アニメ三銃士

鉄仮面を追え

(放送日:1987年5月5日 / 監督:湯山邦彦 / 作画:辻初樹 / 脚本:ジャック・プロダクション、田波靖男

■Story■
舞台は17世紀のパリ。そこでは謎の怪人「鉄仮面」が、夜な夜な街を荒らしまわっていた。
銃士隊員のダルタニャンと三銃士(アトス、アラミス、ポルトス)は鉄仮面を捕らえるべく、二手に分かれて夜をパトロールを行う。
ダルタニャンはアラミスと行動を共にするが、アラミスは途中で馴染みの娘・シャルメーンの働く酒場に立ち寄る。ダルタニャンがアラミスを残して独りパトロールしていると、路地裏で鉄仮面に遭遇する。


鉄仮面を追いかけたダルタニャンは、セーヌ川岸にある小屋に入る。しかし、仕掛けに引っかかり落ちてきた鍋や瓶を頭に受け気絶してしまう。
ダルタニャンが目を覚ますと、そこには三銃士と、小屋の主である少年・はだしのジャンがいた。ダルタニャンは勝手に小屋に入ったことをジャンに謝り、鉄仮面のことを見聞きしたら教えてもらうよう頼む。


ある朝、ダルタニャンの下宿先である仕立て屋ボナシュー宅に、コンスタンスがやってきた。
アンヌ王妃の侍女を務めるコンスタンスは、もうすぐ行われる園遊会で国王ルイ13世が着る服のデザイン画を持ってきたのだ。


一方、フランスの総理大臣・リシュリュー園遊会で王妃とスペイン大使の密会を仕立て、それを機に王妃の追放とスペイン侵攻を国王に進言しようと目論んでいた。
それを聞いた手先のミレディーは、国王を意のままにする確実な計画があることを仄めかし、そのためには国王の園遊会の服装を知りたいと言い出す。


ボナシュー宅からルーブル宮殿に戻る途中、コンスタンスは何者かに馬車でさらわれてしまう。同行していたジャンが馬車に追うと、中には鉄仮面の姿があった。ジャンは馬車を追いかけ続けるが、ミレディーが操るネズミの群れに阻まれてしまう。
それを知ったダルタニャンは、現場に残されていたハンカチを愛馬ロシナンテに嗅がせ、コンスタンスの居場所を探させる。さらにアラミスに連れられたシャルメーンからの情報で、人買いが鉄仮面からコンスタンスと思しき女性を譲り受けたことを知る。
ダルタニャンはセーヌ川に浮かぶ人買いの船に乗り込み、コンスタンスを救出する。しかし、コンスタンスが持っていた、国王の服のデザイン画は鉄仮面に奪われていた。


園遊会の夜。ダルタニャンは三銃士やジャンと共に、会場を見張っていた。そんな時、ミレディーは国王に近づき、王妃の使いだと偽り庭園の迷路に誘い出し、仕掛けを使い護衛のポルトスと引き離してから地下室に落としてしまう。
地下室で国王を待っていたのは、鉄仮面だった。鉄仮面は国王と同じ衣装を着込み、さらに自らマスクを外すと、その顔は国王と瓜二つだった。
鉄仮面は、自分は国王の双子の兄であり、フランスの真の国王であることを告げると、国王に鉄仮面を被せてしまう。そして国王に成りすまし園遊会に戻り、リシュリューが提案するスペイン侵攻を許可するのだった。


