んでるパリをカメラで訪ねるコーナーが始まるよ。
それから次回の『アニメ三銃士』は、ダルタニャンが就職活動を始めるんだ。
そのために俺たちはヘンテコな事件に巻き込まれちゃうんだけど…。
じゃあ、続けて観てね!よ・ろ・し・く・ジャーン!」

記念すべき第1話の次回予告はジャンが担当。
この後にオンエアされる『三銃士紀行』と2話の内容を紹介。ダルタニャンが仕官を目指す話を「就職活動」とは、現代的で世知辛い表現だ。
なお映像は2話ではなくパイロット版を使用。ジャンお手製の「木製自転車」にダルタニャンが乗るも…という、本編とは一味違ったコミカルなもの。


■Mousquetaires Journey ~三銃士紀行~■
第1話に相応しく、パリの名所であるノートルダム寺院ルーブル美術館、リュクサンブール宮殿、ヴォー・ル・ビコントの館を次々に紹介。
「原作小説ではダルタニャンの下宿はリュクサンブール宮殿の近くに設定されている」というトリビアも。
またヴォー・ル・ビコントの館について「第3部では鉄仮面が大陰謀を展開する」と、物語的にはずっと先に登場する鉄仮面を出して紹介しているのも興味深い。


(記:2012年5月22日/追記:2020年03月07日)