一方、ダルタニャンは国王を探すうち、庭園の迷路に入る。そして偶然ジャンが仕掛けを動かしたため、地下室に落ちてしまう。そこで鉄仮面を被せられた国王を見つけ、鉄仮面として逮捕してしまう。
ダルタニャンと三銃士は、捕まえた鉄仮面を広間へと連行した。国王は鉄仮面を即刻処刑するよう命じる。しかし、鉄仮面が暴れだし国王に掴みかかる。それを征しようとしたポルトスの一撃により、鉄仮面のマスクが外れ、中から国王の顔が現れた。
全く同じ顔をした二人の国王は、互いに自分こそ国王だと言い張る。皆が対応に苦慮しているところに、アトスが割って入る。
アトスは有事に備えて、本物の国王の服には目印として、袖に王妃の指輪が縫い付けてあると言い出す。それを聞きくや、鉄仮面が扮していた国王は窓から飛び出し、ミレディーの用意した馬に乗って逃げていった。
慌てて追いかけようとしたダルタニャンたちだったが、国王が敢えて見逃すように命じる。


そしてアトスは、目印の話は偽者を暴くための方便だったと明かす。国王はアトスの機転を褒めるが、アトスは国王を救い出したダルタニャンこそが一番のお手柄だと言う。
こうして鉄仮面による国王すり替えの陰謀は阻止され、ダルタニャンたちは高らかに笑いあうのであった。




■Explanation■
本作の正式タイトルは『鉄仮面を追え「ダルタニャン物語」より』。テレビシリーズ『アニメ三銃士』のパイロット版として製作され、1987年5月5日に「こどもの日アニメスペシャル」として放送されました。
本作の存在をテレビシリーズの放送開始後に知ったファンも多く(僕もその一人)、再放送やビデオソフト化の希望も高かったものの実現せず、長らく「幻の作品」となっていました。しかし、2003年のDVDボックス化にあたり初のソフト化。めでたく陽の目を見ることとなりました。


内容は「鉄仮面編」のダイジェスト的な構成。とは言え、テレビシリーズを観直した後で本作を観ると、やっぱり設定の違いが目に付いたり、逆にテレビシリーズに繋がる設定を探してみたり。マニアックな見所が随所に存在します。
以下、ストーリーを追う形で諸々書き出してみます。


まずは我らが主人公・ダルタニャンについて。既に銃士隊員になっており、三銃士やコンスタンスとの関係も構築済み。本作でジャンと出会うことを除けば、テレビシリーズの「鉄仮面編」の状態とほぼ同じ設定。
しかし、最も大きな違いはキャスティング。テレビシリーズでは松田辰也さんが演じていたのに対して、本作では古川登志夫さんが演じています。古川さんは声優としてのキャリアが(1987年当時の時点でも)豊富だっただめ、演技にもメリハリがあって、ダルタニャンの熱血ぶりやお調子者ぶりが強調されていた感じ。


続いては、テレビシリーズでは「男装の麗人」として話題となったアラミスについて。キャラクターデザインを務めた辻初樹さんはアラミスについて「パイロット版の時点では男か女か決めてなかった」とコメントしているけど(テレビシリーズ終了後の記事より)、即ち原作小説準拠で男性と設定されている模様。
しかもパトロールをサボって、もとい「パトロール前の気付け」として酒場に行き、馴染みの娘・シャルメーンに声をかけるプレイボーイとして描かれてる。本作に登場した中では後述の鉄仮面と同じ位、正反対の設定が成されたキャラクターと言える。


そしてアラミスの「ガールフレンド」という設定ゆえに、アラミスが女性に設定変更されたテレビシリーズでは存在を抹消されてしまったシャルメーンについて。演じていたのは90年代に「アイドル声優の代表」として大ブレイクする林原めぐみさん。当時はデビュー直後で、『めぞん一刻』の番組レギュラー(特定の持ち役の無い端役担当)をやっていた頃かな。声も初々しくて、パッと聴いただけでは林原さんとは分からないかも。
酒場の娘ということで、テレビシリーズで言うところのボナシューやマルトーやコレットのような「パリの庶民」というポジション。しかも様々な人が集う酒場にいるキャラということで、本作で鉄仮面の情報を知らせたように、テレビシリーズに登場すれば「情報屋さん」として活躍してくれたかもしれないし、陽気なキャラクター故にアラミスやコンスタンスに並ぶヒロインとして人気を博していたかもしれない。


本作でダルタニャンと出会いを果たすのがジャン。最初こそダルタニャンが勝手にジャンの小屋に入り、仕掛けを食らって気絶したり。ジャンが貴族への悪感情をダルタニャンにぶつけたり、お世辞にも良い出会いとは言えなかったけど。そこは子供ならではの素直さで、ジャンはダルタニャンと仲良しに。更にはコンスタンスや三銃士と行動を共にするようになり、ついには国王や貴族が居並ぶ園遊会にも顔を出すようになる。それも、クマ(?)の着ぐるみという、何とも可愛らしい姿で。
ジャンは原作小説には登場しない、アニメオリジナルのキャラクター。しかもメインターゲットであるキッズ層にアピールするためのキャラクターと思われるので、登場させたのは一種の挑戦だったかも。そして視聴者の好評を得たのか、テレビシリーズにも登場して、ダルタニャンに次ぐ準主役級の活躍を果たすことになる。


他にもコピーの「王妃の話を記憶してリシュリューに伝える」やロシナンテの「犬以上に鼻が効く」という、オリジナルの動物キャラの特技や役割も本作の時点から。そのままテレビシリーズに用いられたのだから、好評だったことが窺える。


さて、本作のメインである鉄仮面について。陰謀の進め方は、まず園遊会に向けて国王の衣装を調べ、そして園遊会当日に仕掛けを使って国王を連れ込んで「すり替え」を実行。ここに幾つかの手順を加える形で、後のテレビシリーズにも流用されている。
本作独自の展開が、衣装のデザイン画を狙った鉄仮面にコンスタンスが攫われるというもの。それを「主人公が攫われたヒロインを救出する」という鉄板の展開に織り込んでいるのは構成の妙だ。


しかし、テレビシリーズと全く異なるのが鉄仮面の正体。テレビシリーズでは最後まで素顔も正体は描かれず(言うなれば「国王すり替えを企む悪人」という極めて記号的なキャラ)、国王の双子の兄弟であるフィリップを攫った上に騙してすり替えに利用していた。しかし本作の鉄仮面は、本人曰く「双子の兄」。つまりフィリップにあたる人物本人が鉄仮面の正体となっていた。
国王と全く同じ顔ながら、醜く表情を歪ませ、国王への憎悪と王座への欲望をむき出しにする。悪役としてはテレビシリーズの鉄仮面以上のインパクトを感じてしまう。


クライマックスは広間で繰り広げられる、ダルタニャンに捕まえられて連行されたニセ鉄仮面こと国王と、ニセ国王こと鉄仮面のやり取り。ニセ鉄仮面が暴れたのが切っ掛けで、あっさりと仮面が割れて中から素顔が出てきてしまう(テレビシリーズでは口の錠が壊れただけで、すぐ気絶する)。
互いに「自分が本物だ!」と言い合う定番の展開を経て、アトスが機転を効かせた結果、本物の鉄仮面がボロを出して逃げ出す。そして本物の国王が鉄仮面を見逃すような形で、物語はひとまず幕を下ろす。
この辺は何ともコミカルな雰囲気で、かつ悪役(鉄仮面)をわざと逃がすというのは中途半端な感じ。とは言え、国王が双子の兄を断罪して終わるのもドラマ的には重すぎるし。パイロット版の短い枠内では適切な落とし所なのかも。それを考慮したのか、テレビシリーズでは鉄仮面とフィリップが別々になって、鉄仮面(と追加されたマンソン)が、より分かりやすい悪役として設定された。


忘れちゃいけないのがミレディーについて。実は本作では、ダルタニャンたちとは対峙する事無く終わっている。強いてあげれば園遊会場を望遠鏡で監視していたアトスが、ミレディーの姿を見て怪しむくらい。
原作小説ではアトスとミレディーは「元夫婦」という驚愕の設定になっていて、当時のアニメ情報誌での紹介記事(あくまでもパイロット版で、テレビシリーズではない)でも、両者は元夫婦だと記載されていた。でも、本作でのミレディーの描写は少なめで、表向きはリシュリューの手下だけど、実は鉄仮面と通じているという位置づけ。リシュリューの問いかけに訳有りげな答えを返したり、ネズミの大群を操って鉄仮面の逃走を助けたり、園遊会で言葉巧みに国王を誘い出したり、登場する度に妖しい魅力を出していた。
本作での活躍が好評だったのか、あるいは「もっと彼女の活躍が観たい!」という声が挙がったのか。ミレディーがテレビシリーズでは全編に渡って暗躍することになったのはご存知の通り。


・・・・・・と、パイロット版について色々と書いてみました。
本作単体では、あくまでも「30分弱のパイロット版」であり、内容的にも中途半端な感も否めない。でも、本作が土台となった結果、テレビシリーズ全52話が存在しているのも確か。テレビシリーズを観た後で本作を観直すと、テレビシリーズに繋がる「原点」を逆算するように探し出したり。あるいはテレビシリーズとの違いから、スタッフの意図をあれこれと推測したり。よりマニアックな楽しみ方ができる一作です。


■Dialogue/Monologue■

ポルトス「夕べは辻音楽師の親子から、一日の稼ぎを奪ったそうだ」
ダルタニャン「鉄仮面め!これ以上、奴をのさばらせておくものか!」

パイロット版におけるダルタニャンの第一声。鉄仮面への怒りも相まって、熱血ぶりが強調されている。

ダルタニャン「アラミス、こんな所をいくらパトロールしたって、鉄仮面は出やしないぜ」
アラミス「どっちにしろ、時間はまだ早い。気付けに一杯引っ掛けて行こうじゃないか。なぁ、ダルタニャン」

任務の事もそこそこに、ダルタニャンを酒場に誘うアラミス。このシーンひとつとっても、テレビシリーズと全く異なるアラミスのキャラクターが垣間見れる。

シャルメーン「アラミス、いらっしゃい!」
アラミス「席を二つ頼む、シャルメーン」
シャルメーン「二人だって?アンタ一人しかいないじゃない」
(後ろを振り返って)
アラミス「・・・・・・まったく、ダルタニャンときたら」
(路地を一人で歩きながら)
ダルタニャン「まったく、アラミスときたら、あれでやる気あるのかい」

店に入るなり、シャルメーンに帽子を投げ渡して、彼女が駆け寄ってくると抱き上げるアラミス。
本作でしか観られないキザでプレイボーイな様子にあきれるように、ダルタニャンは独りで夜道をパトロールする。

ポルトス「気がついたか?」
ダルタニャン「あ、あぁ・・・・・・」
アラミス「俺と一緒に飲んでいたら、こんなことにならなかったのに」

鉄仮面の隠れ家と思しき小屋に踏み込むも、仕掛けを食らって気絶したダルタニャン。
ポルトスに水をかけられて目を覚ますが、アラミスが一緒にパトロールしてくれたらこんな目に遭わなかったのかも。

ダルタニャン「お前の名は?」
ジャン「ジャン!みんなは"はだしのジャン"って呼んでるけどな!」
ダルタニャン「親はいないのか?」
ジャン「・・・・・・戦争の巻き添え食って死んじゃったよ、アンタたち貴族の兵隊にね!」
ダルタニャン「そうか・・・・・・可哀相に・・・・・・」
ジャン「同情なんていらねぇよ!」

親を失い独り暮らしをしているジャン。その境遇を同情するダルタニャンだったが、ジャンは相手が貴族(銃士)ということで露骨に反発する。でも・・・・・・。

ダルタニャン「ジャン、確かに勝手に入った俺が悪かった。許してくれ」
ジャン「そういう素直な態度、好きだなぁ」
ダルタニャン「その代わり、鉄仮面のことで何か聞いたら、すぐに知らせるんだぞ」
ジャン「あぁ、任せとけ!」

ダルタニャンが自分の非を認めて謝ると、ジャンとは直ぐに仲直り。それどころか、鉄仮面の逮捕に協力する仲間にしてしまう。ジャンの言うとおり、何とも素直で微笑ましい2人。

コンスタンス「ダルタニャン、いいかげん起きたら?」
ダルタニャン「うるさいなぁ、休みの日ぐらいゆっくり寝させてくれよ」
コンスタンス「・・・・・・いいお天気なのに・・・・・・(部屋から去る)」
ダルタニャン「・・・・・・コンスタンス!(飛び起きて)」

銃士だって人の子。休みの朝ぐらいゆっくりしていたいし、起こしにきた相手を生返事で追い返してしまうのも仕方ない。
でも、その相手が愛しいコンスタンスだと分かったら話は別。大慌てで部屋を飛び出すダルタニャンでした。

コンスタンス「おはよう、ダルタニャン」
ダルタニャン「よっと!(飛び起きて)ボンジュール!コンスタンス」
(コンスタンスの手の甲にキス)
コンスタンス「ダルタニャン、いけないわ!」

コンスタンスを追って階段から転げ落ちたダルタニャン。
愛しいコンスタンスに声をかけられるや、痛がるのもそこそこに飛び起きてフランス語でご挨拶して手にキス。テレビシリーズ以上のお調子者ぶりが現れている。

アンヌ「陛下、今度の園遊会は不吉な予感がしてなりません」
ルイ「リシュリューが何か企んでいると申すのか?」
アンヌ「園遊会にかこつけて、私の母国スペインに戦争を仕掛けるよう、陛下に働きかけるのではないでしょうか」

本作でもテレビシリーズと同様、アンヌ王妃を政敵として追放を企むリシュリュー。何やら陰謀を巡らしていることを察した王妃は国王に相談するが・・・・・・。
この会話を傍らにいた鳥のコピーが記憶して、リシュリューに報告しているのもお約束。

リシュリュー「準備は全て整った。後は園遊会を待つばかりか」

園遊会の会場である自らの別荘にて、準備を終えたという陰謀に思いを巡らすリシュリュー
このセリフだけを聞くと、リシュリューが鉄仮面を操っている黒幕みたいだ。

ミレディー「そんな手間のかかることでなく、もっと良い方法がありますわ。陛下が意のままになるような」
リシュリュー「その方法とは?」
ミレディー「ヒ、ミ、ツ、・・・・・・でも一つだけ知りたいことがございます」
リシュリュー「何だ?」
ミレディー「園遊会当日の、陛下の服装でございます」

リシュリューの陰謀は「庭園の迷路に王妃とスペイン大使を誘い込んで密会を仕立て、その現場を国王に見せる」という回りくどいもの。
それに対して手下のミレディーは、もっと良い方法があることを仄めかすが・・・・・・。
ミレディーの「ヒ、ミ、ツ」というセリフが何とも色っぽい。

コンスタンス「わざわざ送ってくれてありがとう」
ダルタニャン「もう行くのかい、王宮まで送っていくよ」
コンスタンス「そんなことをしたら、たちまち宮廷中の噂になってしまうわ」
ダルタニャン「いいじゃないか」
コンスタンス「ダメ、(ジャンに向かって)お願いするわね」
ジャン「うん!」
ダルタニャン「ちぇっ!子供はいいよなぁ」

王宮まで送ろうとするダルタニャンだったが、コンスタンスの方は噂になるのを気にして断ってしまう。何とも初々しい2人の姿。
ジャンはダルタニャンだけでなく、コンスタンスとも仲良しになった模様。

ダルタニャン「おいこらロシナンテ!主人の俺だって我慢してるのに、お前が着いて行くことないじゃないか!」

ダルタニャンが止めるのも利かず、王宮へ向かうコンスタンス(とジャン)の後を追うロシナンテ
これだけ見ると、主人に劣らぬお調子者のように思えるけど・・・・・・。

ダルタニャン「(コンスタンスのハンカチを嗅がせて)ロシナンテ、頼むぞ!」
ジャン「何やってるの?」
ダルタニャン「このロシナンテはね、犬よりも鼻が利くんだ」
ジャン「うっそー!」

ロシナンテの馬離れした特技を聞かされて、驚きと疑いの声を上げるジャン。視聴者の皆も同じ気持ちだったけど、それが本当だったりする。

アラミス「耳寄りな情報だ。おい、シャルメーン」
シャルメーン「さっき店に来たゴロツキに聞いたんだけどね、鉄仮面から別嬪の上玉を譲られた奴がいるんだって」

ロシナンテの鼻を頼りにセーヌの川辺に来たダルタニャン。手掛かりが途絶えたかに思えたが、シャルメーンが持ち込んだ情報により事態は急転する。
テレビシリーズしか知らない人からは「アラミスの彼女」としてネタキャラ扱いされるシャルメーンだけど、実は重要な役割を果たしていたのだ。

ダルタニャン「コンスタンス、迎えに来たよ。もう大丈夫」

人買いの船に乗り込んで、無事にコンスタンスを救い出すダルタニャン。
変な顔で人買いを驚かして川に落とすなど、格好良さとコミカルさを織り交ぜた活躍を見せる。

アトス「・・・・・・おや、あの女は?」

園遊会の夜。アトスが会場を望遠鏡で見張っていると、覆面をつけた謎の女性を見つける。
まるでその女性、ミレディーの事を知っているかのような怪しみ方。劇中では描かれなかったけど、本作でのアトスとミレディーは、原作小説準拠で「元夫婦」という設定だったのかもしれない。

鉄仮面「ようこそルイ、待ちかねたぞ」
ルイ「お前は誰だ?」
鉄仮面「余はフランス国王ルイ13世だ」
ルイ「何!」
鉄仮面「よく見るが良い!」
(マントと仮面を外して)
鉄仮面「私こそフランスの真の国王。お前は今まで私から王位を奪っていた偽者だ」

地下の隠し部屋に落とされた国王の前に現れたのは、何と鉄仮面。
それだけでも驚きなのに、仮面の下の素顔は国王と全く同じ。しかも自らを「真の国王」と名乗る衝撃のシーン。

鉄仮面「よく聞けルイ。私はお前の双子の兄なのだ。正しい世継ぎが、失われた王冠を取り戻すときが来たのだ!」
ルイ「デタラメだ!私に双子の兄などいない!」
鉄仮面「ほざくな!」
(ルイの仮面の錠を締めて)
鉄仮面「もうお前の口は聞けぬ。お前は今からお尋ね者の鉄仮面だ」

自らを「正しい国王」と称するだけでなく、王座への欲望と、「弟」であるはずの国王への憎悪を剥き出しにする鉄仮面。一体どんな半生を歩んで、どんな経緯があって、鉄仮面となり今回の陰謀を起こすに至ったのか。
少なくともフィリップにとってのフランソワのような、良き師良き友には出会えなかったのだろう。

リシュリュー「陛下、そろそろスペインとの戦争に備えて、軍備を充実する時と存じますが」
ルイ(鉄仮面)「その件はそちに任す。良きに計らえ」
リシュリュー「おおっ!それはそれは、かたじけいことで。しかし、王妃様が反対されるのでは?」
ルイ(鉄仮面)「反対したら、修道院に押し込めてしまえないい」

国王とすり替わって園遊会に戻った鉄仮面。無気力な態度を装い、リシュリューの提案をあっさり認めてしまう。
しかし、会話の最後には口元を歪ませ、不敵な笑みを浮かべる。まるでリシュリューに向けて「お前も王妃と共に追放してやるぞ」と言わんばかりに。

鉄仮面の手下「何者だ!」
ダルタニャン「いや失礼、地面が急に・・・・・・ん?」
(奥に鉄仮面の姿を見つけて)
ダルタニャン「鉄仮面!こんな所に隠れていたのか!もう逃がさないぞ!」

偶然にも地下の隠し部屋に入ってしまったダルタニャン。
存在自体が怪しい部屋で、どう見ても怪しい手下たちを目の当たりにしても、ダルタニャンは律儀に謝って挨拶してしまう。しかし、部屋の奥に鉄仮面(国王)の姿を見つけるや一変するのはさすが。

ルイ(本物)「皆の物、余がルイ13世だ!そこにいるのは偽者だ!」
ルイ(鉄仮面)「何を申す!余が本物の国王だ!曲者を捕らえよ!」
ダルタニャン「と言われても、どっちがどっちやら」

ここからは、後のテレビシリーズと全く異なる急展開。国王の前で鉄仮面の仮面が外れて、国王と同じ顔が2人も現れる。
ソックリさん2人による「自分が本物だ!」と言い合う、定番シチュエーション。ダルタニャンのみならず、一同揃って対応に悩むばかり。
テレビシリーズでもこんな展開になっていたら、一体どうなっていたのやら。

アトス「お待ち下さい。ここは私に」
リシュリュー「アトス、何か考えがあるのか?」
アトス「本物の陛下の服には、袖の裏に王妃様の真珠の指輪が縫い付けてございます」
リシュリュー「何!それは真か!」
アトス「はい、今朝、お召し替えの前に、こんなこともあろうかと、私がこっそり付けさせておいたものです」
ルイ(鉄仮面)「・・・・・・ちっ、しくじったか・・・・・・」

こちらも定番シチュエーションの「こんなこともあろうかと」。
衣装のデザイン画が盗まれた時点で、ニセ国王が現れるかもしれないと考えて、策を講じていたのか!
うわー、さすがは、アトスだ(棒読み)。

アトス「馬引けぇーっ!逃がすな!」
ルイ「もうよい、追わんでもよい」
ダルタニャン「何故ですか、陛下」
ルイ「奴の言うとおりなら、その胸の内、解らぬでもない」
リシュリュー「陛下、奴の言うこととは」
ルイ「いや、何でもない。余にそっくりだという神の悪戯に免じて、今回だけは許してやろう」

変な所で寛大な面を見せる国王。自分にソックリなだけでなく、「双子の兄」で「真の国王」で「正しい世継ぎ」を名乗る人物を捕まえたとしても、どう対応していいのか思いつかなかったのかも。

リシュリュー「陛下!」
ルイ「何だ」
リシュリュー「高価な真珠の指輪は王妃様に返した方がよろしゅうございましょう!」
ルイ「そうか・・・・・・(袖を探って)無い!」
リシュリュー「では、まさか陛下も!」
ルイ「何を申すか!」
アトス「恐れながら、真珠の指輪など元々付いておりません。あれは偽者が自ら正体を表すよう仕向けるための、私の思いつきでございます」

鉄仮面の陰謀を阻止して一安心しているところに、王妃が現れる。が、その指には「本物の国王の服の袖」に付けられているの指輪があった。それに気付いたリシュリューが慌てて国王に問い質す。
最後にもう一波乱あるかと思いきや、アトスが真相を明かして万事解決。

アトス「第一の手柄は、国王陛下をお救い申し上げたダルタニャンでございます」
ダルタニャン「いや、それ程でも、アレはほんの怪我の功名で・・・・・・ハハハ」
ジャン「ダルタニャンさん、コンスタンスさんの前だからって、そんなに照れること無いじゃん!」

国王を鉄仮面として捕らえたことが、結果的には国王を救った形になったダルタニャン。
アトスから手柄を譲られるように褒められると、遠慮するかのように照れ笑いを浮かべる
釣られるように笑い合う一同の中、リシュリューだけは憮然とした表情を浮かべているのも印象的。


(記:2014年12月27日)